EUデミニミス7月1日撤廃が目前|150ユーロ以下に一律課税、越境EC輸出への影響と対策
- EC・物流インサイト
この記事は約13分で読めます
EUへ商品を販売している日本のEC事業者にとって、2026年7月1日は見逃せない節目です。これまで少額の小口貨物を関税の対象外としてきたデミニミス(少額免税)の枠が撤廃され、150ユーロ以下の貨物にも暫定的に一律3ユーロの関税が課されるようになります。施行はすぐ目の前に迫っています。本記事では、何がどう変わるのかを整理し、価格設定・通関・出荷体制の観点から日本の越境EC事業者が取るべき対策を解説します。海外発送のコスト構造を含めて見直したい方は、あわせて発送代行の全体像も確認しておくと判断がしやすくなります。
EUデミニミス撤廃とは:2026年7月1日に何が変わるのか
デミニミスとは、一定金額以下の少額貨物を関税の対象外として簡易に通関させる制度です。EUではこれまで150ユーロ以下の貨物が関税の免税枠の対象でしたが、EU理事会は2026年2月にこの免税枠を撤廃する新ルールを採択しました。施行スケジュールは下図の通りで、2026年7月1日が日本の事業者にとって最初の分岐点になります。
撤廃の具体的な中身
新ルールでは、実質的な価値が150ユーロ以下として輸入される商品に対し、税関への輸入申告書の各行(品目区分)につき一律3ユーロの暫定関税が課されます。これは2026年7月1日から2028年7月1日までの暫定措置で、EUの新しい関税データハブが稼働次第、暫定の定額関税は通常の関税に置き換えられる予定です。つまり、いまの「少額だから関税はかからない」という前提が、まず暫定ルールで崩れ、その後さらに本格的な課税体系へ移行していく流れです。
なぜEUは免税枠を撤廃するのか
背景にあるのは、越境ECの急拡大による執行上の課題です。少額貨物が大量に流入する一方で、免税枠を使った申告が税関の処理能力を圧迫し、域内事業者との公正競争もゆがめているとの問題意識があります。EUはこの是正と域内財政の保全を目的に、免税枠の撤廃に踏み切りました。世界的な関税強化の流れの一環と捉えるのが正確です。
米国に続くEUの動き:少額免税の世界的な終わり
今回のEUの動きは突発的なものではなく、少額免税を見直す世界的な潮流の一部です。先行したのは米国でした。
米国はすでに全世界対象で撤廃済み
米国は2025年8月29日に、少額貨物の免税措置(デ・ミニミス)を全世界を対象に撤廃しました。当初の予定を前倒しする形での実施で、日本からの対米発送にもすでに影響が出ています。詳細は越境ECの少額免税が世界で終わるで解説しています。米国向けの物流設計を見直したい場合はアメリカ越境物流の実務も参考になります。
残された猶予は長くない
米国に続いてEUが動いたことで、「少額なら関税がかからない」という越境ECの前提は、主要市場から順に消えていきます。プラットフォーム課税の流れも同時に進んでおり、低価格を武器にした越境販売モデルは見直しを迫られています。プラットフォーム事業者への課税の動向もあわせて押さえておくと、制度変更の全体像が見えやすくなります。国際物流そのものの構造変化については国際物流の多元化・強靱化も参考になります。
重要なのは、こうした制度変更が一度きりではなく段階的に続いていくという前提です。米国は2025年に撤廃し、EUは2026年から暫定運用を経て2028年に本格化します。今後はほかの主要市場でも同様の見直しが進む可能性があり、「少額免税ありき」で組み立てた越境ビジネスは、制度の変化に弱い構造だと言えます。施行のたびに後追いで対応するのではなく、関税・VATがかかる前提で価格・商品設計・出荷体制を組み直しておくほうが、長期的には消耗が少なくなります。EU向けの販売比率が高い事業者ほど、この点を早めに織り込んでおくことが競争力の維持につながります。
日本の越境EC事業者への3つの影響
EUへ低単価の商品を小口で販売してきた事業者ほど、今回の変更の影響は大きくなります。前提として、EC市場そのものは国内外で拡大を続けています。
令和6年のBtoC-EC市場規模は26兆1,654億円となり、前年から拡大した。物販系分野が引き続き市場の中心を占めている。
市場が伸びている一方で、越境販売のコスト構造は制度変更で着実に重くなっています。需要があるからこそ、コスト前提の崩れを放置すると利益を取りこぼします。今回の影響は、次の3つに整理できます。
① 価格競争力への打撃
これまで関税ゼロで届けられていた150ユーロ以下の商品に、申告1行あたり3ユーロのコストが上乗せされます。単価の低い商品ほど、価格に占める関税・通関コストの比率が高くなり、現地の販売価格や送料設定に響きます。たとえば数百円〜数千円の小物を中心に扱う事業者は、商品1点あたりの利益に対して3ユーロの影響が相対的に大きく、薄利多売型の越境販売では利益率の前提そのものが変わります。EUの購入者にとっても受け取り時の負担感が増すため、カート離脱や返品の増加につながる可能性も見込んでおく必要があります。eBayのような越境向けマーケットプレイスで販売している場合も、同じ前提でコストを再計算しておきましょう。
② 通関・事務の負担増
免税枠の撤廃により、これまで簡易に通せていた貨物も申告対象になります。HSコードの特定や申告内容の正確性がこれまで以上に重要になり、誤りがあれば貨物の遅延や追加コストにつながります。商品ごとの分類や課税価格の考え方は、日本側の輸入でも共通する論点で、税関の実行関税率表で税率分類の基本を押さえておくと、輸出入双方の精度が上がります。HSコードの調べ方を社内で整備しておくことが、トラブル回避の前提です。国際配送の手段によって通関の進め方も変わるため、EMSやDHL Expressなど利用中のサービスの取り扱いも確認しておきましょう。
③ VATと関税の二重対応
EUでは2021年7月のIOSS導入により、150ユーロ以下の輸入物品でもすでにVAT(付加価値税)の徴収対象となっています。
輸入ワンストップショップ(IOSS)は、域外から輸入される150ユーロ以下の物品の遠隔販売について、付加価値税(VAT)の申告・納付を簡素化するための仕組みである。
つまり今後は、VAT(2021年〜)に加えて関税(2026年7月〜)の両方に対応する必要があります。輸入時の税負担を誰が負担するのか(事業者か購入者か)を販売条件で明確にしておかないと、現地での受け取り拒否やクレームの原因になります。通関の基本はJETROの輸入手続き解説でも整理されています。
EU向け輸出で取るべき3ステップ
施行前にやるべきことは多くありません。通関体制の確認・価格への反映・出荷単位の最適化という3ステップで、順を追って点検すれば十分間に合います。
特に効果が大きいのが出荷単位の見直しです。暫定関税は「申告1行あたり3ユーロ」のため、細かく小口分割して送るほど申告行数が増え、コストが積み上がります。複数注文をまとめて出荷したり、需要が読める商品は現地に在庫を持って配送したりすることで、申告コストの増加を抑えられます。下表に3ステップの要点を整理します。
| ステップ | やること | 狙い |
|---|---|---|
| ① 通関体制の確認 | VAT・IOSS登録、関税負担者の明確化 | 遅延・受取拒否を防ぐ |
| ② コストを価格に反映 | 3ユーロ+手数料を価格・送料へ | 利益率を守る |
| ③ 出荷単位の最適化 | まとめ出荷・現地在庫化 | 申告行数の増加を抑える |
施行日が迫っているため、まず着手すべきは①の通関体制の確認です。VATの登録状況、関税を誰が負担するかの販売条件、申告を委託している先との連携を点検し、抜けがあれば施行前に埋めておきます。②の価格反映は、利益率を守るうえで先送りできない判断です。③の出荷単位の最適化は時間がかかるため、まずは「まとめ出荷ができる体制か」を確認し、中期的に現地在庫化まで視野に入れて進めるとよいでしょう。7月1日を過ぎてから慌てて対応すると、貨物の遅延や予期せぬ追加コストを招きやすくなります。
出荷・物流体制の見直しという選択肢
制度変更そのものは避けられませんが、出荷・物流の体制を工夫することでコスト増の一部は吸収できます。ポイントは、関税や通関といった制度面の対応と、出荷の物理的な最適化を分けて考えることです。
出荷の最適化でコスト増を抑える
申告行数を抑えるためのまとめ出荷や、需要予測に基づく現地在庫化は、いずれも在庫管理と出荷オペレーションの設計問題です。国内側で在庫を一元管理し、出荷の単位やタイミングを最適化できる体制があれば、制度変更後も柔軟に対応できます。たとえば、同一顧客からの複数注文をまとめて1回の出荷に束ねれば、申告行数の増加を抑えられます。需要が安定している主力商品については、EU域内に在庫を置いて現地から配送する方法も、トータルのコストと配送スピードの両面で有利になる場合があります。越境ECの出荷設計は、制度変更を機に一度棚卸ししておく価値があります。あわせて、梱包資材の値上げも進んでいるため、過剰梱包の見直しによるコスト削減も同時に検討しましょう。
発送代行を出荷インフラとして活用する
国内の保管・梱包・発送を発送代行に委託すれば、出荷の単位やタイミングをコントロールしやすくなり、繁忙期の波動にも対応できます。STOCKCREWは海外発送にも対応しており、国内の出荷インフラとして越境販売を支えられます。サービスの詳細はSTOCKCREW完全ガイドで確認できます。なお、関税の申告やVATの納付といった通関手続きそのものは、専門の通関業者や税務の専門家が担う領域です。発送代行が担うのは保管・梱包・発送の最適化であり、制度対応とは役割が異なる点を整理しておきましょう。
まとめ:施行前に価格と通関の前提を点検する
2026年7月1日のEUデミニミス撤廃により、150ユーロ以下の小口貨物にも申告1行あたり3ユーロの暫定関税が課されます。米国に続くこの動きは、少額免税を前提とした越境販売モデルの転換点です。日本の事業者は、価格競争力・通関事務・VATと関税の二重対応という3つの影響を見据え、施行前に通関体制の確認・価格への反映・出荷単位の最適化を進めておく必要があります。
制度対応は専門家に委ねつつ、出荷・物流の最適化で吸収できる部分はしっかり抑えていきましょう。発送代行の仕組みと費用は発送代行完全ガイドで、サービスの詳細はSTOCKCREW完全ガイドで確認できます。自社の出荷体制を具体的に相談したい場合はお問い合わせから、コスト設計の考え方を体系的に学びたい方は資料ダウンロードもあわせてご活用ください。
よくある質問(FAQ)
Q. EUデミニミス撤廃はいつから始まりますか?
EU理事会が2026年2月に採択した新ルールにより、2026年7月1日から始まります。150ユーロ以下の貨物に、税関への輸入申告書の各行につき一律3ユーロの暫定関税が課されます。この暫定措置は2028年7月1日まで続き、その後はEUの関税データハブの稼働にあわせて通常の関税体系へ移行する予定です。
Q. 3ユーロの関税は商品ごとにかかるのですか?
商品ごとではなく、税関への輸入申告書の各行(品目区分)につき3ユーロが課されます。そのため、細かく小口に分けて送ると申告行数が増えてコストがかさみます。複数の商品や注文をまとめて出荷することで、申告コストの増加を抑えやすくなります。
Q. VATはこれまで通り別にかかりますか?
はい。EUでは2021年7月のIOSS導入により、150ユーロ以下の輸入物品でもすでにVATの徴収対象となっています。2026年7月以降は、このVATに加えて関税にも対応する必要があり、両方を前提に価格と販売条件を設計することが重要です。
Q. 低単価の商品ほど影響が大きいのはなぜですか?
申告1行あたり3ユーロという定額のコストは、商品単価が低いほど価格に占める割合が大きくなるためです。たとえば数百円の商品に3ユーロが加わると、原価構造への影響は無視できません。薄利多売型の越境販売は、価格設定や出荷単位の見直しが特に重要になります。
Q. 発送代行を使えば関税やVATの手続きも代行してもらえますか?
発送代行が担うのは国内の保管・梱包・発送の最適化であり、関税の申告やVATの納付といった通関手続きそのものは、通関業者や税務の専門家が担う領域です。発送代行は出荷単位の最適化や在庫管理を通じてコスト増の一部を吸収する役割と整理しておくと、対応の切り分けがしやすくなります。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。