最低賃金2026年度の目安審議が大詰め|倉庫パート時給の上昇が「自社出荷」の損益分岐を動かす
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物流費というと運賃や保管料に目が行きがちですが、もう一つ静かに効いてくるのが「人件費」です。EC事業者が自社で梱包・出荷をしている場合、その担い手の多くはパート・アルバイトであり、最低賃金の改定を直接受けます。2026年度の最低賃金は7月下旬の目安答申に向けて審議が大詰めを迎えており、2025年度の全国加重平均1,121円(過去最大の引き上げ)に続いて、10月からさらに上がる見込みです。本記事では、最低賃金の上昇が「自社出荷」のコストをどう押し上げ、発送代行との損益分岐をどう動かすのかを、EC事業者の視点で整理します。
2026年度の最低賃金、いま何が起きているか
最低賃金は毎年、中央最低賃金審議会が引き上げの「目安」を示し、それを踏まえて各都道府県の審議会が地域別の金額を決める仕組みです。2025年度(令和7年度)の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円となり、前年から66円・6.3%の引き上げと、過去最大の上げ幅を記録しました。そして2026年度も、審議は引き上げの方向で進んでいます。
目安答申は7月下旬、発効は10月から
2026年度の目安審議は大詰めを迎えており、7月下旬の答申に向けて労使の議論が続いています。目安が示されたあと、各都道府県の審議会が地域別の金額を決め、多くの地域で10月以降に新しい最低賃金が発効します。つまり、EC事業者にとっては「10月に人件費がもう一段上がる」ことがほぼ確実な前提だということです。値上げが続く配送費・資材費に、人件費の上昇が重なる構図になります。
政府目標は「全国平均1,500円」
この流れの背景にあるのが、政府の掲げる「全国平均1,500円」という目標です。2026年7月に閣議決定された経済財政運営の方針では、この達成時期を「遅くとも2030年代前半」と明記しました。最低賃金の上昇は一時的な現象ではなく、今後も続く構造的なトレンドだということです。人手が集まりにくい物流・倉庫の現場では、実際の募集時給が最低賃金を上回る水準で動くことも多く、賃上げ圧力はさらに強く働きます。
連合がまとめた2026年春闘第1次集計(3月23日時点、1100組合)の賃上げ率(加重平均)は5.26%で、3年連続で5%の高水準を維持した。
なぜ物流・倉庫は最低賃金に敏感なのか
最低賃金の改定は幅広い業種に影響しますが、物流・倉庫はとりわけ敏感な領域です。理由は単純で、作業の多くが時給で働くパート・アルバイトによって担われているからです。ピッキング、検品、梱包、出荷といったEC物流の中核作業は、時間あたりの人手に強く依存します。
人件費が物流コストの大きな塊を占める
EC物流のコストは、配送費・保管費・資材費・人件費などで構成されます。このうち人件費は、出荷件数が増えるほど比例して膨らむ「変動費」の性格が強く、時給が上がればそのまま効いてきます。物流コストを可視化してみると、自社で出荷している事業者ほど、人件費が総コストに占める割合の大きさに気づくはずです。運賃の値上げには敏感でも、自社スタッフの時給上昇は「気づいたら効いていた」となりやすいのが実情です。
人手不足が賃上げ圧力をさらに強める
物流業界は慢性的な人手不足に直面しており、これが賃上げ圧力を一段と強めています。人が集まらなければ、最低賃金を上回る募集時給を提示せざるを得ません。2026年春闘でも運輸業は高い賃上げ率を示しており、これは倉庫・物流の現場で人材の獲得競争が激しいことの裏返しです。最低賃金の上昇と人手不足が重なることで、自社出荷を支える人件費は、今後も右肩上がりで推移する可能性が高いと見ておくべきでしょう。
賃上げ率「5%以上」の構成比は、運輸業が40.5%と全産業のなかでも高かった。上位産業は人手不足が深刻な傾向が高く、高率の賃上げに踏み切る傾向がみられる。
「自社出荷」の損益分岐はこう動く
ここが本題です。最低賃金の上昇は、EC事業者が「自社で出荷を続けるか、発送代行に委託するか」の判断ラインを動かします。結論から言えば、時給が上がるほど、自社出荷のコストが膨らみ、発送代行に切り替えたほうが得になる出荷件数のラインが手前(少ない件数)へ移動します。
自社出荷は「人件費という変動費」を抱える
自社出荷のコストは、倉庫スペースなどの固定費に加えて、出荷1件ごとにかかる人件費・資材費という変動費で構成されます。とりわけ人件費は出荷件数に比例して増えるため、時給が上がるとコスト線の傾きそのものが急になります。図でいえば、自社出荷の線が上へ持ち上がるイメージです。一方、発送代行は出荷件数に応じた従量課金が中心で、人材の採用・教育・シフト管理といった負担を自社で抱えません。だからこそ、時給上昇の影響を受けにくいのです。
分岐点は「手前」に動く
2つの線が交わる点が損益分岐点で、これより出荷が多ければ発送代行のほうが有利になります。最低賃金の上昇で自社出荷の線が持ち上がると、この交点は手前(少ない件数)へ移動します。これまで「自社でやったほうが安い」とされていた出荷規模でも、賃上げによって発送代行が有利になるケースが増えるということです。具体的な試算の考え方は発送代行の損益分岐シミュレーションで確認できます。
| 観点 | 自社出荷 | 発送代行 |
|---|---|---|
| 人件費の性格 | 出荷件数に比例する変動費 | 委託料に内包(自社で抱えない) |
| 最低賃金上昇の影響 | 直接受ける(コスト線が上昇) | 受けにくい |
| 採用・シフト管理 | 自社で負担 | 委託先が担う |
| 繁忙期の人員確保 | 都度採用が必要 | 変動に応じて吸収されやすい |
もちろん、発送代行にも委託料がかかります。ポイントは「どちらがゼロコストか」ではなく、時給が上がり続ける前提で、どちらの傾きが緩やかかという比較です。人件費が構造的に上がっていく局面では、変動費として人件費を自社で抱え続けることのリスクが、以前より高くなっています。
ここで見落としがちなのが、時給そのもの以外に増えるコストです。最低賃金が上がると、それに連動して社会保険料の事業主負担や割増賃金の単価も上がります。さらに、既存スタッフとの賃金バランスを保つために、最低賃金ぎりぎりでない中堅層の時給も引き上げざるを得ないことが多く、「最低賃金+10円」の影響は、実際にはそれ以上の幅で自社の人件費に波及します。自社出荷の損益分岐を引き直すときは、最低賃金の上げ幅だけでなく、こうした周辺コストの膨らみも織り込んでおくと、判断を誤りにくくなります。逆に言えば、これらの間接的なコストまで含めて自社で抱えずに済むことが、委託という選択の見えにくい利点でもあります。
EC事業者が今やるべきこと
10月の発効を待ってから慌てるのではなく、いまのうちに自社の出荷コストを点検しておきましょう。やるべきことは、人件費の棚卸しと、体制の選択です。
自社出荷の人件費を「1件あたり」で棚卸しする
まず、自社出荷にかかる人件費を「出荷1件あたり」に換算してみます。梱包・検品・出荷にかかる作業時間に時給を掛け、1件あたりのコストを出すと、時給が上がったときの影響額が具体的に見えてきます。物流コストの可視化を一度行っておくと、最低賃金が10円上がるごとに自社の物流費がいくら増えるのかを、感覚ではなく数字で把握できます。この「1件あたり」の視点は、発送代行の従量料金と直接比べられる共通のものさしにもなります。
自動化・変動費化で人件費依存を下げる
次に、人件費への依存そのものを下げる方向を検討します。1つは自動化で、物流の外部委託や機器導入によって、時給労働への依存を減らす方向です。もう1つが変動費化で、固定的な人員を抱えず、出荷量に応じて費用が動く体制へ移すことです。STOCKCREWはAMR(自動搬送ロボット)110台による自動化オペレーションを備え、初期費用・固定費0円で利用できます。主な機能や倉庫・設備で、人手に頼りすぎない出荷体制のイメージを確認できます。
整理すると、優先順位は次の3つです。
- 人件費を数値化する——出荷1件あたりの人件費を算出し、時給上昇の影響額を把握する。
- 損益分岐を引き直す——賃上げ後の前提で、自社出荷と発送代行のコストを比較する。
- 変動費化を検討する——固定的な人員依存を下げ、出荷量に連動する体制へ移す。
最低賃金の上昇は、コスト増という「痛み」であると同時に、自社の出荷体制を見直す「きっかけ」でもあります。人件費が構造的に上がる前提を受け入れ、早めに手を打つ事業者ほど、値上げラッシュのなかでも利益率を守りやすくなります。
もう一つ意識しておきたいのが、人件費上昇と同時に進む「採用の難しさ」です。時給を上げても人が集まらない、採用してもすぐ辞めてしまうという状況では、繁忙期に必要な人員を確保できず、出荷遅延という別のコストが発生します。最低賃金の問題は、単なる時給の数字ではなく、「人を安定的に確保し続けられるか」という体制のリスクでもあるのです。自社で採用・教育・シフト管理をすべて抱え込むほど、このリスクは重くのしかかります。出荷を委託すれば、人員確保の難しさそのものを委託先に委ねられるため、賃上げ局面では「コスト」だけでなく「採用リスクの移転」という観点でも、外部化の価値が高まっていきます。
まとめ:人件費の上昇を前提に出荷体制を設計する
2026年度の最低賃金は7月下旬の目安答申を経て10月から発効し、2025年度の1,121円(過去最大の引き上げ)に続いてさらに上がる見込みです。倉庫・物流の作業は時給労働に強く依存するため、EC事業者の自社出荷コストは人件費の上昇を直接受けます。時給が上がるほど、自社出荷と発送代行の損益分岐は手前に動き、委託が有利になる規模が広がります。まずは出荷1件あたりの人件費を数値化し、賃上げを前提に損益分岐を引き直しておくこと。そして自動化・変動費化で人件費依存を下げることが、値上げ局面での利益防衛につながります。物流の全体像は物流の基礎知識もあわせて確認してください。自社の出荷コストに不安があれば、お問い合わせや資料ダウンロードから具体策を検討してみましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 2026年度の最低賃金はいつ決まり、いつから上がりますか?
中央最低賃金審議会が7月下旬に引き上げの目安を答申し、それを踏まえて各都道府県の審議会が地域別の金額を決めます。多くの地域で10月以降に新しい最低賃金が発効します。2025年度の全国加重平均は1,121円で、2026年度もさらに引き上げられる見込みです。
Q. なぜ最低賃金がEC事業者の物流コストに影響するのですか?
ピッキング・検品・梱包・出荷といったEC物流の中核作業は、時給で働くパート・アルバイトによって担われることが多いためです。自社で出荷している事業者ほど、時給の上昇がそのまま出荷コストの増加につながります。
Q. 賃上げは自社出荷と発送代行の判断にどう影響しますか?
最低賃金が上がると、人件費という変動費を抱える自社出荷のコスト線が持ち上がり、発送代行との損益分岐点が手前(少ない出荷件数)へ移動します。これまで自社出荷のほうが安かった規模でも、発送代行が有利になるケースが増えます。
Q. 発送代行なら最低賃金の影響を受けないのですか?
まったく受けないわけではありませんが、影響を受けにくくなります。発送代行は出荷件数に応じた従量課金が中心で、採用・教育・シフト管理といった人件費の負担を自社で抱えません。人件費が構造的に上がる局面では、この点が相対的な優位になります。
Q. まず何から始めればよいですか?
自社出荷の人件費を「出荷1件あたり」に換算して数値化することから始めるのがおすすめです。時給上昇の影響額が具体的に見え、発送代行の従量料金とも比較しやすくなります。そのうえで、賃上げを前提に損益分岐を引き直し、自動化・変動費化を検討します。
この記事の監修者
保阪涼子
株式会社KEYCREW 営業部長。物流会社で10年間、EC物流の現場担当・営業事務を経験し、EC・物流業界で通算10年以上のキャリアを持つ。STOCKCREWではサービス開始初期から商談を担当し、500社以上のEC事業者への導入支援を一貫して手がけてきた。YFF(Yahoo!フルフィルメント)移管時には1,000社超の顧客接点・フロー設計を主導。月間10万件以上の出荷管理に携わり、顧客の物流費を平均15%削減する成果を上げている。成約率50%を達成した営業手法には、「『売る』より『解く』」という顧客課題解決型のアプローチが根底にある。物流メディア(Logistics Today、ECのミカタ)へのインタビュー掲載実績も持つ。