大手も「脱フルスクラッチ」へ|SaaS移行の潮流とEC物流を外部化すべき理由【2026年最新】
- EC・物流インサイト
この記事は約13分で読めます
長らくEC業界では、大規模事業者ほどフルスクラッチ(完全自社開発)でシステムを構築するのが定石とされてきました。ところが2026年、大手通販のニッセンが基幹ECをShopifyへ刷新すると発表し、「大手でも自前開発を捨ててSaaSに乗り換える」動きが象徴的な話題になっています。本記事では、この脱フルスクラッチの潮流を整理したうえで、同じ「コアに集中する」という発想から、EC物流も外部化が合理的になる理由を解説します。物流の外部化を具体的に検討する際は発送代行の全体像もあわせてご確認ください。
ニッセンも採用:脱フルスクラッチという潮流
2026年5月、大手通販のニッセンが、基幹ECサイト「ニッセンオンライン」をShopifyのエンタープライズ向けプラットフォームへ刷新すると発表しました。注目すべきは、当初はフルスクラッチでの全面再構築を計画していたものの、実行リスク・コスト・運用負荷を踏まえて方針を転換したと報じられている点です。自前で作り込むより、拡張性と継続的な機能改善を備えたSaaSに乗る判断をした、という事実が業界に与えたインパクトは小さくありません。これまで「規模が大きいほど自前で作るべき」とされてきた常識が、大手自身の選択によって揺らいだといえます。ニッセンは、EC・カタログ・コールセンターを横断する統合運用も見据えており、単なるシステム入れ替えではなく、運営全体を外部の仕組みの上で再設計する動きとして注目されています。
「自前が当たり前」だった大規模ECの転換
これまで大規模ECでは、独自要件に合わせてフルスクラッチで基幹システムを構築するのが一般的でした。しかし、SaaS型プラットフォームの機能が成熟し、エンタープライズ規模の要件にも応えられるようになったことで、「自前で作る合理性」が薄れてきています。かつては「大規模だから自前」が常識でしたが、いまは「大規模だからこそ、保守負担の少ないSaaSで身軽に」という逆の発想が広がりつつあります。市場が拡大を続けるなかで、各社は作り込みよりも変化への対応スピードと拡張性を重視するようになりました。
令和6年度のBtoC-EC市場規模は26兆1,654億円(前年比5.81%増)となった。
市場が伸びるほど、システムには変化への追従スピードが求められます。SaaSならShopifyの料金体系のように費用が明確で、導入のハードルも下がります。カート選びの全体像はECカートの比較でも整理しています。
なぜ大手まで自前開発を捨てるのか
フルスクラッチには「自由に作り込める」という強みがある一方、近年はその維持コストとスピードの遅さが経営の足かせになりやすくなっています。かつては「自社の業務に完全に合わせられる」ことがフルスクラッチ最大の利点とされましたが、業務のほうをSaaSの標準機能に合わせるほうが、結果的に速く安く運用できるケースが増えています。大手が方針を見直す背景には、いくつかの共通した理由があります。
フルスクラッチとSaaSの違いを整理する
| 観点 | フルスクラッチ(自社開発) | SaaS活用(Shopify等) |
|---|---|---|
| 初期構築 | 長期間・高コスト | 短期間・費用が明確 |
| 機能改善 | 都度開発が必要 | 自動アップデートで追従 |
| 保守・運用 | 自社で全責任を負う | プラットフォーム側が担う |
| 拡張性 | 改修に時間とコスト | アプリ・連携で柔軟に拡張 |
| リソース | 開発・保守に人員を割く | 本業の企画・販売に集中 |
大手が脱フルスクラッチを選ぶ3つの理由
大規模事業者が自前開発から離れる背景には、次の3つの理由が共通して見られます。
- 開発・保守コストの重さ——独自システムは作って終わりではなく、機能追加や障害対応のたびに開発費がかかり続けます。
- 変化への追従スピード——決済や物流連携など新しい機能が次々登場するなか、自前では対応が後手に回りがちです。
- 人材の確保難——システムを維持できるエンジニアの採用・定着が難しく、属人化のリスクが高まります。
レガシー化のリスクが意思決定を後押しする
自前のシステムは、作った瞬間からレガシー化(老朽化・複雑化)のリスクを抱えます。担当者の異動や退職で仕様がブラックボックス化し、改修できなくなる「属人化」も起きがちです。情報処理推進機構(IPA)も、複雑化・老朽化したシステムの維持が企業のDXや成長の足かせになると指摘しています(参考:IPA「DX白書」)。SaaSに乗り換えることで、こうした維持負担から解放され、改善のスピードを取り戻せます。
「コアに集中する」というEC経営の新常識
脱フルスクラッチの本質は、単なるシステム選定の話ではありません。「自社が本当に価値を生む領域=コアに集中し、それ以外は外部の優れた仕組みに任せる」という経営判断です。この考え方は、システムだけでなくEC運営のあらゆる領域に当てはまり、物流もその代表例といえます。
コアとノンコアを切り分けて考える
EC事業者にとってのコアは、商品の企画・ブランドづくり・顧客との関係構築です。これらは他社が簡単に真似できず、売上と利益を生み出す源泉になります。一方、システム開発や倉庫運営は、品質は重要でも差別化の源泉になりにくいノンコアといえます。どれだけ自前のシステムや倉庫に投資しても、それ自体が「この店で買いたい」という理由にはなりにくいからです。ノンコアを優れた外部の仕組みに任せれば、限られた人員と資金をコアに振り向けられます。逆に、ノンコアに人手を取られると、肝心の商品開発やマーケティングが手薄になり、競争力を落としかねません。ネットショップ運営を伸ばすうえで、この切り分けはますます重要になっています。
システムと同じく、物流も外部化が合理的な理由
システムをSaaSに任せる発想は、そのまま物流の外部化に当てはまります。倉庫の確保、設備投資、人員の採用・教育を自前で抱えるのは、システムをフルスクラッチで持つのと同じく、コストとリスクの大きい選択です。物販系のEC市場は規模が大きく、物流の巧拙が事業の成否を左右します。
令和6年度の物販系分野のBtoC-EC市場規模は14兆6,760億円となった。
これだけ大きな物販市場で戦ううえで、物流を自前で抱え込むことが本当に競争力につながるのか——多くの事業者が問い直し始めています。
自前の物流が抱える「固定費」と「波動の弱さ」
自社で倉庫と出荷体制を持つと、賃料・設備・人件費という固定費が常に発生します。これは売上が伸びない月でも変わらずのしかかり、利益を圧迫します。さらに、繁忙期に出荷が集中すると人手が足りず、閑散期には逆に余剰になります。需要の波に合わせて人員や設備を柔軟に伸縮できない点が、自前物流の大きな弱点です。これは、変化に追従しにくいフルスクラッチのシステムが抱える弱点とそっくりです。3PL(物流外注)を使えば、こうした固定費と波動リスクを出荷量に応じた変動費に置き換えられ、売上の増減に体力を合わせやすくなります。
外部化で得られるスピードと拡張性
発送代行に委託すれば、倉庫を自前で建てる時間もコストもかけずに、整った物流をすぐに使い始められます。これはSaaSが「作らずにすぐ使える」のと同じ構図です。出荷量が増えても、委託先のキャパシティに乗ることで拡張に対応できます。固定費を持たない分、需要が読みづらい局面でも身軽に動ける点も大きな利点です。委託で本業に時間を回せる効果はEC物流アウトソーシングのROIの観点から整理でき、はじめての外注はEC物流の外注化ガイドにまとめています。EC物流全体の仕組みはEC物流の基本から確認できます。STOCKCREWのように初期費用・固定費0円、最短7日で導入できるサービスを使えば、SaaSと同じ感覚で物流を「すぐ使い始める」ことができます。
Shopifyのような構成なら物流連携もスムーズ
SaaSと発送代行は相性がよく、受注から出荷までをデータ連携で自動化できます。たとえばShopifyと発送代行をつなげば、注文情報が自動で倉庫に流れ、出荷指示まで一気通貫で進みます。具体的な設計はShopifyのマルチチャネル物流設計にまとめています。フルフィルメント全体像はフルフィルメントの解説でも確認できます。システムと物流の両方を「外部の仕組み」でそろえることで、受注・在庫・出荷のデータが分断されず、運用の手間とミスを同時に減らせます。
自社で持つか外部に任せるかの判断基準
もちろん、すべてを外部化すべきというわけではありません。自社の強みになる部分は内製し、ならない部分は外部化するという切り分けが基本です。物流についても、判断の目安を持っておくとよいでしょう。
外部化を検討すべきサインを一覧で整理する
| 判断軸 | 自社運営が向くケース | 外部委託が向くケース |
|---|---|---|
| 出荷件数 | 少量で安定している | 増加・変動が大きい |
| 固定費 | 設備が償却済みで余力あり | 新規投資が必要になる |
| 人員 | 出荷に人を割ける | 本業に人を集中したい |
| 波動 | 波が小さい | 繁忙期の波が大きい |
| 専門性 | 物流が自社の強み | 物流は差別化要因でない |
出荷件数の規模に応じた体制の移行はEC出荷量の段階別物流設計にまとめています。複数モールに展開している場合は、在庫を1拠点に集約する在庫一元管理も検討に値します。判断に迷う場合は、月間の出荷件数が増加傾向にあるか、繁忙期に出荷が滞っていないか、出荷作業のために本来やりたい施策が止まっていないか、という3点を確認するとよいでしょう。いずれかに当てはまるなら、外部化を検討する合図です。
「全部か無か」で考えない
外部化は0か100かの選択ではありません。一部の商材やモールだけを委託する段階的な進め方もあります。まずは波動が大きいモールや、作業負荷の高い商材から委託し、効果を見ながら範囲を広げるのが現実的です。これはシステムを段階的にSaaSへ移行するのと同じ進め方で、リスクを抑えながら外部化のメリットを取り込めます。一部を任せてみて、空いた時間でコア業務がどれだけ前進したかを確かめれば、次にどこまで委託を広げるかの判断もしやすくなります。物流の全体像は物流の基礎から押さえておくと判断しやすくなります。
まとめ:脱・自前主義をEC物流にどう生かすか
ニッセンのShopify採用に象徴されるように、「自前で抱えるより、優れた外部の仕組みに乗る」という判断は、もはや珍しいものではなくなりました。これはシステムに限らず、物流にも同じ理屈が当てはまります。ポイントは3つです。第一に、自社のコア(商品・ブランド)とノンコアを切り分けること。第二に、システムも物流も、固定費とスピードの観点で外部化を検討すること。第三に、全部か無かではなく、段階的に外部化することです。大手が自前主義を見直しているいまは、自社の物流体制を点検する好機でもあります。固定費や出荷波動に課題を感じているなら、システムと同じ発想で物流の外部化を検討してみる価値があります。物流面の土台づくりは、発送代行の選び方と、STOCKCREWのサービスの内容を起点に検討するのがおすすめです。具体的な相談はお問い合わせから、費用や運用の全体像を把握したい場合は資料ダウンロードもご利用ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 脱フルスクラッチとは何ですか?
ECの基幹システムを完全自社開発(フルスクラッチ)で持つのをやめ、ShopifyのようなSaaS型プラットフォームに移行する動きを指します。2026年には大手通販のニッセンが基幹ECにShopifyを採用するなど、大規模事業者にも広がっています。
Q. なぜ大手まで自前のシステム開発をやめるのですか?
フルスクラッチは自由に作り込める一方、開発・保守コストが大きく、改修に時間がかかり、担当者への属人化やレガシー化のリスクを抱えます。機能が成熟したSaaSに乗り換えることで、維持負担から解放され、改善スピードと拡張性を確保できるためです。
Q. システムの外部化と物流の外部化は何が共通していますか?
どちらも「自社の価値の源泉でない領域は、優れた外部の仕組みに任せる」という発想が共通しています。倉庫や出荷体制を自前で抱えるのは、システムをフルスクラッチで持つのと同様に固定費とリスクが大きいため、発送代行への委託が合理的な選択になります。
Q. 物流は外部化と自社運営のどちらがよいですか?
出荷件数の変動が大きい、繁忙期の波が大きい、本業に人員を集中したい、物流が自社の差別化要因でない、といった場合は外部委託が向きます。逆に出荷が少量で安定し、物流自体が強みになっている場合は自社運営も選択肢になります。
Q. 物流の外部化は一度にすべて切り替える必要がありますか?
必要ありません。波動が大きいモールや作業負荷の高い商材から段階的に委託し、効果を見ながら範囲を広げる進め方が現実的です。0か100かではなく、自社の状況に合わせて部分的に外部化することができます。
この記事の監修者
保阪涼子
株式会社KEYCREW 営業部長。物流会社で10年間、EC物流の現場担当・営業事務を経験し、EC・物流業界で通算10年以上のキャリアを持つ。STOCKCREWではサービス開始初期から商談を担当し、500社以上のEC事業者への導入支援を一貫して手がけてきた。YFF(Yahoo!フルフィルメント)移管時には1,000社超の顧客接点・フロー設計を主導。月間10万件以上の出荷管理に携わり、顧客の物流費を平均15%削減する成果を上げている。成約率50%を達成した営業手法には、「『売る』より『解く』」という顧客課題解決型のアプローチが根底にある。物流メディア(Logistics Today、ECのミカタ)へのインタビュー掲載実績も持つ。