「宅配クライシス」という言葉を耳にしたことはありませんか?これは、2017年頃にヤマト運輸のドライバーへの未払残業問題を契機に日本中で一躍注目を集めた言葉です。端的に言えば、ECサイトの利用拡大、人手不足によって引き起こされる物流業界の問題を指します。ここでは宅配クライシスとはなにか、またその解決策(の一部)について紹介します。
宅配クライシスとは、EC市場の急成長によりラストワンマイルが混乱し、ドライバーの過剰労働や人員不足により現状のサービス品質が維持できなくなることです。
ここでは宅配クライシスと今後の課題、解決策、更には今後の展望について解説していきます。
まず、はじめに宅配クライシスはなぜ起きたのか?起きるのか?ということを説明していきます。
宅配クライシスの本質的な発生原因は、一言でいうと、EC市場の急成長です。
そして、このEC市場の急成長が従来の物流業界に与えた影響が物流クライシスを招いています。
配達個数の激増と宅配クライシスは密接に関係しております。
2005年時点で30億個だった宅配貨物が2020年には40億個を突破し2025年にはほぼ確実に50億個を突破すると言われております。
2021年(令和3年)の国土交通省の報告では以下のように指摘されています。
令和2年度の宅配便取扱個数は、48億3647万個で、前年度と比較して5億1298万個・約11.9%の増加となった。
細かい数字は資料によって異なりますが、30億個だった国内宅配貨物がこの15年間で少なくとも150%増の45億個程度になっているということが分かります。こうした需要過多の状態はある程度は見通すことはできましたが、物流業界の設備投資は1~2年で投資できるものではありません。それも全国全体への設備再編となれば数年~数十年のプロジェクトになり、また、下のような要因が複雑に絡み合って物流業界はわかっていながら宅配クライシスに直面することになりました。
その結果として収益性を高めることができないまま、設備投資も間に合わず、現場の人員に過剰に負担をかけることになり、「残業問題」という名前で危機が認識されることになりました。
ちなみに、送料無料問題が宅配クライシスの原因のように説明されることがありますが、配送会社が無料で配送をしているわけではなく、事業者側が負担している構造なので間接的には関係がありますが、直接的な原因として説明されることには少し違和感があります。
次にEC物流の性質が宅配クライシスにつながった事例を見てみましょう。EC物流はそれ以外の物流と違って物流機能が最後の顧客接点になり、物流側が顧客対応の一部を代行することになります。その結果、現場のドライバーへ次のようの負担が増加することになります。
ECの利用者は今ではごくごく一般的になりましたが、当初は平日の日中に学校やオフィスに出て家を不在にしている若者世代を中心に成長した、といえます。市場を牽引した層が配達と相性の悪い層だったこともあり、再配達問題は急増し社会問題になりました。
国土交通省の報告によれば再配達率は2019年には15%あり、7件配達すると1件は再配達になるという状態でした。2020年以降はこれは11~12%に微減しておりますが、大きな要因としてコロナによるリモートワークの普及が背景にあり、2022年以降にどのように推移するかは不明確です。
EC物流では販売と物流が密接に関わり合うことからお届け時の代引き対応や商品の返品対応等の従来の宅配では少数であった対応が一般的になりました。その結果、現場でのドライバーの接客対応の時間は増加しており、単純な需要過多で見える数量以上の負担が発生しています。
また、上記のような配送サービスの多様化のによる業務増加以外にも本来であれば配達員のサービス外の対応も増加しています。特に多いのはサブスクリプションでの販売によるトラブルです。
サブスクリプションは商品の定期購入・リピート購入による定期通販という分類に当たりますが、悪質な業者によっては解除方法が不明確であったり、更には、連絡がつかなかったりという場合があります。その際に、消費者は商品の受取りを拒否することでしか意思表示ができず、結果としてそういったクレームを配送会社が受けることになります。
法規制が進んでおり、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が2022年6月1日に施行されました。概要としては以下の通りです。
宅配クライシスがECの急成長とそれに伴う、設備投資が間に合わなかったこと、更にEC特有のサービスの増加により発生したと説明しましたが、それではどのように解決できるのでしょうか?ここではその解決策として取り組まれている内容を紹介していきたいと思います。
宅配クライシスは物流業界への投資を加速させ様々な取り組みを加速させましたが、その中でもとくに効果があり、もっとも利用されているのがヤマト運輸の提供するクロネコメンバーズのアプリです。
こういったことをスマートフォンで簡単に操作できるようにするアプリにより、現場での負担軽減に成功しています。
次に注目されているのは置き配や宅配BOXと呼ばれる手渡し業務が発生しない配送方法です。こうすることにより再配達問題や消費者対応の問題は緩和され、ドライバーの業務負荷を軽減することができます。代表的な例としては以下のとおりです。
マンションに宅配BOXが設置されることも一般的になっており、こういった取組はますます進むことが予想されます。
未来技術の中では自動配送ロボットやドローン配送技術は社会実装に向けてとても多くの取り組みが日々進められております。
これらの取組はほんの一例ではありますが、今後の開発により社会に溶け込んで利用される日も遠くはありません。特に労働人口の減少はブルーカラーにおいて顕著でもあり現場に近い部分でのこういったロボットは特効薬になる可能性を秘めております。一方で以下のような課題もあります。
こういった課題は新技術にはつきものではありますが、配送という社会生活に密接に関係した部分でのイノベーションには相当な行政の関与がないと難しい現状があります。
ここまで宅配クライシスについて説明してきました。宅配クライシスはEC市場の急拡大によって始まりましたが、同時に物流業界にとって変化のきっかけにもなっており、必ずしも否定的な文脈だけではなく、新たなビジネスチャンスとしてむしろ歓迎されています。
今後もこの危機の乗り越えるべく様々な変化は生まれてくることになることと思います。弊社・STOCKCREWでも宅配クライシスの解消の一端を担うべく、日々業務に励んでいます。そして、顧客満足度が上がるような各種配送サービスを提供していますので、ご興味がございましたらお気軽にお問い合わせください。