STOCKCREW JOURNAL

「倉庫」と「物流センター」の違い〜物流機能と産業構造の変化〜

作成者: STOCKCREW(公式)|2023年05月14日

「物流センター」という名称が世の中に浸透してきた感がある今日このごろ。商品を保管しておく場所を「倉庫」から「物流センター」に変更した企業もここ20年〜30年でとても多くなっています。こうしたことから「倉庫」と呼ぶより「物流センター」と呼んだ方がわかりやすい・親しみやすい印象を受けます。
では実際の違いはあるのでしょうか?ここでは「倉庫」と「物流センター」の違いについてご紹介します。

物流センターが「仕分ける」という革命を起こす

倉庫」と「物流センター」の違いは、実は言葉の与える印象以上に中身(機能)がかなり異なるものであることはあまり知られていません。

倉庫というのは非常に古い社会装置であり、歴史の授業で習う縄文時代の高床式倉庫から近代まで、構造的な変化はありましたが機能面の変化はありませんでした倉庫は保管することがメインの機能であり、基本的には入荷した時の商品の状態と出荷した時の商品の状態が同じであることが期待されます。“同じ商品を同じ状態に保つこと”、これが倉庫の機能です。

一方、物流センターは倉庫に「仕分ける」という機能を追加しました。この一見、簡単そうな「仕分ける」という業務が流通の概念を変え、さらには小売業にも大きな変化をもたらしました。情報社会が高度化するなかで、消費者のニーズが多様化し、かつてのような単一商品だけが定期的に安定して消費されることが減少し、商品カテゴリが非常に増加したのです。そこで誕生したのが倉庫で「仕分ける」という機能でした。

「物流センター」で「仕分ける」という行為を始めたのは実は高度経済成長以降になります。それまではメーカーが自社の「倉庫」からある程度の商品の塊(ロット)で百貨店や川下の工場に納品するのが当たり前でした。その時代の物流はケース単位の取扱が基本のため、多くの種類を取り扱える店は百貨店やショッピングモールに限られ、地元の小売店や専門店(八百屋さん、魚屋さん)は特定の商品しか取り扱えませんでした。

倉庫から始まる流通起因により私たち消費者の購買行動は、一度に多くの種類の商品を入手するためには百貨店のような大型のお店に出かけるか、または、小売店や専門店が軒を連ねる商店街を回遊するかを選択する必要がありました。

「仕分ける」が生んだ新たな販売形態

「倉庫」が商品を「仕分ける」という業務を行い「物流センター」に変わってから、これが大きく変わっていきます。例えば、コンビニはかつての町の専門の小売店と同じスペースに実に100倍以上の種類の商品が置かれるようになりました。これを実現したのがメーカーから商品が直接届けられる従来型の流通から流通上に「物流センター」を配置し、そこで様々なメーカーから届いた商品を各店舗別に「仕分ける」ということができるようになったからです。

近年のECの発達もこの「仕分ける」という行為の発達抜きに語ることはできません。大手ECのamazon.comの「仕分ける」機能は数百万という種類の商品を特定の個人向けに「仕分ける」ことができます。amazon.com自体が自分たちを「物流会社」である、とコメントしていることはとても有名ですが、彼らの強みはマーケティング・ブランディングによる顧客の囲い込みだけではなく、この誰も真似できない「仕分ける」機能も1つの要因として挙げられることは間違いありません。

「仕分ける」という一見、単純な業務が実は流通・小売のあり方を大きく変えた、または流通・小売の新しい要求を「仕分ける」という形で実現できた企業が時代の勝者になってきたということが分かるかと思います。このどちらが先かというのはビジネス上はどちらでもいいことなのですが、今後のビジネスを加速させていくためにこの当たり前のことを高度に実現していかなければ勝てる事業に成長しないということです。

 

「仕分ける」のコストと消費者のニーズ

「仕分ける」という機能が企業の事業戦略上、重要な要素であったと説明しました。では、コスト面ではどのように理解すれば良いのでしょうか?これが万能の機能であれば、amazon.comに限らず、多くの企業がどんどんその機能を強化していくはずです。これは結論としてはその通りなのですが、実運用のなかではそれほど簡単ではありません。

従来、「仕分ける」作業を倉庫内で行っていなかった場合、当然のことながら作業が発生するようになるので、コストは増加します。また、仕分けることにより従来のような大量輸送が困難になるため輸送コストも増加します。つまり、仕分けることで消費者の多様なニーズに応えられるになる反面、コストは増加していくことになります。

では、物流コストの増加と多様なニーズに応えられことによって生み出される売上増加とどちらが重要なのか?ということが議論されました。消費者のニーズに応えれば応えるほど物流コストは増加していき、結果として利益として残る金額は減少していく、という構図でした。

 

トヨタの答え

そこに1960年代以降、ジャストインタイム、適時適量等、様々な言葉で説明される「トヨタ生産方式」が知られるようになります。トヨタ生産方式はこの「多様なニーズ」と「仕分けるコスト」をじつに美しく解決していました。それは大量輸送だからこそ、発生するムダと比較すればつねに適時適量で運営される俊敏なサプライチェーンは、むしろコストが安くなるということを実践したことです。トヨタ生産方式についてはここでは深く触れませんが、この方式の素晴らしい点は産業革命以降「大量生産」が効率化の唯一の手段とされていた時代に、消費者のニーズに合わせた俊敏な工程の連続を構築した方がむしろコストが安くなり、同時に消費者のニーズに応えられるという点にありました。

不要な在庫を持たないために発注ロットが小さくなり生産原価が上昇する一方で、売上を支えるための製品在庫・半製品在庫が減少します。その結果、一台あたりの生産原価が上昇しても、売れ残りの在庫の原価を含めた時に全体でコストの削減になりました。つまり、不要なものを作らないことで実現するコスト、不要なものを作らないようにする(小ロットでの荷扱い)コストを上回っていたのです。更には、細かなエクステリア・インテリアなどの個別のニーズも満たすことになり、売上の増加にもつながりました。

多くの産業で「仕分ける」が誕生

こういった自動車業界の成功事例は多くの産業に影響を与えました。自動車産業と並んで、日本の発明したビジネスモデルで世界で最も成功しているビジネスモデルである「コンビニエンスストア」がまさにその事例になります。

コンビニのビジネスモデルは非常にトヨタ生産方式の小売版の複写といっても良いほど現在ではよく似ています。コンビニの日々の売上データは夜間に実績データとして本部に通知され、その日のうちに適時適量が各店向けに物流センターで仕分けられます。その結果、店頭には最小限の在庫を陳列すればよくバックヤードも最低限の規模になりました。コンビニの外観と内装を見比べた時に在庫の保管場所が店頭の規模と比較して非常に小さいことは見て取れるかと思います。店頭では消費者のニーズに合わせた陳列を多くの商品カテゴリで実現できるようになり、かつて酒屋だったスペースに日用品全般を陳列できるようになったのです。

これはアパレルや化粧品の業界でも同じことが言えます。洋品店はかつては路面店か百貨店と呼ばれる大型の施設でしか運営することができませんでした。しかし1980年代以降は少ないスペースで多くの商品カテゴリを並べることができるようになっていきます。製造ロットから販売計画までを一手に管理することで大量生産から適時適量のモデルに変化していったSPA(製造小売業)と呼ばれる企業体の誕生です。

SPA企業は一世を風靡しました。アパレルではファーストリテイル社のユニクロや日用品の無印良品や専門的なところでいうと、メガネのJINSなどです。

これら企業は自社ブランドを持ち、生産過程から販売網までを自社で運営し、季節やトレンド、イベントを加味した適時適量を供給する仕組みを作りました。それらを支えたのが各流通工程で行われている「仕分ける」という機能でした。

通販からネットショップという業態の誕生

ここまでは流通工程のなかで「仕分ける」行為を繰り返し、マーケットの細かなニーズを適時適量に整えていくということで業態が変化してきたことを紹介しました。大量生産の時代から小ロット多品種になり、自社の在庫を減らしながら、売上を伸ばしていく時代に変化してきました。その流れを決定づけたのが通販の登場です。

通販は販売チャネルの主戦場を物理空間からネット空間に移動することで「販売可能在庫」が物理的に制約を受けない(受けづらい)という人類が初めて商売を始めた時から前提としてきた制約から解放されました。その結果、コンビニどころか、世界中のモノを販売可能在庫として「陳列」できるようになり、論理的には「地球上に存在するモノ」に限定すれば完全に消費者のニーズに応えることが可能になりました。amazon.comの誕生です。

この過程において「仕分ける」という概念は飛躍的に成長します。小ロット多品種の仕分けではなく、ある特定の個人への「仕分ける」へ変化しました。この特定の個人に「仕分ける」という行為は物流の世界に大きな変化をもたらしました。また、倉庫から物流センターに変化していた物流インフラにも大きな変化が生まれました。

従来の物流センターでは向け先は主に特定の店舗でした。そのため、物流センターで扱う商材は必然的に特定の店舗で扱う商品群になります。先の例で言えば、ユニクロの物流センターで無印良品の商品を扱うことの必要性はありませんでした。しかし、通販の世界では消費者にとって閲覧可能な商品群は限りなく無限です。その世界では何が注文されるか分かりませんし、場合によってはユニクロと無印良品の商品を欲しいと思う消費者もいるでしょう。実際には各社の販売戦略の都合上、こういったブランド間で同じ通販サイトに商品を掲載するかどうかは個々別々に事情が異なりますが、物流センターとしてはこういった複数のブランドの商品を扱うことが必要になりました。複数会社・ブランドの商品を特定の個人へ「仕分ける」という方式が求められるようになりました。

さらに通販が一般的な販売チャネルとして認知された現在ではもう一歩進んで誰でも自由にネットショップを立ち上げられるようになりました。amazon.comの事例で言えば、倉庫の入り口では複数の会社ですが、出口では「amazon.com」という一つの商流にまとめられた出口になります。しかし、ネットショップでは入り口は同じく複数の会社で出口もまた複数の会社ということで、仕分けるオペレーションはさらに複雑になります。特定の商品が特定の通販サイトで販売されるというネットショップの特性は従来の店舗への「仕分ける」に近いものがありますが、現実には一つのネットショップで物流センターを運営できる規模のネットショップは多くなく、複数のネットショップでの共同センターになります。そのため、上記の複雑な「仕分ける」が生まれるわけです。

ここまでは「仕分ける」という機能が様々な産業に大きな影響を受けながら、また、実現できるという意味においては影響を与えながら変化してきた様相を駆け足で説明しました。倉庫が物流センターへ変化していく過程は実は世の中で必要とされる事業のあり方と強い関連性を持ちながら変化してきております。この流れは今後も続くでしょうし、物流センターの中身を見ると現代の産業が見えてくると言っても、言い過ぎではないでしょう。

では、「仕分ける」ことができるようになった結果、倉庫が物流センターへ変化させたと説明しましたが、ここではもう少し具体的に何が変化したのかに触れていきます。

物流センターへの進化は倉庫で「仕分ける」ようになったから

 

物流の機能については「【2023年度版】物流完全ガイド」で解説しておりますので、そちらをご覧いただければと思いますが、物流は大きく分けて保管荷役輸送に分けることができ、倉庫から物流センターへ進化もこの三つで劇的な変化がありましたので、その点について見ていきましょう。

 

「仕分ける」ことを目的とした保管のあり方

倉庫の時代には倉庫内で商品を仕分けることは想定されていませんでした。従って、保管のあり方も「入荷した状態で出荷される」という極めてシンプルな業務を想定しています。メーカーの物流では今も同様の想定でオペレーションが構築されていることがありますが、現在小売業向けの物流で上記の想定で業務が設計されることはほぼありません。

入荷した状態で出荷されることを想定した保管では保管設備も大型のものが主流でした。具体的にはネスラック・重量ラック・自動倉庫と呼ばれる保管設備です。これらの基本コンセプトは「パレット」と呼ばれる保管兼荷扱い用の設備を前提としています。商品が入荷するとこのパレットに商品を積み付けし、出荷の際はパレット単位がパレットに積み付けらたケース単位での出荷となります。

一方で仕分けることを目的とした保管では様々な設備が登場します。簡単なものですと、軽量ラックや移動棚、最近ではAGVやAMRというロボット搬送機器がこれらに該当します。特に通販のような特定の個人に仕分けることを前提とした物流センターでは保管時にケース単位で保管しておくことができません。というのも、出荷する際に1点1点出荷されるので、保管時にパレットやケース単位で保管してしまうと作業者が毎度フォークリフトと呼ばれる搬送車を使用しなければならなくなり、作業効率が低下してしまいます。

 

「仕分ける」ことを目的とした荷役のあり方

入荷や出荷といった荷役作業も大きく異なります。従来の倉庫では作業員はフォークリフト作業者が数名いれば作業可能であり、物流視点でいうととても簡単な運用でした。しかし、通販の物流になると特定の個人向けに「仕分ける」ため、作業工程は大きく変わります。今までは500点の商品を5店舗に100点ずつ仕分ければ良かったのですが、通販の作業では500点の商品を2点づつ250梱包する必要が生まれました。その結果、倉庫と比較して物流センター内は多くの軽作業者が必要になったのです。

この軽作業者の増加というのは社会問題になるほど劇的な変化でした。宅配クライシスというと運送会社の問題がよく取り沙汰されますが、実際の労働人口の不足という点ではこの「仕分ける」という機能を担う物流センター側の方が深刻な問題になるほどです。本筋と離れるため、ここではあまり触れませんが、海外の大手通販会社の中には労働人口確保のため、労働者の家族の大学の授業料を負担するという企業が出てくるなどコストを意識している場合ではないほど人材が不足するようになっています。

また、品質面でも大きな変化が生まれました。通販の物流では直接消費者に商品が届くため、出荷時の梱包品質が満足度に直結します。従来の物流よりも誤出荷や納品不備に対して高い品質基準が求められるようになりました。作業は複雑になり、品質も高くなるということで物流センターへの注目度は一気に高くなり、新しい科学技術を求めて投資熱が一気に高まっています。

 

「仕分ける」ことを目的とした輸送のあり方

輸送の変化については業界内外を問わず、ここ最近では特に注目を集めています。宅配貨物40億個時代の到来と呼ばれ、ここ10年で実に1.5倍近い成長を見せております。直近の統計データはまだ出揃っていませんが、2020年実績では前年比110%の43億個の宅配貨物が流通したとされています。

このなかで当然のことながら宅配大手3社はビジネスチャンスとしてしのぎを削る一方で、オペレーションの維持に四苦八苦している現状があります。

一方で、輸送の仕組みとしては宅配貨物の増加は単純な売上増加だけではなく、利益率改善の可能性も秘めています。特に宅配事業で重要となるのは個数以上に配達エリア内の「密度」になります。同じ10ケースを配達するにしても、10戸の個人宅に配達するのと10戸がまとまっているマンションに配達すのでは利益率は大幅に変わってきます。これが意味するところは宅配事業では(オペレーションを維持する労働人口が不足するという課題を除けば)都市型エリアでは高収益化し、山間部エリアでは収益が悪化していく傾向にあります。従来の物流でもこの密度の問題はありましたが、宅配個数が急増した結果、その傾向が顕著となり看過できない金額になってきたという背景があります。

これは通販の利便性のパラドクスですが、通販の発達により必ずしも都市部に住まなくても良いというライフスタイルが考えられるようになりましたが、じつは通販の物流は都市部にこそ向いており、今後は地方を中心として配送料が上昇する、あるいは、配達エリアが絞られた配送サービスが生まれるなどの懸念があります。

まとめ

ここまで「仕分ける」という機能は倉庫のあり方を変えて、物流センターとなり物流センターの機能と各産業の構造の変化について説明してきました。

特に通販の登場が物流センターに与えた影響は大きく、その業務内容を劇的に変化させていることはご理解頂けたのではないでしょうか?このような変化は一過性のものではなく、断続的に変化を繰り返して今の形に至っているわけですので、今後も変化が続くことが予想されます。

特にネットショップの登場により、今まで以上にニッチなマーケットにターゲティングした事業が生まれてくることが予想されます。そうすると大量生産の時代とは見た目も内容も明らかに異なる物流センターになって行くことは火を見るより明らかです。

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