近年、物流需要の高まりによって、物流業界では広範囲にわたり、迅速かつ的確に荷物を届けることが強く求められています。そこで重要視されているのが、大型物流拠点に一旦荷物を集約し、そこから各拠点へと配送する「ハブアンドスポーク」です。
本記事では、ハブアンドスポークの意味や具体例、またメリット・デメリットについて詳しく解説します。
「ハブアンドスポーク」とは、
「ハブ」:自転車やバイクなどのタイヤ軸
「スポーク」:ハブとタイヤの輪を放射状につなぐ棒
という、両者をつなげた言葉です。空港や港に大規模な物流拠点であるハブを設けて、そこから複数の小規模な拠点にスポークを経由して荷物を配送する物流ネットワークシステムを意味します。
ハブアンドスポークを採用しているのは、比較的規模の大きな物流業者が多く、国内全域や、州や県、国境をまたいで配送するといった広範囲にわたる配送業務で大きな効果を発揮します。
例えば、あるエリアを中心として東西南北に4つの物流倉庫があると仮定しましょう。各倉庫にそれぞれの拠点から荷物を届けようとすれば、全部で6つの直結配送ルートを設ける必要があります。ところが、中心エリアに大規模物流拠点を増設したらどうなるでしょう。一旦そこに集められた荷物を、4拠点に届けるだけで済むので、配送ルートが6つから4つに減ることになります。しかもそのルートは総合すると従来よりも短くなるのが、一般的です。
ハブアンドスポークの生みの親であるアメリカのフレッド・スミスが創業した世界最大規模の航空貨物輸送会社「FedEx」を例にとって解説しましょう。
FedExでは、世界最大のスーパーハブをテネシー州メンフィスに設置しており、そのほかにカナダ、中央・南ヨーロッパ、中央・西ヨーロッパ、中東、アジア太平洋地域という具合に世界を複数のエリアに分け、各エリアの主要空港にハブを多数設けています。ちなみに、日本では、成田空港と関西国際空港がFedExのハブとして名を連ねており、海外からの荷物は、この2拠点から日本全域に発送されています。
また、関西国際空港には、北大西洋地区ハブが存在し、北東アジアからの荷物がいったんここに集約された上でアメリカに発送される仕組みになっています。延べ床面積2万5千平方メートルにも及ぶ大規模な施設で、ハブとしての役割を果たすには十分なスペースを有します。ちなみに、同エリアのハブ候補として韓国の仁川空港も名乗りをあげていましたが、アクセスの良さや敷地面積の広さといった諸条件を総合して、優位性の高い関西国際空港に軍配が上がった経緯があります。
このようなハブアンドスポークを世界中に効率よく張り巡らせることにより、FedExは、220を超える国と地域間での配送業務を可能としており、海外でも荷物を最短1日で届けるというハイスペックな物流サービスを実現しているのです。
さらに国内の身近な例を挙げると、クロネコヤマトも、ハブにあたる大規模な配送センターを全国の主要な地域に設置しています。個人や法人から預かった荷物を一旦ハブに集め、そこからスポークを経由して全国の市町村内にある約3,700ヶ所の宅急便センターに配送、そこから各家庭やオフィスに届けています。
もし、預かった荷物を送り先に一つずつ個別に届けるとしたら、天文学的な数の配送ルートを経由する必要があります。そこにかかる時間と手間は想像を絶するスケールになるでしょう。
ハブアンドスポークには大きく、以下の4つのメリットがあります。
ハブアンドスポークを導入すると、各物流拠点間ではなく、ハブから各拠点に配送することになります。よって多くの場合、トラックや航空機による配送距離を短縮することができるため、配送の効率化や以下に述べるトラックドライバーの労働時間短縮、CO2削減といったメリットにもつながります。
物流業界が抱える大変深刻な問題の一つに、トラックドライバーの長時間労働があります。令和2年度の「賃金構造統計調査(厚生労働省)」によると、全産業の平均に比べて大型トラックドライバーの年間労働時間は、432時間も長くなっています。配送距離が短くなれば、ドライバーの労働時間が短縮されるのはもちろん、過重労働による事故リスク軽減も期待できます。
ハブがなければ、各拠点に集まった荷物を、少量ごとに小刻みで発送する必要があるため、トラック1台ごとの積載率がどうしても低くなります。その点、ハブに荷物を集約できれば、より多くの荷物をまとめて一度に積めるため、積載効率は目に見えて向上しドライバーの数も減らせます。
輸送トラックの平均積載率は約40%といわれており、多くのトラックが半分以上のスペースを無駄にして走行していることを考えると、ハブアンドスポークのもたらすメリットは計り知れません。
トラックや航空機の便数と輸送距離が減ると、使用する燃料も少なくて済みます。するとドライバーの人件費に加えて燃料にかかるコストがカットできるだけでなく、CO2削減もはかれます。
物流業界に向けられる脱炭素対策への期待と要望は、国内はもとより世界規模で大きく高まっているため、その具体策として、ハブアンドスポークの導入は、大変有効といえるでしょう。
続いて、ハブアンドスポークが招くデメリットを3つに分けて解説します。
大規模なハブを設置するには、莫大な初期投資が必要となります。例えば前述の関西国際空港におけるFedExの場合、3万8千平方メートルの敷地に2万5千平方メートルの建物を建設しました。このケースでは、関西国際空港が建築してFedExに賃借していますが、それでも初期段階で相当額の費用がかかっていると予想されます。
しかも建物だけでなく、大量の荷物を効率よくかつ適切に仕分けするためのマテハン機器やロボティクス、荷物の数量を予想したり、状況をつぶさに把握、追跡し、紛失を防止したりするIoTやAIなどを活用したデジタル輸送管理システムの導入などにも相当額の投資が必要となるでしょう。さらにそれらを使いこなせる人材の手配や教育にも注力しなくてはなりません。
ハブに大規模災害による停電や建物、設備の破損、通信障害といったアクシデントが発生すると、物流機能の多くを失うことになります。短時間で復旧できればよいですが、長期化すれば配送業務そのものがストップしてしまうため、広範囲で大きな混乱を招く恐れがあります。
ハブと一部の物流拠点との位置関係によっては、従来より配送コストが多くかかったり、配送時間が長引いたりする可能性があります。
例えば元から存在したAとBという物流拠点があるとして、その間の距離が40kmだとします。そこにハブが新設され、ハブとAとの距離が25km、Bとの距離が30kmだとすると、Aにある荷物をハブを経由してBに届ける際の輸送距離は、55kmになります。するとAB間で直接届けた場合の40kmを15km上回ることになるので、費用対効果が下がってしまいます。
ハブアンドスポークは、物流になくてはならない重要な仕組みです。提唱された当初は、その価値がほぼ認められませんでした。しかし今では世界中で広く浸透し、物流なくして成り立たない私たちの日常が、つつがなく維持されているのです。
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