国際物流の多元化・強靱化が加速する2026年|官民連携の最新動向と日本EC事業者への影響
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地政学リスクの高まり・海運市況の急変・脱炭素規制の強化——2025年から2026年にかけて、国際物流を取り巻く環境は急激に変化しています。そのなかで日本政府は「総合物流施策大綱(2026〜2030年度)」を策定し、国際物流の多元化と強靱化に向けた官民連携を加速させています。この流れは発送代行を含む日本のEC事業者にとっても無縁ではありません。商品の仕入れ・製造・配送のいずれかで海外サプライチェーンに関わるEC事業者は、今後の政策動向と自社への影響を把握しておく必要があります。
なぜ今「国際物流の強靱化」が急務なのか
重なるリスク——地政学・海運・脱炭素
2024〜2025年にかけて、国際物流は複数の危機に同時に晒されました。紅海でのフーシ派による商船攻撃により主要海運ルートの迂回を余儀なくされ、コンテナ運賃が一時的に急騰。パナマ運河の水不足による通航制限も追い打ちをかけました。さらに米中の貿易摩擦・輸出規制の強化が特定商材の調達を困難にし、日本企業のサプライチェーンが「特定ルート・特定国依存」の脆弱さを露呈しました。
これらのリスクは「一時的な問題」ではなく、気候変動・地政学の構造変化を背景とした常態化したリスクと認識されつつあります。国土交通省・経済産業省が2026年度の施策として「多元化と強靱化」を最重点に据えた背景はここにあります。
日本の輸出入への直接影響
日本の貿易構造を見ると、輸入品の約80%以上が海上輸送に依存しています。EC事業者が扱う商材——化粧品原料・繊維・雑貨・食品素材の多くは東アジア・東南アジアからの海上輸送に依存しており、ルートの混乱が直接的な仕入れコスト上昇・欠品リスクに結びつきます。
EC物流の観点では、倉庫内の在庫切れが国際サプライチェーンの乱れから始まるケースが増えています。「発送代行に在庫を預けているが、補充が間に合わない」という問題は、国際物流の強靱化なしには根本解決しません。
| リスク要因 | 直近の事例 | EC事業者への影響 |
|---|---|---|
| 地政学リスク | 紅海ルート迂回(2024〜2025年) | リードタイム延長・運賃上昇 |
| 気候変動 | パナマ運河水不足による通航制限 | 航路変更・遅延リスク |
| 貿易規制 | 米中輸出規制強化(半導体・先端技術) | 特定部材の調達困難・代替先開拓コスト |
| 脱炭素規制 | IMO 2050年GHG削減目標・EU ETS拡大 | 海運コスト増・低炭素燃料対応費用 |
強靱化の3本柱:ルート多元化・デジタル化・官民連携
3本柱の全体像
2026年に政府・民間双方が推進する国際物流の強靱化策は、大きく「ルートの多元化」「デジタル化・可視化」「官民連携」の3本柱に整理できます。この3本柱は独立したものではなく、相互に補完しながら「乱れても止まらない物流」を目指します。
ルート多元化:「中国+1」から「アジア広域」へ
従来の「中国+1(チャイナプラスワン)」戦略——中国に加えてもう1か国を調達先に持つ——から、2026年以降は複数の調達拠点・輸送ルートを組み合わせる「アジア広域分散」へと考え方が進化しています。ベトナム・タイ・インドネシアの生産拠点整備、インド・バングラデシュへの製造移転が日本の大手製造業・アパレル業界で進んでいます。
EC事業者にとっては「仕入れ先を複数国に分散する」ことが現実的な対応ですが、それぞれの国の通関・関税・輸送コストを把握するコストも増します。EC物流のコスト管理の観点では、多元化のメリットとコストを試算した上で段階的に対応することが重要です。
官民連携の具体的な動き──政府施策の最前線
国土交通省「総合物流施策大綱(2026〜2030年度)」の骨子
2026年度にスタートした「総合物流施策大綱」では、国際物流の強靱化を主要テーマの一つとして明示しています。具体的には、港湾の機能強化・国際海上コンテナターミナルの自動化・デジタル手続き(電子船荷証券の普及等)・複数航路の確保支援が柱として盛り込まれています。
総合物流施策大綱(2026〜2030年度)は、「強靱で持続可能な物流システムの構築」を基本目標に掲げ、国際物流の多元化・デジタル化・グリーン化を重点施策として位置づけている。特に地政学リスクを踏まえた輸送ルートの多元化と、港湾・空港の機能強化を通じた我が国の国際競争力の維持・向上を推進する。
経済産業省の越境EC支援策
経済産業省は、日本企業の越境EC展開を支援するため、JETRO(日本貿易振興機構)との連携による現地サポートや、輸出手続きのデジタル化を推進しています。特に中小EC事業者向けに、各国の関税制度・通関手続き・現地決済システムに関する情報提供と補助が強化されています。
また、2025年8月に撤廃されたデミニミス制度(低額輸入品の関税免除)の影響を受けた事業者向けに、代替的な輸出スキームの整備も進んでいます。越境ECに参入・拡大を検討している事業者は、これらの支援策を積極的に活用することが推奨されます。
我が国の電子商取引市場においては、国内EC市場の拡大にとどまらず、越境ECを通じた海外需要の取り込みが中小企業・スタートアップの成長機会として期待されている。経済産業省は越境ECの環境整備として、デジタル通関・物流効率化・越境決済の利便性向上に取り組んでいる。
民間の動き:大手物流企業の強靱化投資
ヤマトホールディングス・日本郵便・佐川急便・日本通運などの大手物流企業も、国際物流の多元化・デジタル化に向けた投資を加速しています。特に航空フレート(エアカーゴ)の自社便・提携便の拡充、東南アジア拠点の整備、デジタル追跡システムの高度化が進んでいます。
独立系の3PL発送代行事業者にとっても、国内の出荷オペレーションと国際物流の接続点——具体的には「輸入→国内倉庫入庫→国内発送」のシームレスな連携——が競争力の差別化要因になりつつあります。
越境EC・日本EC事業者への影響
輸入仕入れのリードタイムが変わる
国際物流の多元化が進むと、EC事業者の仕入れにどのような変化が生じるでしょうか。短期的には「ルート変更・新規サプライヤー開拓のコストと手間」が増えます。しかし中長期的には、特定航路への依存が低下し、リスクが分散されることで仕入れの安定性が高まります。
特に、インド・ベトナム・タイから商材を仕入れているEC事業者は、現地の物流インフラ整備が進むことで輸送コストの低減と配送スピードの改善が期待できます。EC物流における在庫管理の観点では、輸送リードタイムの変化を踏まえた安全在庫の見直しが必要になります。
越境ECの輸出側にとってのチャンス
日本から海外へ商品を販売する越境EC(輸出型)にとって、国際物流の強靱化は追い風です。デジタル通関の普及・電子船荷証券の標準化が進めば、輸出手続きのコストと時間が削減されます。また、日本政府がASEAN諸国との物流デジタル連携を推進することで、タイ・ベトナム・インドネシア市場への配送環境が改善されます。
日本の化粧品・食品・ヘルスケア商材は海外需要が高く、越境ECへの参入は有望な成長戦略です。国内の発送代行をベースに越境EC向けの輸出業務を追加する「ハイブリッド型」の物流設計を検討する価値があります。
デミニミス廃止後の越境EC環境
2025年8月29日に全世界を対象としてデミニミス制度(低額輸入品の関税免除)が撤廃されたことで、海外からの低価格品が日本市場に流入しにくくなりました。一方、日本から海外への輸出においても各国のデミニミス基準の変動が影響します。越境ECを検討するEC事業者は、仕向け国ごとの最新の通関・関税ルールを随時確認することが必要です。
国内物流においては、従来は海外低価格品と競合していた国内ブランドにとって改善の余地があります。ネットショップ運営の観点でも、「日本製・高品質・安心」の価値を改めて訴求できる環境が整いつつあります。
EC事業者が今から取るべき3つの対応
国際物流の強靱化は政府・大手物流企業が主導するものですが、EC事業者自身も自社のサプライチェーンを見直すことが求められます。以下の3点を優先して対応しましょう。
①仕入れルートの多元化──サプライヤーを1か国に絞らない
商材の仕入れ先を特定の1か国・1業者に集中させていると、地政学リスクや自然災害時に調達が完全に止まるリスクがあります。主要商材について2か国以上からの調達ルートを確保する「デュアルソーシング」を検討してください。
短期的なコスト増があっても、リスク分散の価値は長期的なビジネス継続性に直結します。特に化粧品・サプリメント・アパレルの素材調達においては、ASEAN圏のサプライヤー開拓が有効です。複数の仕入れルートに対応できる在庫管理体制を整えておくことが重要です。
②在庫バッファの見直し──「安全在庫」の基準を更新する
国際物流のリードタイムが変動しやすい環境では、従来の安全在庫の計算式が通用しなくなります。紅海迂回による標準リードタイムの延長(中東・欧州ルートで最大2〜3週間延長)を踏まえ、安全在庫日数を従来より1.5〜2倍に増やすことを検討してください。
在庫増に伴う保管コストの増加が懸念される場合は、在庫管理の最適化を通じてデッドストックを削減し、実効的な安全在庫を確保することが現実的です。STOCKCREWのような発送代行サービスでは、在庫状況のリアルタイム確認が可能で、補充タイミングの判断をサポートします。
③越境ECの検討──国内市場縮小のリスクヘッジとして
国際物流インフラの整備が進む今は、越境ECへの参入コストが下がるタイミングでもあります。国内市場の成熟・少子化による需要縮小リスクを考慮すると、越境ECによる海外市場開拓は中長期的なリスクヘッジとして有効です。
まずは国内で確立した発送代行体制をベースに、国際発送への対応を段階的に拡張するアプローチが現実的です。
| 対応策 | 対象事業者 | 優先度 | コスト感 |
|---|---|---|---|
| 仕入れルートの多元化 | 輸入品・海外素材を扱う事業者 | 高 | 中(サプライヤー開拓コスト) |
| 安全在庫の見直し | 全EC事業者 | 高 | 低〜中(在庫増分の保管費) |
| 越境ECへの参入検討 | 国内市場に限界を感じている事業者 | 中 | 中〜高(初期設定・現地対応) |
まとめ:「止まらない物流」時代に備える
2026年、国際物流の多元化・強靱化は政府施策として本格化しています。EC事業者として押さえておくべきポイントをまとめます。
- 地政学リスク・気候変動が国際物流の構造的リスクに——「たまに起きる問題」ではなく「常に備えるべき問題」
- 政府は強靱化3本柱(多元化・デジタル化・官民連携)を推進——越境EC支援策・港湾デジタル化などの恩恵が期待できる
- EC事業者はデュアルソーシング・安全在庫見直し・越境EC検討の3点を優先的に対応する
- 国内の発送代行体制を固めることが、国際物流リスク対応の土台になる
物流体制の見直しを進める際は、まず発送代行の活用から始めることをおすすめします。STOCKCREWは初期費用・固定費0円・最短7日導入・全国一律260円〜で、国内在庫管理と出荷体制を安定させながら国際物流対応の基盤を整えられます。詳細はサービス詳細またはお問い合わせ・資料ダウンロードからご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 国際物流の強靱化は中小EC事業者にも関係しますか?
はい、特に輸入品・海外製素材を扱っているEC事業者には直接関係します。仕入れコストの変動・リードタイムの延長リスクが高まっているため、安全在庫の見直しとサプライヤーの分散が推奨されます。越境ECによる海外市場開拓も選択肢の一つです。
Q. デミニミス廃止は日本のEC事業者にどう影響しますか?
2025年8月に全世界を対象にデミニミス制度(低額輸入品の関税免除)が撤廃されたことで、海外からの低価格品(特に中国越境EC)の流入が抑制される効果があります。国内製品を扱うEC事業者には競争環境の改善という側面があります。一方、日本から海外へ輸出する場合も仕向け国のデミニミス基準の変動を確認する必要があります。
Q. 発送代行は国際物流(輸入・越境EC)にも対応していますか?
発送代行サービスによって対応範囲は異なります。STOCKCREWは国内向けの発送代行に特化しており、輸入品の入荷・検品・保管・国内発送の一連の業務に対応しています。海外への直接発送(越境EC向けの国際発送)については、対応状況をお問い合わせください。
Q. 官民連携の施策はどこで情報収集できますか?
国土交通省の物流施策大綱・経済産業省の越境EC支援策はそれぞれの省庁公式サイトに掲載されています。JETRO(日本貿易振興機構)のウェブサイトでも、各国の通関制度・関税・越境EC規制に関する最新情報が無料で提供されています。定期的な情報収集を推奨します。
Q. 安全在庫はどのくらい持てばよいですか?
業種・商材・仕入れルートによって異なりますが、国際物流のリードタイム延長リスク(紅海迂回で最大2〜3週間延長の事例あり)を踏まえると、従来の1.5〜2倍の安全在庫日数を設定することを目安にしてください。保管コストが増加する場合は、国内の回転在庫に絞り込んだうえで発送代行の在庫管理機能を活用することが有効です。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。