警察庁と楽天・メルカリ・LINEヤフーが不正取引情報を共有|EC事業者が備える不正注文と配送差し止めの実務
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身に覚えのない大量注文、不自然な配送先、直後のキャンセル依頼——こうした「不正注文」は、EC事業者にとって売上ではなく損失に直結します。2026年7月9日、警察庁と楽天グループ・メルカリ・LINEヤフーが不正取引の情報を共有する協定を結び、大手プラットフォームは不正の検知から配送差し止め・アカウント停止までを連携で進める体制に踏み出しました。本記事では、この協定の内容と、中堅EC事業者が自社の受注から出荷までの流れのどこで不正を止めるべきかを整理します。物流面の土台づくりは発送代行の活用も含めて解説します。
何が決まったのか——警察庁と3社の情報共有協定
協定の内容
2026年7月9日、警察庁は楽天グループ・メルカリ・LINEヤフーの3社と「不正取引等に関する情報共有に関する協定」を締結したと発表しました。運営会社が不正取引の疑いがあるアカウントを検知した際に、登録された氏名やクレジットカード番号などの情報を警察庁へ提供し、警察庁が分析したうえで、必要に応じて協定を結ぶ他社へ共有する——という官民連携の枠組みです。共有を受けた各社は、商品の配送差し止めやアカウントの利用停止といった対応につなげます。
ねらいは、フィッシングなどで盗まれたカード情報を使ったなりすまし購入と、その商品をフリマサービスで転売して現金化する一連の流れを、企業をまたいで断ち切ることにあります。1社だけでは「点」でしか見えない不正の兆候を、複数社と警察庁で突き合わせることで「線」として捉えられるようになる、という発想です。
なぜ今なのか——被害額510億円の重み
背景には、クレジットカードの不正利用被害が高止まりしている現実があります。日本クレジット協会の集計によると、2025年(1〜12月)のカード不正利用被害額は510億5,000万円で、前年の555.0億円からは8.0%減ったものの、依然として500億円を超える高水準です。被害の大半は、盗んだカード番号を使う「番号盗用」型が占めています。
不正が増える土台には、決済のオンライン化があります。国内のキャッシュレス比率は年々上昇しており、次のとおり4割を超えました。決済が便利になるほど、盗まれた番号がそのままEC購入に流れ込むリスクも大きくなります。
2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%(141.0兆円)となり、政府が掲げる「4割程度」の目標を達成しました。
加盟店側の不正対策については、経済産業省でも加盟店における不正利用対策の検討が進んでおり、決済事業者だけでなく商品を発送する事業者側にも対策の網が広がりつつあります。
不正注文はEC物流の「出荷」を直撃する
現金化ルートと物流の接点
不正注文が厄介なのは、被害が「決済」だけで完結しないことです。なりすまし購入では、商品が実際に出荷・配送され、転売されて初めて現金化されます。つまり出荷という物流工程そのものが、不正の「実行部分」に組み込まれてしまう構造です。今回の協定で配送差し止めが対応手段に挙がっているのは、まさに「モノが動く前に止める」ことが被害防止の要になるからです。
不正注文には共通の兆候があります。こうしたシグナルは決済データだけでなく、注文データと配送先データにも表れるため、出荷を担う現場でも見抜けるものが少なくありません。出荷オペレーションの設計に、不正チェックの観点を組み込めているかが問われます。出荷前に確認したい代表的なシグナルは次のとおりです。
- 短時間での大量・重複注文——同一商品を短時間に何度も、あるいは在庫を買い占めるように注文するパターンは要注意です。
- 氏名と配送先の不一致——注文者名義と届け先の名義・住所が食い違うケースは、なりすましや転送のサインになり得ます。
- 転送業者を思わせる配送先——集合住宅の一室に大量の荷物が集中する住所や、転送サービスとして知られる宛先は保留の候補です。
- 高換金性の人気商材への集中——ブランド品・ガジェット・限定品など、転売しやすい商材は狙われやすい傾向があります。
- 決済と配送の速度のちぐはぐさ——最速配送を指定しつつ高額を一括決済するなど、通常客と挙動が異なる注文は確認対象にします。
これらは単独では「たまたま」の可能性もあります。重要なのは、複数の条件が重なった注文に自動でフラグを立て、出荷の前に人の目を通す関門を用意しておくことです。
止められないと発生する二重の損失
不正注文を出荷まで通してしまうと、EC事業者は商品も代金も失う二重の損失を負いがちです。カード会社から売上が取り消される「チャージバック」が起きれば、原則として代金は返ってきません。加えて、出荷・配送にかかった送料や梱包費、返送が発生した場合の対応コストも自己負担になります。売れば売るほど赤字が膨らむ、という最悪の展開すら起こり得ます。
逆に言えば、出荷前に一件でも多く止められれば、その分だけ損失を確実に減らせます。不正対策は「検知精度を上げる」話であると同時に、「怪しい注文の出荷を物理的に止める運用があるか」という物流側の問題でもあるのです。
大手モールの体制と中堅EC事業者の現実解
大手は「面」で、中堅は「点」で守る
今回の協定は、楽天・メルカリ・LINEヤフーという巨大プラットフォーム同士が横につながる「面」の防御です。膨大な取引データと専門チーム、警察庁との連携があってこそ成り立ちます。一方、自社ECサイトや中小規模のショップは、同じ体制を単独で用意することはできません。だからといって無防備でよいわけではなく、限られたリソースで効く「点」の対策を選ぶ発想が現実的です。
楽天やYahoo!、Amazonといったモールに出店している事業者は、まずプラットフォームが提供する不正検知の仕組みを最大限使うことが基本になります。モール運営全体の考え方はネットショップ運営の基礎とあわせて押さえておくと、対策の優先順位を付けやすくなります。
大手の面防御と中堅の現実解(比較)
| 観点 | 大手プラットフォーム(協定3社) | 中堅EC事業者の現実解 |
|---|---|---|
| 検知の広さ | 社をまたいだ横断的な情報共有 | 自社の注文・決済・配送データの範囲で検知 |
| 体制 | 専門チーム+警察庁との連携 | 決済代行・不正検知サービスの機能を活用 |
| 本人認証 | 大規模な認証基盤 | EMV 3Dセキュアの導入・運用 |
| 止め方 | 配送差し止め・アカウント停止 | 出荷前の保留・出荷停止の運用 |
| 強み | データ量とネットワーク | 身軽さ・ルールを即変更できる機動力 |
中堅EC事業者の武器は、意思決定の速さと運用変更の機動力です。「この商材でこの金額以上は一度保留する」「この配送先パターンは必ず確認する」といったルールを、その日のうちに現場へ反映できます。大手のように横断データを持てない代わりに、自社の商材特性を熟知しているからこそ、狙われやすい商材に絞って対策を厚くするといった選択と集中が可能です。自社に合った物流体制を選ぶ視点はEC物流全体の設計と切り離せません。
出荷前に不正を止める4つの実務対策
ここからは、中堅EC事業者が今すぐ着手できる対策を、注文が入ってから出荷されるまでの流れに沿って4段階で整理します。
決済段階と受注段階で「入口」を絞る
- EMV 3Dセキュアで本人認証を徹底する——カード決済を導入するEC事業者には、原則としてEMV 3Dセキュア(本人認証)の導入が求められています。番号盗用型の不正に対する最も基本的な入口対策で、決済代行サービス経由で設定できます。あわせてカード決済の有効期限ルールのような決済実務の変更点も押さえておきましょう。
- 受注段階で異常注文を検知する——大量注文・住所と氏名の不一致・転送先を思わせる配送先など、あらかじめ決めた条件に当てはまる注文に自動でフラグを立てます。人気の高い高換金商材を扱う場合は、しきい値を厳しめに設定します。
出荷段階で「最後の防波堤」を築く
- フラグの立った注文は出荷前に保留する——検知はできても、現場が自動で出荷してしまえば意味がありません。怪しい注文をいったん保留し、確認できるまで配送を止める運用を、倉庫・出荷フローに組み込むことが決定打になります。楽天やメルカリなど複数チャネルを併用している場合ほど、保留判断を一元化する価値が高まります。
- 止める運用を仕組み化する——保留・出荷停止を属人的な判断に頼ると、担当者不在の日にすり抜けます。ステータス管理と連動して自動で出荷を止める仕組みを持つことが理想です。発送代行を活用すれば、出荷指示のAPI連携の中に保留ステータスを組み込み、確認が取れるまで出荷を止める運用を標準化できます。
この4段階は、入口(決済・受注)で母数を減らし、出口(出荷)で確実に止める、という二段構えです。入口だけを固めても検知をすり抜ける注文はゼロにはならず、出口だけに頼ると現場の負担が過大になります。両者を組み合わせることで、精度と現実的な運用負荷のバランスが取れます。出荷リードタイムを短く保ちながら保留の関門を設けるには、受注から出荷までの流れが見える化されていることが前提になります。
関連する制度と返送コストの落とし穴
個人情報とデータ運用に注意する
不正対策では、氏名・住所・注文履歴・決済情報といった個人データを扱います。検知ルールの高度化やサービス連携を進めるほど、データの取り扱いには慎重さが求められます。2026年に動きのある個人情報保護法の改正の方向性も踏まえ、収集目的の明示と安全管理措置を整えておくことが欠かせません。特に、不正の疑いを理由にアカウント情報を外部と共有する仕組みは、今回の協定のように制度的な裏付けがあって初めて成り立つものです。自社で同様の情報連携を安易に行うのではなく、あくまで自社内のデータで判断し、外部連携は決済代行や不正検知サービスの正規の枠組みに委ねるのが安全です。データを扱う倉庫・システム側の情報セキュリティ体制も、委託先選定の確認項目に加えておきたいところです。
返送・転売対策と契約の見直し
出荷後に不正が判明した場合、商品の差し止めや返送が発生します。通信販売のルール上も、事業者が果たすべき責任は明確に定められています。
通信販売では、商品の引渡しを受けた日から数えて8日以内であれば、消費者は事業者に対して、契約申込みの撤回や解除ができ、消費者の送料負担で返品ができます。もっとも、事業者が広告であらかじめ返品特約を表示していた場合は、特約によります。
また、盗品の温床になりやすい転売の問題は、出品側・仕入れ側の双方に法的な論点があります。仕入れや二次流通に関わる場合は、転売・せどりの法的な線引きもあわせて確認しておくと安心です。配送コストや返送費の負担が読めないときは、物流契約の見直しの中で、返送・保留対応の条件を整理しておくとよいでしょう。
まとめ:不正対策は「止められる仕組み」を持つこと
今回の協定は、大手プラットフォームが不正の検知から配送差し止めまでを官民連携で進める大きな一歩です。中堅EC事業者が同じ体制を再現することはできませんが、やるべきことは明確です。第一に、EMV 3Dセキュアと受注段階の異常検知で不正注文の母数を減らすこと。第二に、フラグの立った注文を出荷前に保留し、確認できるまで配送を止める運用を仕組みとして持つこと。この二段構えが、商品と代金を同時に失う二重の損失を防ぎます。
不正対策の最後の関門は、決済でも受注でもなく「出荷」です。止める判断を属人化させず、出荷フローに組み込むには、受注から出荷までを見える化し、保留ステータスを扱える体制が要ります。発送代行を活用すれば、API連携の中に保留・出荷停止を組み込み、確認が取れるまで出荷を止める運用を標準化できます。自社に合う体制を検討する際はSTOCKCREWのサービス内容や具体的な進め方が参考になります。まずは資料ダウンロードで全体像をつかみ、個別の運用はお問い合わせから相談してみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 今回の協定はいつ、誰の間で結ばれたのですか?
2026年7月9日に、警察庁と楽天グループ・メルカリ・LINEヤフーの3社が「不正取引等に関する情報共有に関する協定」を締結したと発表されました。不正の疑いがあるアカウント情報を警察庁と各社で共有し、配送差し止めやアカウント停止につなげる枠組みです。
Q. 自社ECサイトは協定に含まれていませんが、関係ありますか?
直接の当事者ではなくても影響はあります。大手が不正対策を強化すると、行き場を失った不正が対策の手薄なサイトへ移りやすくなります。自社ECでも本人認証や出荷前の保留運用など、できる対策を先に整えておくことが重要です。
Q. 不正注文で最も損失が大きくなるのはどの段階ですか?
商品を出荷・配送してしまった後です。チャージバックで代金が取り消され、送料・梱包費・返送対応の費用も自己負担になり、商品と代金を同時に失います。出荷前に止められれば損失を確実に減らせます。
Q. カード不正利用の被害はどのくらいの規模ですか?
日本クレジット協会の集計では、2025年のクレジットカード不正利用被害額は約510億円でした。前年より減少したものの高水準が続いており、その多くを盗んだ番号を使う番号盗用型が占めています。
Q. 発送代行を使うと不正対策にどう役立ちますか?
出荷を「止める」運用を仕組み化できる点が役立ちます。受注データと連動して保留ステータスを扱えるため、怪しい注文を確認が取れるまで出荷しない運用を、担当者の勘に頼らず標準化できます。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。