置き配の標準サービス化でEC物流はどう変わる?
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国土交通省が「置き配」を宅配便の標準サービスとして位置づける標準運送約款の改正を進めています。2026年度以降の施行を見込んだこの改正は、EC事業者の配送戦略や顧客コミュニケーションに少なからず影響を与えます。この記事では、約款改正の背景と内容、EC事業者が受ける影響、そして発送代行を含む物流体制での対応策を解説します。
置き配の標準サービス化とは|約款改正の背景と目的
国土交通省は、宅配便の受け取り方法として「置き配」や宅配ボックスへの配送を標準サービスに位置づける方針を示しました。これに伴い、宅配事業者が準拠する標準運送約款の改正を進めています。
改正の背景:物流2024年問題と再配達
この動きの根底にあるのは、深刻化するドライバー不足と再配達問題です。2024年4月に施行されたトラックドライバーの時間外労働上限規制(いわゆる「物流2024年問題」)により、配送能力の制約はさらに厳しくなっています。再配達は配送効率を大幅に低下させ、ドライバーの労働時間と環境負荷の両面で問題視されてきました。
宅配便の再配達率は2025年4月時点で大手6社平均8.4%と、政府目標の6%を上回っている。国土交通省は置き配を標準サービスに位置づけることで、再配達の抑制を加速させる方針だ。
従来の標準運送約款では、宅配便は「対面での受け渡し」が原則とされていました。置き配は各事業者が独自のオプションサービスとして提供していた状態であり、法的な位置づけが不明確でした。約款改正により、置き配が正式なサービスとして明文化されることになります。
標準運送約款の改正ポイント【2026年版】
国土交通省が進めている標準運送約款の改正内容は、以下のとおりです。
改正の主要ポイント
| 項目 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 受け取り方法 | 対面受け渡しが原則 | 置き配・宅配ボックス・ロッカー受取を標準選択肢に追加 |
| 消費者の選択権 | 事業者ごとにオプション提供 | 受取方法を消費者が選択できる仕組みを明示 |
| 施行時期 | —— | 2026年度以降を目指して調整中 |
重要な誤解の解消
この改正について「対面受け取りが廃止される」という誤解が広がっていますが、対面受け取りは引き続き選択可能です。改正の趣旨は「置き配を含む複数の受け取り手段を、消費者が自由に選択できるように制度として明確化すること」であり、受け取り方法の選択肢が広がる改正です。
対象となる受け取り方法
- 玄関前への置き配——最も一般的な形態。戸建て・マンション入口が対象
- 宅配ボックスへの配送——マンション共用宅配ボックスや個人用宅配ボックス
- 宅配ロッカー——駅やコンビニ併設のロッカーでの受け取り
- コンビニエンスストアでの受け取り——既に各モールで導入が進んでいる
- 従来の対面受け取り——引き続き選択可能
EC事業者への影響|配送フローと顧客対応の変化
置き配の標準サービス化は、EC事業者の運営に複数の影響を及ぼします。
影響①:配送完了率の向上
置き配が標準化されることで、不在時にも配送が完了するケースが増えます。これにより初回配達完了率が向上し、再配達によるコスト増や配送遅延のリスクが低減されます。EC事業者にとっては、注文から受け取りまでのリードタイムが実質的に短縮される効果が期待できます。
影響②:配送トラブル対応の変化
置き配の普及に伴い、「届いていない」「盗難された」「雨で濡れた」といったトラブルが一定数発生することが予想されます。EC事業者のカスタマーサポート体制に、置き配固有のトラブル対応フローを追加する必要があります。
影響③:商品の梱包要件の変化
対面受け渡しが前提であれば「配達員が手渡す」品質が担保されますが、置き配では屋外に一定時間放置される前提で梱包を設計する必要があります。防水性、耐衝撃性、プライバシー保護(中身が分からない外装)への配慮が、梱包品質の新たな基準になりつつあります。
影響④:配送方法の選択肢をECサイト上で提示する必要性
消費者が受け取り方法を自由に選べる制度が整備されるため、ECサイトの注文フローにおいても受け取り方法の選択UIを用意することが求められるようになります。「置き配」「宅配ボックス」「コンビニ受取」「対面」の選択肢を明示し、消費者の利便性を高めることが転換率の向上にもつながります。
政府は「置き配ポイント」制度も導入しており、再配達削減に向けた施策を多層的に展開しています。詳しくは国土交通省の再配達削減ページをご確認ください。EC物流の全体設計については、EC物流の基礎知識ガイドで体系的に解説しています。
再配達率の現状と置き配による改善効果
再配達はEC物流全体のコスト構造に大きく影響しています。
再配達率の推移
| 時期 | 再配達率 | 備考 |
|---|---|---|
| 2020年10月 | 約11.4% | コロナ禍で在宅率が高かったにもかかわらず高水準 |
| 2023年10月 | 約12.1%(都市部) | 社会活動正常化により上昇 |
| 2025年4月 | 8.4%(大手6社平均) | 各社の置き配・ロッカー施策の効果で低下傾向 |
| 政府目標 | 6.0% | 2026年度中の達成を目指す |
宅配便の取扱個数は年間50億個を突破しており、再配達率1%の削減は年間約5,000万個の配送効率化に相当する。ドライバーの労働時間の削減とCO2排出量の低減にも寄与する。
EC事業者への示唆
再配達率の低下は、配送コストの削減とリードタイムの短縮という2つのメリットをEC事業者にもたらします。再配達1件あたりのコストは推計200〜300円とされ、これが削減されれば物流コスト全体の改善につながります。
配送コストの構造については、EC送料の考え方の記事もあわせてご確認ください。
EC事業者が今から準備すべき5つのアクション
2026年度の約款改正施行に向けて、EC事業者は以下の準備を進めることをおすすめします。
- 配送方法の選択UIをECサイトに実装する——注文フローに「置き配」「宅配ボックス」「コンビニ受取」「対面」の選択肢を追加します。Shopifyやecforceなどの主要カートシステムでは、配送方法の選択機能がすでに用意されているケースが多いです。
- 梱包設計を見直す——置き配前提の梱包では、防水性と耐衝撃性が重視されます。発送代行を利用している場合は、梱包資材の変更について業者と事前に協議しておきましょう。
- 置き配トラブル時の対応フローを整備する——「届いていない」「盗難」「破損」への対応手順をカスタマーサポートのマニュアルに追加します。運送会社の補償制度と自社の対応範囲を明確にしておくことが重要です。
- 発送代行業者との連携を確認する——利用中の発送代行業者が置き配対応の配送ラベル出力やシステム連携に対応しているか確認します。ヤマト運輸・佐川急便との連携体制が整っている業者であれば、約款改正後もスムーズに対応できます。
- 顧客コミュニケーションを準備する——購入完了メールや発送通知メールに「お届け方法の変更はこちら」といった案内を追加し、消費者が受け取り方法を柔軟に変更できることを周知します。
発送代行の選び方については、発送代行サービスの選び方ガイドで詳しく解説しています。配送キャリアごとの特徴は、ヤマト運輸の配送サービスや佐川急便の配送サービスの記事もご参照ください。
まとめ:置き配標準化はEC物流の転換点
置き配の標準サービス化は、EC事業者にとって配送効率の改善と顧客体験の再設計を同時に求められる転換点です。この記事のポイントを振り返ります。
- 国土交通省は標準運送約款を改正し、置き配を宅配便の標準選択肢として明文化する方針。施行は2026年度以降
- 対面受け取りは廃止されず、受け取り方法の選択肢が広がる改正である
- EC事業者への影響は、配送完了率の向上・トラブル対応の変化・梱包要件の変化・UI対応の4点
- 再配達率の低下は配送コスト削減とリードタイム短縮の両面でEC事業者にメリットがある
- 今から準備すべきは、配送選択UI・梱包設計・トラブル対応フロー・発送代行との連携確認・顧客コミュニケーションの5つ
置き配時代の物流体制を構築したい方は、発送代行サービスの選び方ガイドをご覧ください。STOCKCREWのサービス詳細もご確認いただけます。物流体制のご相談は、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
Q. 置き配の標準化はいつから施行されますか?
国土交通省は2026年度以降の施行を目指して標準運送約款の改正を進めています。2025年秋頃に約款改正の提言が行われ、その後パブリックコメントを経て正式に施行される見通しです。
Q. 置き配が標準化されると対面受け取りはできなくなりますか?
いいえ、対面受け取りは引き続き選択可能です。約款改正の趣旨は「対面受け取りの廃止」ではなく、「置き配を含む複数の受け取り手段を消費者が自由に選択できるように制度として明確化すること」です。
Q. 置き配の盗難リスクにEC事業者はどう対応すべきですか?
運送会社の補償制度と自社の対応範囲を明確にし、カスタマーサポートのマニュアルに置き配トラブル対応フローを追加しましょう。また、中身が分からない外装の使用や置き配保険の案内など、予防策と事後対応の両面で準備することが重要です。
Q. 発送代行を利用している場合、置き配対応で何か変わりますか?
発送代行業者がヤマト運輸・佐川急便と連携している場合、配送ラベルへの置き配指定は運送会社側のシステムで処理されるため、大きな変更は不要です。ただし、置き配前提での梱包設計(防水性・耐衝撃性)については業者と事前に協議しておくことをおすすめします。
Q. 再配達率の削減はEC事業者にどのようなメリットがありますか?
再配達1件あたり推計200〜300円のコスト削減効果があります。また、初回配達で受け取りが完了すれば注文から受け取りまでのリードタイムが短縮され、顧客満足度の向上にもつながります。年間50億個の宅配便のうち再配達率1%の削減は約5,000万個の配送効率化に相当します。
この記事の監修者
北原一樹
株式会社KEYCREW オペレーション部長。大手物流会社にて現場担当からセンター長を経て、営業・管理職を12年間歴任。物流業界での経験は24年に及ぶ。大規模顧客の初のEC・DCが併設された10,000坪規模の大型倉庫の立ち上げを主導した実績を持ち、月間100Mの赤字を抱えていた物流センターをわずか3か月で黒字化に転換させた。現在はSTOCKCREWにおいて部門管理・各拠点の収支管理・業務改善を統括。「現地・現物」「数字で現場を見る」「何事にも基準を作る」を信条に、年間5千万点の入出荷を支える高品質な物流オペレーションを実現している。