改正個人情報保護法の政令・規則で定める事項の全体像を公表|EC事業者が施行前に点検する顧客データの4論点
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個人情報保護委員会が2026年8月26日、改正個人情報保護法の政令・規則等で定める事項の全体像を決定しました。改正法そのものは7月17日に公布済みで、これから2年以内に施行されます。ただ「改正された」というニュースだけでは、EC事業者が明日から何を直せばいいのかは見えてきません。今回公表された資料の値打ちは、これから2年かけて詰める論点が一覧になった点にあります。この記事では、その一覧のうち顧客データと出荷データに直接効く4つを抜き出し、委託契約と社内の運用のどこを見ておけばいいかを整理します。出荷を外部に預けている場合の責任の切り分けは発送代行の仕組みと費用の全体像から先に押さえておくと読み進めやすくなります。
2026年8月26日に決まったのは「これから何を決めるか」
まず時系列を押さえておきます。改正法案は2026年4月7日に国会へ提出され、7月10日に可決・成立、7月17日に公布されました。施行は一部を除き、公布日から2年以内で政令が定める日です。つまり最も遅い場合でも2028年7月までには動き出します。
第366回個人情報保護委員会(令和8年8月26日)において、 「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律 政令・規則等で定める事項の全体像について」を決定いたしました。
「全体像」は条文ではなく、論点の目次にあたる
今回の資料に載っているのは、政令で決めること・委員会規則で決めること・ガイドラインやQ&Aで示すことの振り分けです。具体的な数値や要件はまだ入っていません。委員会自身が、この全体像を出発点として9月以降に論点別の議論を始めると書いています。
改正個人情報保護法(以下の表において、「法」という。)の施行に向け、政令・規則・ガイドライン等において整備すべき、主な項目は以下のとおりとする。
出典:個人情報保護委員会事務局「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律 政令・規則等で定める事項の全体像について」(2026年8月26日)
裏を返せば、ここに載っていないテーマは今回の下位法令整備では動かないということでもあります。何が変わるかを追いかけるより先に、何が変わらないかを確定できるのが、この資料の使いどころです。改正法の骨格そのものは課徴金とCookie規制の影響に整理してあります。
EC事業者にとっての読み方
4分類のうち、通販事業者が読むべきは「リスクに適切に対応した規律」と「規律遵守の実効性確保のための規律」の2つです。前者に委託先・漏えい報告・16歳未満・顔特徴データが入り、後者に課徴金が入ります。残る2分類は、AI開発や学術研究を自社で手掛けていなければ、いまの段階では優先度が下がります。
EC事業者に効く4つの論点を先に切り出す
全体像の表は行数が多く、そのまま読むと自社に関係のない項目に時間を取られます。通販・EC事業者の実務に落ちるものだけを抜き出すと、次の4つに絞れます。
| 論点 | 改正法が向かう方向 | EC事業者への効き方 |
|---|---|---|
| 委託先の適正な取扱い | 委託を受けた事業者の義務を見直し。免除の前提となる契約事項と契約方法を規則で規定 | 発送代行・倉庫・OMSとの契約条項を見直す必要が出る |
| 漏えい等報告・本人通知 | 本人通知義務を緩和する一方、速報免除や確報の取りまとめ、違法な第三者提供の報告対象化も規定 | 事故時の初動フローを作り直す。楽になる部分と重くなる部分の両方がある |
| 16歳未満の個人情報 | 同意取得や通知の相手を法定代理人とすることを明文化。利用停止請求の要件も緩和 | キッズ・ベビー・学生向け商材のECで会員登録と同意の設計に影響 |
| 顔特徴データ等 | 一定事項の周知を義務化、利用停止等請求の要件を緩和、オプトアウトによる第三者提供を禁止 | バーチャル試着や顔認証を使うECで周知文の掲出が必要になる |
なぜこの4つなのか
選定の基準は単純で、「注文が入って商品が届くまでの間に触る個人データ」に関わるかどうかです。EC事業者が扱う個人データの大半は氏名・住所・電話番号・購買履歴で、これは受注から出荷まで社内外を横断して流れます。倉庫にも配送会社にもOMSにも渡るため、委託と漏えいの2論点は業種を問わず効きます。
残る2つは対象が限られますが、該当した場合の負荷は小さくありません。とくに顔特徴データは、オプトアウトによる第三者提供が禁止される方向が示されており、後から運用でごまかせる性質のものではないと考えられます。
いまは急がなくてよい項目
「適正なデータ利活用の推進」に並ぶ統計作成等の特例や学術研究例外の明確化は、自社で機械学習モデルを開発していない限り出番がありません。購買データを外部に提供して分析させている場合だけ、後続の議論を追う価値があります。名簿の購入や顧客リストの外部提供をしている場合の確認点はオプトアウト届出事業者への実態調査にまとめています。
委託先の規律見直しは、発送代行の契約条項に直接効く
4つのうち最も広く影響するのが委託先の論点です。改正法は、個人情報取扱事業者からデータ処理等の委託を受けた事業者について、個人データ等の適正な取扱いに係る義務を見直すとしています。そのうえで委員会規則では、委託先の義務が免除される前提として、委託契約に定めるべき事項と契約の方法が規定される予定です(法第58条の2)。
現行の「委託先の監督」との違い
現在も委託元には委託先を監督する義務があります。変わるのは、委託先自身が負う義務の輪郭がはっきりし、その免除条件が契約に紐づく点です。契約書に何を書いてあるかが、これまで以上に効いてきます。口頭合意や覚書だけで運用してきた場合、書面の整備がそのまま宿題になります。
発送代行では、EC事業者が委託元、倉庫事業者が委託先という関係になります。何をどこまで委託しているかが曖昧なままだと、事故が起きたときに責任の所在を切り分けられません。契約書の点検の順番は発送代行の契約書に含むべき14項目チェックリストと3PL契約の実務ガイド2026年版に沿って進めると漏れが出にくくなります。
契約書のどこを見るか
| 確認箇所 | 見るポイント | 不足していたときの動き |
|---|---|---|
| 個人情報の取扱い条項 | 委託する個人データの項目と範囲が特定されているか | 覚書で項目を列挙して補う |
| 再委託の可否 | 再委託の事前承諾と、再委託先への義務の承継が書かれているか | 配送会社・システムベンダーまで含めて整理 |
| 事故時の通知義務 | 委託先が委託元へいつまでに通知するかの期限があるか | 時間で切った期限を入れる |
| データの返還・削除 | 契約終了時の顧客データの扱いが定められているか | 倉庫移管時の手順とセットで定義 |
| 監査・報告 | 委託元が委託先の取扱状況を確認できる仕組みがあるか | 月次レポートの項目に追加 |
いずれも下位法令の条文が出てから慌てて直すより、いまの契約書の状態を把握しておくほうが早く動けます。物流委託全般の見直し観点は物流契約の見直しチェックリストに、取引条件そのものの適正化については取適法で物流委託の取引条件がどう変わるかに整理してあります。委託の範囲設計から入りたい場合はEC物流の業務委託の進め方と業者選定を土台にできます。
委託先を選ぶ段階で見ておくこと
これから発送代行を選ぶ、あるいは発送代行の乗り換えを検討している場合は、料金表と同じ熱量で個人情報の取扱いに関する条項を読んでおくと後が楽です。判断軸の全体像は発送代行の選び方と比較の5つの判断軸に、事故が起きたときの賠償の考え方は発送代行の賠償と保険の考え方にまとめています。仕組みそのものを一から確認したい場合は3PLと発送代行の仕組みから入ると理解が早まります。
漏えい等報告の見直しは「緩和」だけではない
報道では「本人通知が緩和される」という部分が目立ちますが、全体像の表を読むと報告の対象が広がる方向の変更も同時に入っています。緩和と強化が同じ行に並んでいるため、片方だけを見て運用を軽くすると足をすくわれます。
緩和される部分
本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合について、本人への通知義務が緩和されます。何をもって「おそれが少ない」とするかは委員会規則で規定される予定で、現時点では確定していません。あわせて、一定の範囲での速報の免除と、一定期間ごとに取りまとめた確報を認めることも規則で定められます。小規模な事故が複数件発生したときの事務負担は、いまより軽くなる可能性があります。
重くなる部分
同じ項目に、違法な個人データの第三者提供についても報告対象事態とすることが規定されると書かれています。漏えい・滅失・毀損だけでなく、本来渡してはいけない相手にデータを渡してしまった場合も報告の射程に入る方向です。委託先の管理やシステム連携の設定ミスは、この類型に当たり得ます。
受注データがOMSから倉庫システムへ流れる経路で誤った宛先に連携された場合、どこで気づき誰が報告するのかを決めておく必要があります。連携経路の設計はEC受注管理(OMS)と物流の連携ガイドに、システムが止まった場合の備えは倉庫システムが止まると出荷も止まるに整理しています。
初動フローに落とすときの単位
- 検知の窓口を1つにする——倉庫・配送会社・カート・OMSのどこから第一報が来ても、同じ担当に集まる形にしておきます。
- 事実確認の様式を先に作る——いつ・どの経路で・どの項目が・何件という4点を埋めるだけの様式があれば、報告要否の判断が速くなります。
- 委託先への通知期限を契約で決める——委託先が気づいてから委託元に伝わるまでの時間が、そのまま報告の遅れになります。
- 顧客への案内文を用意しておく——通知が必要になった場合の文面を平時に作っておくと、判断と作業を分けられます。
利用規約やプライバシーポリシーの文言も、施行にあわせて見直す対象になります。基本の構成はネットショップの法的ドキュメント整備と利用規約で確認できます。表示義務まわりは特商法側の議論とも重なるため、特商法の見直し議論が最終盤へと改正特商法・定期購入規制の運用実態2026もあわせて把握しておくと、改修の回数を減らせます。消費者庁「通信販売|特定商取引法ガイド」が表示義務の一次情報になります。
16歳未満と顔特徴データ:該当するECは限られる
残る2論点は、該当する事業者が限られる代わりに、当たったときの設計変更が大きくなります。自社が該当するかどうかだけ、この段階で判定しておきます。
16歳未満が本人になるケース
改正法は、16歳未満の者が本人である場合について、同意取得や通知等の相手を法定代理人とすることを明文化し、あわせて保有個人データの利用停止請求の要件を緩和します。未成年者の個人情報の取扱いについて、本人の最善の利益を優先して考慮すべき旨の責務規定も置かれます。
キッズ用品・ベビー用品・学習教材・部活動向け商材などを扱うECでは、購入者が保護者でも会員登録者や利用者が未成年というケースが起こります。誕生日の入力欄を任意にしている場合、そもそも16歳未満かどうかを判定できません。商材別の運用設計は定期購入ECの物流設計のような継続課金型で特に効いてきます。
顔特徴データを扱うケース
顔特徴データ等については、取扱いに関する一定の事項の周知が義務化され、利用停止等請求の要件が緩和されるとともに、オプトアウト制度に基づく第三者提供が禁止されます。規律の対象となる生体データの範囲は政令で規定される予定です。
ECの現場では、コスメのバーチャルメイク、アイウェアの試着シミュレーション、アパレルの体型推定などが該当し得ます。倉庫や店舗に顔識別機能付きカメラを入れている場合も同じ論点に入ります。該当する可能性があるなら、いまどのベンダーのどの機能で顔の情報を扱っているかを先に洗い出しておくのが実際的です。
| 自社の状況 | 16歳未満の論点 | 顔特徴データの論点 |
|---|---|---|
| 一般的な物販EC(雑貨・食品・日用品) | 該当しにくい | 該当しにくい |
| キッズ・ベビー・学習系のEC | 要確認 | 該当しにくい |
| コスメ・アイウェアでAR試着を導入 | 年齢層により要確認 | 要確認 |
| 自社倉庫に顔識別カメラを設置 | 該当しにくい | 要確認 |
どちらにも当たらない場合、この2論点は追いかけなくて構いません。その分の時間を委託契約と漏えい対応に回すほうが、費用対効果は高くなります。
施行までの流れと、条文が出る前にできること
委員会は、9月以降に改正法の4分類やテーマごとに基本的な考え方を提示して議論し、団体との意見交換や事務局ヒアリングを挟んだうえで、具体的内容の議論に進むとしています。そのあとに条文案が示され、意見公募手続が始まります。事業者が「要件」を読めるようになるのは、この条文案の段階です。
いま着手できることは3つに絞れる
| 時期 | 委員会側の動き | EC事業者側でできること |
|---|---|---|
| 2026年9月〜 | 分類・テーマごとに基本的な考え方を議論 | 委託先の一覧と契約書の棚卸し |
| その後 | 意見交換・ヒアリングを経て具体的内容を議論 | 個人データの流れ図を1枚にする |
| 条文案の提示後 | パブリックコメントを開始 | 自社に効く条文だけ読んで改修範囲を確定 |
| 公布から2年以内 | 政令で定める日に施行 | 契約改定・システム改修・社内教育 |
棚卸しの単位は、委託先ごとに「渡している項目・渡す経路・契約書の有無・事故時の連絡先」の4つで足ります。倉庫・配送会社・OMSベンダー・メール配信サービス・決済代行あたりを並べると、たいてい5〜10社に収まります。月次で受け取っているレポートに何が載っているかは請求書と月次レポートの見方で確認できます。
新しく倉庫を選ぶなら、この時期は有利に働く
すでに稼働している委託先の契約を後から直すより、これから契約する相手と最初から条項を詰めるほうが手間は少なくて済みます。乗り換えや新規導入を検討しているなら、施行までの2年は準備期間として使えるという見方もできます。導入後の社内体制の作り方は発送代行導入後に整える社内運用体制7つのポイントに、サービスの全体像はSTOCKCREW完全ガイド【2026年版】にまとめています。EC物流そのものの設計から見直す場合はEC物流完全ガイド【2026年版】が土台になります。
まとめ:いま着手できるのは棚卸しだけ、それで十分
2026年8月26日に決まったのは要件そのものではなく、これから2年かけて決める論点の一覧です。EC事業者が読むべきは4つで、なかでも委託先の規律と漏えい等報告の2つが業種を問わず効きます。16歳未満と顔特徴データは、該当するかどうかだけ判定しておけば足ります。
条文が出ていない段階で改修に着手しても、やり直しになる可能性が高くなります。いま価値があるのは、委託先の一覧・渡している項目・契約書の有無を1枚にまとめておくことだけです。この1枚があれば、条文案が出た日に「自社のどこが引っかかるか」を数時間で判定できます。逆に、この1枚がないと、パブコメの期間を棚卸しに使い切ってしまいます。
出荷を外部に預けるかどうかを含めて体制を考え直したい場合は、発送代行の費用と業者選びの手順で全体像を、ネットショップ運営の始め方で運営全体の流れを確認できます。委託先としての要件をどこまで満たせるかは事業者ごとに異なるため、条項レベルの確認はお問い合わせページから個別に相談するのが早道です。判断材料をまとめて手元に置きたい場合は資料ダウンロードもあわせてご利用ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 改正個人情報保護法はいつ施行されますか?
A. 2026年7月17日に公布され、一部を除き公布日から起算して2年以内で政令が定める日に施行されます。具体的な施行日はまだ決まっていません。個人情報保護委員会は施行に向けて政令・規則・ガイドライン等の整備を進めており、2026年9月以降に論点別の議論が始まる予定です。
Q. 2026年8月26日に決まったのは何ですか?
A. 第366回個人情報保護委員会で「政令・規則等で定める事項の全体像について」が決定されました。政令で定めること・委員会規則で定めること・ガイドラインやQ&Aで示すことの振り分けを一覧にした資料で、具体的な要件や数値はまだ含まれていません。
Q. EC事業者が最初に見るべき論点はどれですか?
A. 委託先における個人データ等の適正な取扱いと、漏えい等報告・本人通知義務の見直しの2つです。受注から出荷までの間に氏名・住所・電話番号が倉庫や配送会社を経由するため、業種を問わず影響します。16歳未満と顔特徴データは、該当するかどうかだけ先に判定してください。
Q. 発送代行を使っている場合、契約書を作り直す必要がありますか?
A. 現時点で条文は出ていないため、作り直しの判断はまだできません。ただし委託先の義務が免除される前提として、委託契約に定める事項と契約の方法が委員会規則で規定される予定です。委託している個人データの項目・再委託の可否・事故時の通知期限が契約書に書かれているかを、いまのうちに確認しておくと後の改定が軽くなります。
Q. 漏えいの本人通知は本当に緩和されるのですか?
A. 本人の権利利益の保護に欠けるおそれが少ない場合について通知義務を緩和する方向が示されています。ただし同じ項目で、違法な個人データの第三者提供も報告対象事態とすることが規定される予定です。緩和と対象拡大が同時に入るため、全体としては初動フローの見直しが必要になります。
Q. 顔特徴データを扱っていないECは無視してよいですか?
A. バーチャル試着や顔認証、顔識別機能付きカメラを使っていなければ、この論点の優先度は下がります。ただし規律の対象となる生体データの範囲は政令で規定される予定のため、外部ベンダーの機能で顔の情報を扱っていないかは一度確認しておくと安心です。
Q. 条文が出るまでに何をしておけばよいですか?
A. 委託先の一覧、渡している個人データの項目、契約書の有無、事故時の連絡先の4つを1枚にまとめておくことをおすすめします。倉庫・配送会社・OMS・メール配信・決済代行を並べると多くの場合5〜10社に収まります。条文案が出た時点で、自社のどこが引っかかるかを短時間で判定できるようになります。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。