チャット勧誘に電話勧誘並みの規律へ、特商法の中間取りまとめ案|ECのDM営業・広告UI・解約導線の点検
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InstagramのDMで商品を案内し、そこから購入まで運んでいるショップは少なくないはずです。消費者庁の「デジタル取引・特定商取引法等検討会」は2026年9月2日の第9回会合で、中間取りまとめ(案)を示しました。柱は、チャット等による勧誘を電話勧誘販売と同等に規律すること、広告のいわゆるダークパターンに包括的な規律を置くこと、そして注文後の電子書面交付を義務づけることの3点です。本記事では案の中身を条件ごとに切り分け、自社のどの導線が影響を受けるのかを判断できる形に整理します。出荷側の体制づくりは発送代行完全ガイドが土台になります。
2026年9月2日に示された「中間取りまとめ(案)」の位置づけ
まだ「案」であって、確定した法改正ではない
最初に前提を押さえます。今回公表されたのは検討会の資料1-1「中間取りまとめ(案)」であり、文書の日付欄は「令和8年〇月〇日」のまま伏せられています。つまり検討会として正式に確定した段階ではなく、当然ながら法律の条文にもなっていません。それでも実務上意味があるのは、第1回から第9回まで積み上げた議論の到達点が一つの文書にまとまり、消費者庁が「必要な制度整備の実現を早期に図るべき」と明記しているためです。方向性はこの線から大きくは動きません。
検討会は2026年1月から9回にわたって開かれた
検討経過を見ると、第1回が令和8年1月22日、以降ほぼ月1回のペースで論点を分割して議論し、第8回(8月24日)と第9回(9月2日)の2回を中間取りまとめ(案)の審議に充てています。8月時点の動きは特商法の見直し議論が最終盤へで扱いましたが、そこでは開催の告知どまりでした。今回は中身が文書として公開された点が決定的に違います。
基本的視点は「悪質な取引に焦点を当てる」
そもそも規制の対象になる市場は小さくありません。国内のBtoC-EC市場規模は26兆1,654億円(令和6年度・経済産業省調査)で、EC化率は9.8%に達しています。令和6年度電子商取引に関する市場調査が示すこの規模に対して、規律を一律に強めれば副作用も大きくなります。
案は冒頭で、規律の在り方によっては健全な取引に過度な負担を課し、消費者の利便性や事業者の創意工夫を損なうおそれがあると認めています。そのうえで、消費者保護と取引適正化の均衡を確保する必要があるとしています。まっとうに運営しているショップを縛るのが目的ではないという立て付けです。ただし後述するとおり、行政規律は原則として故意・過失を問わないため、悪意がなくても該当すれば対象になります。
健全な取引により消費者が得られる利便性を最大限に確保しつつ、悪質な取引に焦点を当てて対応を強化することを基本とし、消費者保護と取引適正化の均衡を確保する必要がある。
チャット等による勧誘が新しい規制対象になる
「チャット等」はどこまでを指すのか
案が定義する「チャット等」は、スマートフォンやPC等の画面を通じた、特定の相手方に対する、双方向のやり取りのための文字情報等の送信です。やり取りの中での画像・動画等のファイル添付やリンクを用いた送信も含まれます。さらに、SNS上のメッセージだけでなく電子メールおよびSMSも含むべきと明記されています。DM営業だけの話ではありません。
一斉配信とポップアップは対象外
他方で、返信できない一斉配信や単発のポップアップ表示など、消費者との双方向のやりとりを一切想定しないものは、それのみでは勧誘規制の対象にならないとされています。メールマガジンやLINE公式アカウントのブロードキャストは、この整理でいえば「広告」の側に残ります。ただし、そこから個別チャットに誘導して商談を進めれば話は別です。境界は配信の形式ではなく、その後の双方向性にあります。
規律の対象になる開始のしかた
規律がかかるのは次の2パターンです。SNS消費者行動調査2025が示すとおり、SNS起点の購買は今や主要な導線であり、他人事として済ませにくい論点になっています。
- 事業者から消費者へチャットを開始する——DMやメールで先に接触し、そのまま勧誘に入るケースです。
- 勧誘目的を告げずに、または著しく有利な条件を提示して消費者から開始させる——「無料相談」「限定クーポン配布」等でチャットを開かせ、そこで販売するケースが該当します。
課される規律は電話勧誘販売と同等
案は、チャット等による勧誘には不意打ち性が高いという点で電話勧誘販売と同様の性質が認められるとし、電話勧誘販売と同等の規律を基本とすべきとしています。具体的には、勧誘に先立つ事業者名・勧誘者の氏名・商品役務の種類・販売目的の告知、不実告知および事実不告知の禁止、威迫・困惑行為の禁止、拒絶後の再勧誘の禁止が並びます。そして解約場面では書面を受領した日から起算して8日のクーリング・オフが可能になります。
チャット等による勧誘には、不意打ち性が高いという点で、電話勧誘販売と同様の性質が認められることを踏まえて、下記(ア)~(ウ)をはじめ、電話勧誘販売と同等の規律を講ずることを基本とすべきである。
通信販売にクーリング・オフが載る意味
ここがEC事業者にとって最大の変化です。特定商取引法ガイドの通信販売の解説にあるとおり、現行の通信販売にはクーリング・オフ制度がありません。返品を受けるかどうかは返品特約の設計次第でした。それが、チャット等の勧誘を経た契約に限って8日間の無条件解除が乗る可能性があります。返品率の管理はEC返品率の計算・改善実務ガイド、返送品の受け皿はEC返品物流ガイドに手順をまとめてあります。
広告のダークパターンに包括的な規律が入る
個別列挙ではなく包括規律という設計
案は、問題となる表示・UIの手法は多様であり、個別の手法をあらかじめ列挙し尽くすことは困難だとして、変化の早さにも柔軟に対応できる一定程度包括的な規律を検討すべきとしています。そのうえで具体的な射程や判断基準は、下位法令やガイドライン等で違法なパターン(ブラックリスト)や適法なパターンを示す方法により明確化するとしています。条文だけを読んでも判断できない構造になる見込みで、運用開始後はガイドラインの読み込みが必要になります。
想定されている3つの類型
| 類型 | 案が例示する内容 | ECでの典型 |
|---|---|---|
| 誤認を招く手法(契約の核心) | 支払金額(違約金等を含む)、分量、契約期間等を、一般的な消費者が通常の注意をもって見た場合に正確かつ容易に認識できない虚偽・不明瞭な表示・UI | 初回価格だけを大書し、総額を小さく置く |
| 誤認を招く手法(周辺情報) | 口コミ、利用状況、在庫情報、タイムセール等の内容が虚偽である表示・UI | 実在しない残数表示、終わらないカウントダウン |
| 攻撃的な手法 | 操作の反復または威迫的な文言等を用いて、消費者を威迫し、迷惑を覚えさせ又は不安を生じさせる仕方で申込み・締結をさせようとする表示・UI | 離脱時に何度も引き止めるモーダル |
「広告である旨」の明示も論点に
加えて、実際は広告であるにもかかわらず広告であることが判別し難い表示を禁止するか、一見して広告と明らかでない表示には広告である旨の明示を求めるべきとしています。景品表示法のステルスマーケティング規制との関係はECモール商品ページのSNS投稿転載もステマ規制の対象にで扱った論点と地続きです。表示全般の執行状況は消費者庁が景品表示法の運用状況を公表もあわせて押さえておくと、規制の温度感がつかめます。
違反したときの効果は行政規律が基本
広告場面の違反に対しては、行政規律による是正を基本とすべきとされました。検討会では取消権など民事上の効果を付与すべきという指摘も出ましたが、広告場面一般に民事効果を及ぼすと一般の取引への影響が大きいとして、慎重な検討にとどめられています。「送料無料」表示の見直しのように表示の言い換えで対応できる論点とは、対応コストの性質が違う点に注意してください。
最終確認画面と「注文後の電子書面」で契約実務が変わる
令和3年改正のあとに生まれた新しい手口
令和3年の特商法改正で最終確認画面の表示義務が設けられました。それでも定期購入に関する消費生活相談は高水準で推移しており、案は相談内容の変化を3つ挙げています。定期購入であること自体は認識しつつ「定期縛りなし」「いつでも解約可能」等の表示で解約条件を誤認する事例、最終確認画面の前後でより有利に見える条件を提示して高額プランへ誘導するアップセル、そして支払総額・契約期間・解約条件を一体として把握しにくい表示です。運用実態は改正特商法・定期購入規制の運用実態2026にまとめています。
最終確認画面に加わる可能性のある義務
- 支払総額の表示——期間や回数が確定する契約では、初回価格ではなく総額を示す方向です。
- 取引条件の分離表示の禁止——価格・期間・解約条件をページの別の場所に散らす設計が対象になります。
- 注文確定後の変更提示は対照表示——確定済みの注文内容を変更させる際、変更前後の内容を対照させるなど変更内容の明示が義務づけられます。
注文完了後の電子書面交付という新義務
もう一つの大きな変更が、契約内容を記載した電子書面等を注文完了後遅滞なく、電子メール等により交付する義務です。理由は明快で、インターネット取引には書面交付義務がなく取引条件が消費者の手元に残らないため、任意解約権や誤認取消権を行使しようにも証拠がないという課題があるからです。交付方法は後日改変されない形で保存可能な方法とすべきとされています。
| 場面 | 現行の通信販売 | 中間取りまとめ(案)の方向 |
|---|---|---|
| 最終確認画面 | 表示義務あり(令和3年改正) | 支払総額の表示・分離表示の禁止へ拡張 |
| 注文確定後の変更提示 | 明文の規律なし | 変更前後の対照表示を義務づけ |
| 契約内容の書面 | 交付義務なし | 注文完了後遅滞なく電子書面等を交付 |
| チャット経由の契約 | 通信販売として扱う | 電話勧誘販売と同等の規律+クーリング・オフ8日 |
注文完了メールのテンプレートは作り直しになる
実務としては、いま送っている注文完了メールがそのまま使えるとは限りません。案は、交付する電子書面等の記載内容について最終確認画面の記載との同一性および記載の明瞭性を担保すべきとしています。最終確認画面で誤認させる表示を行い、電子書面では誤認が生じない形に取り繕うことは許容すべきではないとまで書かれています。定期購入モデルを運用している場合は、定期購入ECの物流設計実務ガイドやShopifyで定期購入(サブスク)を始める方法で扱った設定項目と突き合わせて、表示・メール・出荷サイクルの3点をそろえておくと安全です。
返品特約の濫用と解約妨害が行政処分の対象に
返品特約で民法上の権利まで断らない
現行制度では、通信販売の購入者は商品の引渡し等を受けた日から起算して8日を経過するまで法定の返品権を持ちますが、販売業者が返品特約を設けて広告に表示した場合は返品特約が優先します。問題視されているのはその先です。商品が届かない、注文と異なる商品が送られた、不良品だったといった、民法上の解除権や損害賠償請求権を行使できる場面でも、返品特約を理由に一律で拒否する事例が見られると指摘されました。
案の対応は、申出に係る事実関係について社会通念上通常必要とされる確認を行うことなく、返品特約のみを理由として権利が存在しない旨を告げる行為を、新たに行政処分の対象として規制するというものです。しかもこれはインターネット取引に特有の問題ではないため通信販売一般の規律として検討すべきとされており、モール・自社サイトを問わず影響します。返品条件の書き方はEC返品ポリシーの書き方ガイドを土台に見直してください。
解約手続の設計そのものが違法行為になりうる
もう一つが解約手続妨害です。解約手続を不当に遅延させる行為や、契約手続に比して合理的理由なく過度に複雑な解約手続を課す行為が、規律の対象になる方向で整理されました。申込みが3クリックで完了するのに解約は電話のみ、という設計は典型的に危険です。
| 解約導線の設計 | リスク評価 | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 申込みはWeb完結、解約は電話のみ | 高 | 申込みと同じ経路で解約できるようにする |
| 解約受付が平日日中の限られた時間だけ | 高 | フォーム等の非同期チャネルを併設する |
| 解約前に必ず引き止めモーダルを複数回表示 | 中 | 提示は1回にとどめ、操作の反復を避ける |
| 解約申請から処理完了まで日数の基準がない | 中 | 社内SLAを定め、受付証跡を残す |
消費者契約法側の議論とも重なる
サブスクリプション等の継続的契約については、案は「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会」での整理も踏まえるとしています。こちらは消費者契約法の見直しが8月31日に中間取りまとめ案へで扱いました。特商法と消費者契約法の2本立てで動いているため、利用規約と解約条項は両方の議論を見ながら改定するのが効率的です。
プラットフォームへの削除要請とEC事業者への波及
行政処分を起点に、広告そのものが消える仕組み
案は、消費者庁等が通信販売に係るインターネット上の誇大広告等について特商法に基づく行政処分を行った場合に、その広告が掲載されている基盤提供者に対して削除等の要請を法律に基づいて行えるようにするとしています。名宛人は取引デジタルプラットフォーム提供者にとどまらず、広告・SNSのプラットフォーム提供者等まで含みます。要請に応じた基盤提供者は、販売業者等との関係で損害賠償責任を免責されます。
要請の内容は、個別の広告の削除を求めるか、アカウントの停止・削除を求めるかを、個別の事案や対象となる者の状況を踏まえて柔軟かつ比例的に行うとされています。アカウント単位で止まる可能性があるという点は、広告アカウントを収益の柱にしているショップにとって無視できません。
連絡先表示の不備も監視強化の対象
加えて、所在に関する情報が不正確、表示された連絡先で連絡が取れないといった状態の販売業者等に対しては、インターネット上の広告表示への監視を強化し、行政処分・行政指導を行うと明記されました。事業者情報の表示ルールは消費者庁の通信販売広告Q&Aが実務上の基準になります。表示を省略できる条件を使っている場合は、請求への対応体制が実際に動くかを含めて棚卸ししてください。なりすまし対策は偽通販サイト3件に消費者庁が注意喚起も参考になります。
適格消費者団体の差止請求も対象拡大へ
チャット等による不当な勧誘は多数の消費者に反復して用いられる可能性があるとして、適格消費者団体による差止請求の対象に加えることが検討されています。行政処分を待たずに民間からの差止めが飛んでくる可能性がある、という意味です。
まとめ:いま点検しておく4つの導線
中間取りまとめ(案)はまだ確定文書ではありません。それでも9回の議論の到達点である以上、方向性は読み取れます。EC事業者が先に手をつけられるのは、①チャット・DMを使った販促の入り口で勧誘目的と事業者名を名乗れているか、②広告と最終確認画面で支払総額・期間・解約条件が一体で読み取れるか、③注文完了メールが契約内容の書面として通用する情報量を持っているか、④解約導線が申込み導線と同じ手間で完了するか、の4点です。いずれも法改正を待たずに着手できます。
制度が動くときに効いてくるのは、日々のオペレーションが記録として残っているかどうかです。出荷から返送までを一貫して見える状態にする考え方は発送代行完全ガイドとSTOCKCREW完全ガイドにまとめてあります。運営全体の設計はネットショップ運営完全ガイド、委託先との取り決めは発送代行の契約書に含むべき14項目チェックリストが使えます。自社の出荷体制で対応できるか判断に迷う場合は、サービス資料で費用感を確かめたうえで、お問い合わせから現状の出荷件数と商材をお知らせください。
よくある質問(FAQ)
Q. 中間取りまとめ(案)はもう決まった法改正ですか?
A. 決まっていません。2026年9月2日の第9回検討会に資料1-1として提出された「案」であり、文書の日付欄も未確定のままです。ただし第1回から9回にわたる議論の到達点であり、消費者庁は必要な制度整備を早期に図るべきとしているため、方向性の目安としては十分に使えます。
Q. 「チャット等」にはメールマガジンも含まれますか?
A. 返信を想定しない一斉配信は、それのみでは勧誘規制の対象にならないと整理されています。一方で、電子メールやSMSであっても特定の相手方との双方向のやり取りに使われる場合は「チャット等」に含まれるとされています。判断の分かれ目は配信手段ではなく双方向性です。
Q. クーリング・オフはすべての通信販売に適用されるようになりますか?
A. いいえ。案が示しているのは、チャット等による不意打ち性の高い勧誘を経て契約に至った場合に、書面を受領した日から起算して8日のクーリング・オフを可能とすべきという方向です。通常の広告を見て消費者が自発的に申し込む通信販売まで一律に対象とする内容ではありません。
Q. 注文完了メールはどう変えればよいですか?
A. 案は、契約内容を記載した電子書面等を注文完了後遅滞なく電子メール等で交付し、最終確認画面の記載との同一性と記載の明瞭性を担保すべきとしています。支払総額・契約期間・解約条件を最終確認画面と同じ内容で載せ、後日改変されない形で保存できる方法にすることが要点になります。
Q. 返品特約を設けていれば返品は断ってよいのではないですか?
A. 法定返品権については返品特約が優先します。ただし案は、商品未着・誤配送・不良品など民法上の解除権等を行使できる場面で、事実関係の確認をせずに返品特約のみを理由に権利がないと告げる行為を、行政処分の対象にすべきとしています。特約は万能の盾ではないという整理です。
Q. 自社の広告がプラットフォームから削除される可能性はありますか?
A. 案が想定しているのは、特商法に基づく行政処分を受けた販売業者等の誇大広告等について、消費者庁等がプラットフォーム提供者に削除等を要請できる仕組みです。要請は個別広告の削除からアカウントの停止・削除まで、事案に応じて比例的に行うとされています。処分を受けていない事業者が突然対象になる建て付けではありません。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。