令和8年版情報通信白書のAIデータを読む|EC物流の需要予測・在庫・CSにどう効くか【2026年】
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AIは「試してみる」段階を越え、日常や仕事に組み込まれる段階へと移りつつあります。総務省が2026年7月24日に公表した令和8年版情報通信白書は、この変化を特集としてまとめました。個人の生成AI利用率は58.8%まで上がり、企業では86.4%が何らかの業務でAIを使っています。EC物流の現場でも、需要予測・在庫最適化・配送ルート・カスタマーサポートといった領域でAIの活用余地が広がっています。この記事では、白書が示す最新データを一次情報で押さえたうえで、EC事業者がAIをどこに、どう効かせられるかを実務目線で読み解きます。物流現場でのAI活用の全体像はEC物流×AI活用ガイドとあわせて押さえておくと、打ち手を具体化しやすくなります。
令和8年版情報通信白書が示すAI利活用の広がり
特集テーマは「AIの進展がもたらす多面的影響」
まず白書の位置づけを押さえます。令和8年版情報通信白書は、2025年に成立・施行されたAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)を背景に、AIの利活用を特集しました。個人・企業への国際アンケートを交え、日本のAI活用の現在地を数字で示しています。EC事業者にとっては、自社が置かれた環境を客観的に測るものさしになります。世の中のAI活用がどこまで進み、どこでつまずいているのかを知っておくと、自社の投資判断や優先順位づけの助けになります。
個人・企業でAI利用が急拡大
もっとも象徴的なのが、個人の生成AI利用率の伸びです。日本の利用経験率は、2023年度の9.1%、2024年度の26.7%を経て、2025年度は58.8%まで上昇しました。わずか2年で6倍を超える伸びで、AIが特別な人のものから多くの人の道具へと変わったことがうかがえます。企業側でも、何らかの業務で生成AIを使う割合は86.4%に達しています。
日本における生成AIの利用率(利用経験率)は、今回の2025年度調査で58.8%となり、2024年度調査(26.7%)に比べて大幅に上昇。(企業では)自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した割合は86.4%となった。
企業の活用方針でも、「積極的に活用する」「領域を限定して活用する」の合計は68.9%(2024年度は49.7%)へと大きく伸びました。AIはもはや一部の先進企業のものではなく、ふつうの業務に入り込むインフラになりつつあります。物流業界でも、企業連携によるフィジカルAIの動きが出ています(富士通ら4社が「フィジカルAI」で連携)。
EC物流でAIはどこに効くのか
4つの活用領域
白書のデータは全業種を対象にしていますが、EC物流に引き寄せると活用のツボが見えてきます。大きく分けると、需要予測、在庫最適化、配送ルート、カスタマーサポートの4領域です。いずれも「大量のデータから最適な判断を素早く出す」というAIの得意分野と相性がよく、人手不足が進む物流現場ほど効果が出やすい領域です。物販分野のEC化率は約9.8%と、EC市場はなお拡大の途上にあり、出荷量が増えるほど判断を自動化する価値も高まります(経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」公表資料)。
たとえば需要予測がAIで精度を増せば、仕入れと出荷の計画が立てやすくなり、欠品と過剰在庫の両方を減らせます。予測の手法は在庫予測の実務手法を、在庫管理の型はEC在庫管理の基本と改善方法を土台にすると、AIを載せる前の足場が整います。欠品の見せ方や影響は欠品とは?原因と防止策で押さえられます。
| 領域 | AIでできること | EC事業者のメリット |
|---|---|---|
| 需要予測 | 過去データから売れ行きを予測 | 仕入れ・出荷計画の精度が上がる |
| 在庫最適化 | 適正在庫や発注点を自動算出 | 欠品と過剰在庫を同時に抑える |
| 配送・CS | ルート最適化や問合せ自動応答 | 配送費削減と対応品質の向上 |
配送ルートの最適化は、複数の届け先を回る自社配送や、倉庫内のピッキング動線に効きます。カスタマーサポートでは、よくある問合せの一次対応をAIが担い、人は例外対応に集中するという分担が現実的です。人が判断すべきところは人が担うという線引きを最初に決めておくと、品質を落とさずに効率だけを上げられます。受注から出荷までを一元管理するOMSがあると、AIに渡せるデータがそろいます。OMSの選び方はOMS比較ガイドにまとめています。プラットフォーム側でもAIエージェントによる購買支援が広がっており(LINEヤフーがAIエージェントのお買い物を拡大)、モール出店者はYahoo!ショッピングの発送代行活用も含めて出荷体制を整えておくと安心です。
白書の企業事例に学ぶ活用の進め方
課題起点で「業務プロセスごと」変える
白書は、AI活用で成果を出した企業の事例も紹介しています。ある中小企業グループでは、各事業部門の課題を起点にAIで解決したい目標を設定し、専門企業の伴走支援を受けながら1年間取り組んだ結果、送迎ルートの最適化や問合せ対応の自動化などで、全事業部門の合計で年間2,247時間分の業務時間削減につながったと報告されています。
(中小企業グループの事例では)各事業部門の課題認識を起点にAIで解決したい課題と目標を設定し、(中略)利用者の送迎ルートの最適化システム作成、問合せ対応のテンプレート化・自動化など全10事業部の合計で年間2,247時間分もの業務時間削減につながったとの報告。
この事例で学べるのは、ツールを入れること自体が目的ではないという点です。ルート最適化も問合せ自動化も、EC物流にそのまま置き換えられるテーマです。ポイントは、現場の課題を起点にし、効果を時間やコストの数字で確認しながら、業務プロセスごと見直したことにあります。自動化が進んでも人の役割はなくならないという視点は自動化時代に残る「人の仕事」で掘り下げています。
「ツール導入」で終わらせない
日本は業務変革が遅れている
白書は、明るいデータばかりを示しているわけではありません。生成AIによる業務変革について、日本では「組織的な取組はない」と回答した割合が約3割弱にのぼり、他の3か国より高い結果でした。つまり、使ってはいるが、業務のやり方までは変えられていない企業が多いということです。
「点の利用」と「プロセス変革」の違い
EC物流でも同じことが起こりえます。AIチャットで問合せ文面を作る、需要予測ツールを試す、といった「点」の利用にとどまると、効果は限定的です。白書の事例が示すように、成果を出すには課題起点で業務プロセスそのものを設計し直す必要があります。両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 観点 | 点の利用(効果限定) | プロセス変革(成果大) |
|---|---|---|
| 起点 | ツールが便利そうだから | 現場の課題・目標から |
| 範囲 | 個人の作業効率化 | 受注〜出荷の流れ全体 |
| データ | 手元の情報だけ | 受注・在庫・出荷を連携 |
| 効果測定 | なんとなく便利 | 時間・コストで数値化 |
表のとおり、同じAIツールでも、個人の作業効率化で終わるか、受注から出荷までの流れを変えるかで、得られる成果は大きく変わります。とくにEC物流では、受注・在庫・出荷のデータがつながっていることが、AIの精度を左右します。データがバラバラのままでは、いくら高性能なAIを入れても「点」の便利さ止まりになりがちです。物流を外部化すると情報が分断されるリスクは物流を「外注」すると失われる情報とはでも扱っており、AI活用の前提となるデータ連携の重要性がわかります。開発基盤の動きはShopifyがAI Toolkitをオープンソース化も参考になります。物流KPIを数字で管理する型はEC物流コストの可視化と削減実務ガイドにまとめています。
AIの裏で高まる「不安」への対応
ネット利用の不安は根強い
AIの利便性が広がる一方で、白書は利用者の不安も浮き彫りにしています。インターネット利用時に不安を感じる人は依然として多く、なかでも個人情報や利用履歴の漏洩への懸念が最も大きいと示されています。便利さの裏で、データの扱いへの警戒はむしろ強まっているといえます。
EC事業者にとって、これは無視できないメッセージです。AIを使ったパーソナライズやチャット対応を進めるほど、顧客データの扱いに対する信頼が問われます。便利さと引き換えに不信を招けば、かえって購買から遠ざけてしまいます。だからこそ、データの管理体制や問合せ対応の透明性を整え、「安心して買える体験」をセットで用意することが欠かせません。顧客体験と物流の関係は物流は「乗り換えづらい」からこそ選定が9割の視点も参考になります。
信頼を土台にした体験づくりが競争力になる
日本のBtoC-EC市場は物販を中心に拡大が続いており、信頼を土台にした体験づくりが競争力を左右します。AIで効率を高めつつ、届いた荷物の状態や問合せ対応の丁寧さといった「最後の接点」で安心を返せるかが、リピートの分かれ目になります。どれだけ裏側でAIが働いていても、顧客が触れるのは荷物と対応だけです。梱包の丁寧さ、正確な出荷、問合せへの誠実な回答といった基本の品質が伴って初めて、AIによる効率化は信頼につながります。効率化と信頼は二者択一ではなく、両立させてこそ意味を持ちます。
2024年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、26.1兆円(前年24.8兆円、前年比5.1%増)に拡大しています。
まとめ:白書を自社の打ち手に翻訳する
令和8年版情報通信白書は、個人の生成AI利用率58.8%、企業の業務利用86.4%という数字で、AIがふつうの業務に入り込んだ現実を示しました。EC物流では、需要予測・在庫最適化・配送ルート・カスタマーサポートの4領域で活用余地が広がっています。ただし、白書の事例と課題が示すとおり、成果を分けるのはツールの有無ではなく、課題起点で業務プロセスごと見直せるかです。同時に、ネット利用への不安が根強い現実を踏まえ、顧客データの信頼と「安心して買える体験」を整えることも欠かせません。白書のデータは、AIが特別な技術から日常の道具へと変わったことを教えてくれます。だからこそ、身構えるより先に、まずは自社の出荷・在庫データを扱える状態に整えることが、AI活用の現実的な出発点になります。データ連携を前提とした物流の型は発送代行の始め方と業者選びやSTOCKCREW完全ガイドで確認できるほか、具体的なご相談はお問い合わせや資料ダウンロードから承っています。
よくある質問(FAQ)
Q. 令和8年版情報通信白書はいつ公表されましたか?
A. 総務省が2026年7月24日に公表しました。今回の特集テーマは「AIの進展がもたらす多面的影響」で、個人・企業への国際アンケートを交えながら、AI利活用の現状と課題を分析しています。概要や本体は総務省のホームページで公開されています。
Q. 日本のAI利用はどのくらい進んでいますか?
A. 白書によると、個人の生成AI利用経験率は2025年度で58.8%となり、2024年度の26.7%から大幅に上昇しました。企業では、何らかの業務で生成AIを利用している割合が86.4%に達しています。一方で、業務プロセスそのものを変える組織的な取組は道半ばで、「点」の利用にとどまる企業も少なくありません。
Q. EC物流ではAIをどこに使えますか?
A. 大きく4領域です。需要予測で仕入れ・出荷計画の精度を上げる、在庫最適化で欠品と過剰在庫を抑える、配送ルート最適化で配送費や時間を削る、カスタマーサポートで問合せ対応を自動化する、です。いずれもデータがそろっているほど効果が出やすいため、受注・在庫・出荷の一元管理が前提になります。
Q. AI活用を成功させるコツはありますか?
A. 白書の企業事例が示すのは、ツール導入自体を目的にしないことです。現場の課題を起点に解決したい目標を設定し、効果を時間やコストの数字で確認しながら、業務プロセスごと見直すのが成功の鍵です。ある中小企業グループでは、こうした進め方で年間2,247時間分の業務時間削減につながったと報告されています。
Q. AI活用で気をつけることはありますか?
A. 顧客データの扱いに対する信頼です。白書では、インターネット利用時に不安を感じる人が根強く、なかでも個人情報や利用履歴の漏洩への不安が最も大きいと示されています。AIでパーソナライズやチャット対応を進めるほど、データ管理体制や対応の透明性を整え、安心して買える体験をセットで用意することが重要になります。
この記事の監修者
北原一樹
株式会社KEYCREW オペレーション部長。大手物流会社にて現場担当からセンター長を経て、営業・管理職を12年間歴任。物流業界での経験は24年に及ぶ。大規模顧客の初のEC・DCが併設された10,000坪規模の大型倉庫の立ち上げを主導した実績を持ち、月間100Mの赤字を抱えていた物流センターをわずか3か月で黒字化に転換させた。現在はSTOCKCREWにおいて部門管理・各拠点の収支管理・業務改善を統括。「現地・現物」「数字で現場を見る」「何事にも基準を作る」を信条に、年間5千万点の入出荷を支える高品質な物流オペレーションを実現している。