ベトナム電子商取引法2026年7月施行|越境EC事業者が今すぐ対応すべき規制変更と実務対応5選
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ベトナムが2026年7月1日、新たな電子商取引法を全面施行する。2025年12月に国会(国民議会)で可決されたこの法律は、外国のECプラットフォームや越境販売事業者を直接規制の対象とし、現地法人または現地代理人の設置、全出品者の本人確認義務、消費者保護への連帯責任という3つの義務を新たに課す。
ベトナムのEC市場は2026年に333億5,700万米ドル規模に達する見通しで、東南アジアで最も高成長の市場のひとつだ。Shopee・TikTok Shop・Lazadaを通じてベトナム向けに販売している日本のEC事業者にとって、7月1日は実質的な「対応期限」となる。
本記事では、新法の主要条項と日本EC事業者への影響を整理し、発送代行を含めたベトナム向け越境EC物流の実務ポイントまで解説する。
ベトナム越境EC市場の現状と2026年の転換点
東南アジア最速成長市場の実力:2026年の市場規模データ
ベトナムのEC市場は、2026年第1四半期だけで約134.6兆ベトナムドン(VND)の売上を記録し、前年同期比で32.74%増という急成長を継続している。年間換算では333億5,700万米ドル規模に達する見込みで、2031年には873億6,000万米ドルへの拡大が予測されている。
越境EC(輸出入)の規模も急拡大しており、2024年の越境ECの輸出入総額は41億米ドルに達し、そのうち輸出が17億米ドル、2025年の輸出は前年比18%増の約20億米ドルと推定されている。日本から見ると、ベトナムは美容・スキンケア・食品・ファッションの「日本製品への需要が実証されている市場」でもある。
| 商材カテゴリ | ベトナムでの需要動向 | 主な購買プラットフォーム |
|---|---|---|
| 美容・スキンケア | 日本製品への信頼が高く越境購入が定着 | Shopee、TikTok Shop |
| 健康食品・サプリメント | 健康意識の高まりで需要増加 | Shopee、Lazada |
| ファッション・アパレル | 日本ブランドのプレミアム感が評価される | TikTok Shop、Shopee |
| 食品・調味料 | 在越日系コミュニティ+現地志向層が購買 | Shopee、直販サイト |
TikTok Shopの急台頭とプラットフォーム競争の変化
ベトナムのEC市場では、TikTok Shopがライブコマースを武器に急速にシェアを拡大しており、Shopee・Lazadaとの三つ巴の競争が激化している。日本の事業者がベトナム向けに出品する場合、この3プラットフォームが現実的な販売チャネルとなる。しかし新法施行により、これらプラットフォームを通じた越境販売の「手続きコスト」が一定程度上昇することが見込まれる。
タイが2026年1月から全越境EC商品に関税・VAT7%を課税開始したタイ越境EC新税制と同様に、ベトナムの規制強化は東南アジア全体のEC規制厳格化の流れの一部だ。ベトナム・フィリピンの越境EC市場概況も参照しながら、市場参入の是非を再評価するタイミングでもある。
ベトナム電子商取引法(2025年12月制定)の概要
法律制定の経緯と施行スケジュール
ベトナム国民議会は2025年12月10日、新「電子商取引法(Law on E-Commerce)」を可決した。施行日は2026年7月1日で、それまでの猶予期間(約7か月)に各事業者・プラットフォームが対応を完了することが求められている。
法律制定の主な背景には3点ある。第一に、Temu・SHEINをはじめとする外国プラットフォームの急成長によるベトナム国内産業への影響への懸念、第二に、越境EC取引における脱税・課税逃れの防止、第三に、外国セラーを介した消費者トラブルの増加への対応だ。SHEIN・TEMU台頭への対抗戦略は日本国内でも議論されているが、ベトナムは法制化という形で直接規制を打ち出した。
法律の適用範囲:域外適用の原則
本法律の特徴は「域外適用(extraterritorial application)」の原則を採用している点にある。ベトナム国内に拠点がなくても、ベトナムの消費者・事業者を対象にEC活動を行う全ての外国企業・個人が適用対象となる。
具体的には、以下に該当する事業者は日本国内に拠点があってもベトナムの新法に従う義務が生じる。
- Shopee・Lazada・TikTok ShopなどでベトナムのバイヤーにB2C販売している出品事業者
- ベトナム語の独自ドメインECサイトでベトナム向けに販売している事業者
- ベトナムのBtoB顧客向けにEC経由で商品を販売している事業者
EU・米国・タイなど他国の規制強化の波と合わせて、越境EC市場の規制動向を包括的に把握することが事業継続の前提となっている。
外国プラットフォームに課される3つの義務
義務①:現地法人設置または現地代理人(ローカルリプレゼンタティブ)の指定
新法の最大の規制は、ベトナム向けにECサービスを提供する外国プラットフォーム事業者に対し、ベトナム国内に法的エンティティを設置するか、ベトナム在住の現地代理人を指定することを義務付けた点だ。
この現地代理人は以下の役割を担う。
- ベトナム税務当局への申告・納税手続きの代行
- 消費者からのクレーム対応窓口の設置
- ベトナム当局からの調査・問い合わせへの対応
- コンプライアンス違反時の責任主体としての機能
法律専門家はこれを「ベトナムプレゼンステスト」と呼んでいる。このテストを満たさない外国プラットフォームはベトナム国内でのサービス提供を制限される可能性がある。EU少額小包への定額関税導入(2026年7月から施行)と並行して、越境ECに関する規制の「域外適用」トレンドが世界的に加速していることがわかる。
義務②:全出品者の本人確認(KYC)の義務化
プラットフォーム事業者は、外国セラーを含む全ての出品者の身元を確認する義務を負う。具体的には、事業者名・登録番号・国・連絡先情報等の確認と記録保持が求められる。
これは販売者として出品している日本のEC事業者にとって直接影響する。Shopee・TikTok Shopで出品中の事業者は、プラットフォームから事業者情報(会社名・法人番号・代表者名・住所等)の再提出・再確認を求められる可能性が高い。出品アカウントの停止リスクを回避するため、事前に登録情報の正確性を確認しておくことが重要だ。
義務③:外国セラーに代わる消費者保護対応
新法では、プラットフォームが外国セラーに代わってベトナム消費者からのクレームや紛争を処理する責任を明示的に課した。日本の事業者が提供した商品に不具合や配送問題が発生した場合、プラットフォームが一次対応窓口として機能する仕組みだ。
ただし、この義務はプラットフォームに課されているものの、不履行が続く出品者はアカウント停止等の措置を受ける可能性がある。返品・交換ポリシーの整備や問い合わせへの迅速な対応体制を日本側でも構築しておく必要がある。
なお、日本の特定商取引法では返品に関して以下のように定められており、越境EC事業者が海外向けポリシーを設計する際の参考になる。
通信販売では、商品の引渡しを受けた日から数えて8日以内であれば、消費者は事業者に対して、契約申込みの撤回や解除ができ、消費者の送料負担で返品ができます。もっとも、事業者が広告であらかじめ返品特約を表示している場合には、その特約が優先されます。
Shopee・TikTok Shop出品者への具体的影響
越境セラーとして求められる新しい申告・登録手続き
Shopee・TikTok ShopなどのプラットフォームはすでにKYC義務への対応を開始しており、2026年7月1日に向けて出品者情報の再確認・追加提出を段階的に要請する見込みだ。日本のEC事業者が対応すべき主な手続きは以下のとおりだ。
- 法人名・登録番号の正確な登録——日本の法人登録情報をプラットフォームの「ビジネス情報」欄に正確に入力する
- 商品情報の現地規制準拠確認——ベトナムで販売禁止・制限される商品カテゴリに該当しないか確認する
- 返品・クレーム対応ポリシーの整備——ベトナム向け返品条件をプラットフォームポリシーと合わせて設定する
- 連絡先メールアドレス・担当者の設定——プラットフォームからの通知を受け取れる担当者を明確に設定する
米国のデミニミス制度撤廃(越境ECへの影響詳細)のように、越境EC事業者にとって規制対応は今後も継続的に発生するコストとなる。早期に対応フローを標準化しておくことで、毎回の工数を最小化できる。
独自ドメインECサイトでベトナム向け販売をしている場合
プラットフォームを介さず自社サイトでベトナム向けに販売している事業者は、より直接的な義務が発生する。
| 販売形態 | 現地代理人の必要性 | 優先対応事項 |
|---|---|---|
| Shopee/TikTok Shop経由の出品のみ | 不要(プラットフォームが対応) | 出品者情報の再確認・KYC書類準備 |
| 自社サイト+プラットフォーム出品 | 自社サイト分は要検討 | 弁護士・コンサルへの相談推奨 |
| 自社サイトのみ(独自ドメイン) | 義務的な設置が必要 | 現地代理人契約の締結(7月1日前) |
自社ECサイトでのベトナム向け販売規模が小さい場合、対応コスト(現地代理人費用:年間数十万円〜)と売上規模を比較した上で、プラットフォーム経由への集約か販売継続かを判断することが現実的だ。越境EC個人・小規模事業者向けガイドも参考にしながら判断軸を整理することを勧める。
7月1日施行前に対応すべき5つのチェックポイント
プラットフォーム出品事業者が6月末までに確認すること
Shopee・TikTok Shop・Lazadaを通じてベトナム向けに販売している日本の事業者は、以下の5点を6月末までに確認・整備しておきたい。
- 出品アカウントのビジネス情報を最新状態に更新する——法人名・登録番号・代表者・連絡先等の正確性を確認し、変更がある場合はプラットフォームの管理画面で更新する。施行後にプラットフォーム側から情報確認の要請が来る前に先手を打つことで、アカウント一時停止のリスクを避けられる。
- 販売商品のカテゴリ・成分規制を確認する——ベトナムでは特定の化学成分・食品添加物・医薬品類似品について規制が存在する。美容・健康食品カテゴリは特に注意が必要で、JETRO等のベトナム規制情報を確認する。
- 返品・クレーム対応フローをベトナム向けに整備する——プラットフォームポリシーに準拠した返品条件(商品受取から何日以内か)をショップページに明記する。消費者保護の観点から、ベトナムはEUの消費者指令と同様に返品権の強化が進んでいる。
- 税務・インボイス要件を確認する——ベトナム向け商品のインコタームズ設定(DDPかDAP/DAPUか)を見直し、関税・VATの負担者を明確にする。DDPで輸出している場合、現地VATの申告義務が発生する可能性がある。
- 自社サイトのベトナム向け売上規模を把握し、現地代理人設置の要否を判断する——月間売上が一定規模(目安:年間1,000万円以上)を超える場合は現地代理人または現地法人の設置を法務専門家に相談する。コスト対効果が合わない場合はプラットフォーム経由への集約を検討する。
長期的な体制整備:越境EC規制対応を「常設フロー」にする
米国の相互関税(トランプ相互関税の影響)、EU少額小包への定額関税、タイのVAT課税、そして今回のベトナム電子商取引法と、越境EC規制の強化は一時的な出来事ではなく構造的なトレンドだ。
国別の規制情報を毎年確認するだけでなく、越境EC発送代行の活用など物流コスト・手続きを集約する仕組みを整えることで、規制変化への対応コストを平準化できる。
令和5年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、24.8兆円(前年22.7兆円、前々年20.7兆円、前年比9.23%増)に拡大しています。また、EC化率は、BtoC-ECで9.38%(前年比0.25ポイント増)と増加傾向にあり、商取引の電子化が引き続き進展しています。
日本国内のEC市場がEC化率9.38%に達した現状において、成長余地が大きい海外市場への展開は事業拡大の有力な選択肢だ。ただし、規制対応コストを織り込んだ上での参入判断が求められる。
ベトナム向け越境EC物流設計の実務ポイント
配送手段の選択:リードタイムとコストのトレードオフ
ベトナム向け越境EC物流には主に3つの選択肢がある。各手段の特性を理解した上で、商材・客単価・顧客期待に合わせた選択が重要だ。
| 配送手段 | リードタイム | コスト水準 | 向いている商材 |
|---|---|---|---|
| 国際eパケット・EMS | 5〜14営業日 | 低〜中 | 小型・軽量の美容品・サプリ |
| 国際宅配便(FedEx・DHLなど) | 3〜7営業日 | 高 | 高単価・時間指定ニーズのある商品 |
| 国際航空便・海上混載(LCL) | 10〜30日 | 低 | 重量・嵩のある商品・まとめ送り |
海外発送代行を利用する場合、日本国内の倉庫に在庫を集約し、受注ごとに国際配送する形が一般的だ。国内倉庫の管理と国際発送を一本化することで、個別の輸出手続き工数を削減できる。
近年の通信販売、特にインターネットを利用した通信販売(EC)の伸びとともに、宅配便の取扱個数は急伸しており、令和5年度は約50億個にのぼっています。
国内EC需要の急拡大が国際物流にも波及しており、ベトナムを含む海外向け発送の需要も右肩上がりだ。物流インフラを早期に整備しておくことで、規制対応と同時に物流コスト最適化も実現できる。
STOCKCREWを活用したベトナム向け発送代行の実務
STOCKCREWでは発送代行サービスとして海外向け発送にも対応しており、ベトナムを含む東南アジア向けの配送料金は以下を参考にしてほしい。
アジアゾーン(中国・韓国・台湾・東南アジア等)向けの海外発送料金は、書類パック1,300円〜、60サイズ2,750円〜、80サイズ4,650円〜(いずれも税抜)で、国内発送との価格差を抑えた物流設計が可能だ。初期費用・固定費0円で利用開始でき、最短7日での導入が可能なため、ベトナム向け販売の立ち上げフェーズでも負荷なく始められる。
越境EC向け海外発送代行サービスの選び方については、対応国・梱包品質・関税書類作成の対応可否を中心に比較することを勧める。越境ECの関税の仕組みと国別税率も参照しながら、ベトナム向けのインボイス・梱包仕様を整備しておきたい。
まとめ:規制変化を成長機会に変える視点
ベトナム電子商取引法の2026年7月1日施行は、越境EC事業者にとって対応コストが発生するイベントである一方、規制への対応を完了した事業者が競合優位を獲得するタイミングでもある。
対応が遅れた競合がプラットフォームから退場する中、出品者情報・返品ポリシー・消費者対応フローを整備した事業者は信頼性の高いセラーとして差別化できる。東南アジアの規制強化は今後も続く傾向にあり、韓国越境EC市場の規制動向や台湾越境EC市場の戦略と合わせて、地域横断の規制マップを持つことが越境EC事業者には欠かせない。
発送代行で国内在庫を一元管理しながら海外向け出荷を行う体制を整え、規制変化に左右されない越境ECの基盤を構築していただきたい。物流体制の見直しを検討している場合は、お問い合わせまたは資料ダウンロードからご連絡ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ベトナム電子商取引法はいつから施行されますか?
2026年7月1日に全面施行されます。法律自体は2025年12月10日にベトナム国民議会で可決されており、約7か月の猶予期間が設けられています。外国プラットフォーム事業者・越境EC事業者は7月1日までに現地代理人の指定や出品者情報の整備などを完了させる必要があります。
Q. Shopeeで出品しているだけでも新法の影響を受けますか?
Shopee・TikTok Shop・Lazadaなどのプラットフォームを通じてベトナム向けに出品している場合も影響を受けます。プラットフォーム側が現地代理人設置義務を負う一方で、出品者(日本のEC事業者)には本人確認(KYC)書類の提出・更新が求められます。プラットフォームから通知が来る前に、アカウントの法人情報を最新状態に更新しておくことを推奨します。
Q. 自社サイトでベトナム向けに販売している場合、現地法人の設置は必須ですか?
自社ドメインのECサイトでベトナムの消費者向けに販売を行っている場合、法律上は現地法人の設置または現地代理人の指定が義務付けられます。現地代理人のコストは年間数十万円〜が目安で、売上規模に対してコスト対効果が合わない場合は、プラットフォーム経由への販売チャネル集約も選択肢の一つです。法務専門家への相談を推奨します。
Q. ベトナム向け越境ECの配送コストはどれくらいかかりますか?
発送代行サービスを利用した場合、アジアゾーン(ベトナムを含む)向けの配送料金は書類パック1,300円〜、60サイズ2,750円〜(税抜)が目安です。商材サイズや重量、必要なリードタイムに応じて国際eパケット・国際宅配便・海上混載を使い分けることで、コストを最適化できます。
Q. ベトナム向け発送に発送代行は利用できますか?
利用できます。発送代行サービスを活用すると、日本国内の倉庫に在庫を一元管理しながら受注ごとに海外向け発送が可能で、輸出書類(インボイス・梱包明細等)の作成負担も軽減されます。STOCKCREWでは海外発送に対応しており、初期費用・固定費0円、最短7日で導入できます。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。