価格転嫁率54.2%どまり|EC事業者が物流費・労務費を転嫁する実務【2026年価格交渉促進月間】
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仕入れ値も、人件費も、送料も上がる。それでも「販売価格や納入価格に上乗せできているか」と問われると、胸を張れないEC事業者は少なくないはずです。中小企業庁が2026年6月26日に公表した価格交渉促進月間のフォローアップ調査によると、2026年3月時点の価格転嫁率は54.2%にとどまりました。上がったコストの半分ほどしか価格に反映できていない計算です。とくに物流に直結する労務費やエネルギーコストの転嫁は、原材料費より遅れています。この記事では、公表された最新データを一次情報で押さえたうえで、EC事業者が「受注側」「発注側」の両面で価格交渉と転嫁をどう進めるかを実務目線で整理します。物流費が上がり続ける構造はなぜ宅配運賃は毎年上がるのかとあわせて押さえておくと、転嫁交渉の材料になります。
価格交渉促進月間と2026年の調査結果
価格交渉促進月間とは
まず制度を押さえます。価格交渉促進月間は、原材料費・労務費・エネルギーコストなどの上昇分を取引価格に反映しやすい環境をつくるため、中小企業庁が毎年3月と9月に設定している取り組みです。価格改定を4月と10月に行う企業が多いことから、その前月を月間として、広報・講習会・調査を集中的に行います。月間のあとには、受注側の中小企業30万社を対象にフォローアップ調査を実施し、価格転嫁の実態を数字で公表します。今回の調査は約6万9千社が回答した大規模なものです。
2026年3月時点の調査結果
2026年6月26日に公表された最新の結果を見ると、価格交渉が「行われた」割合は高い一方で、実際にコスト上昇分を価格に反映できた価格転嫁率は54.2%にとどまりました。交渉のテーブルには着いても、上がった分の半分ほどしか通っていないのが実情です。
価格転嫁率は、前回から約1ポイント増の54.2%となりました。コスト要素別の転嫁率は、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%です。
出典:経済産業省・中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2026年6月26日)
物流に効くコストほど通っていない
この結果で注目したいのは、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%と、物流コストを押し上げる要素の転嫁が原材料費(55.7%)より遅れている点です。倉庫の人件費や配送の燃料費が上がっても、その分を価格に反映できていない事業者が多いことを示しています。交渉そのものは広く行われており、公的な後押しも続いています。
「価格交渉が行われた」割合は、前回から微増し90.7%となりました。(中略)官公需における価格転嫁率は、前回から約4ポイント減の48.4%となりました。
交渉率が9割を超えても転嫁率が5割台にとどまるのは、「交渉はしたが、全額は通らなかった」ケースが多いためです。物流費が構造的に上がる背景は国が運賃の「原価」を定義し始めたでも取り上げています。
なぜEC事業者に関係するのか(受注側・発注側の二面性)
EC事業者は二つの顔を持つ
この調査は製造業の下請取引がイメージされがちですが、EC事業者にとっても他人事ではありません。多くのEC事業者は、取引のなかで「受注側」と「発注側」の二つの顔を持っているからです。卸やメーカー、モールに商品を納める場面では自分が受注側になり、配送・梱包資材・製造や物流を委託する場面では発注側になります。
つまりEC事業者は、受注側としては上がったコストを納入価格に転嫁する努力をしつつ、発注側としては委託先に適正な対価を支払う責任も負います。どちらか一方だけでは、サプライチェーン全体のコスト上昇は解消しません。
川下ほど価格を通しにくい
調査では、受注企業の取引階層が深くなるにつれて価格転嫁の割合が低くなる傾向が示されています。原材料に近い川上よりも、消費者に近い川下のEC事業者ほど価格を通しにくい構造にあるということです。値上げをそのまま消費者価格に乗せれば売上が落ちかねない、という板挟みも川下ほど強く働きます。だからこそ、感覚ではなく数字で交渉に臨み、通せる部分は通し、通せない部分はコスト削減で吸収するという切り分けが欠かせません。仕入れ側の交渉から自社の値づけまでの流れは小ロット仕入れとコスト構造やメーカー直送(ドロップシップ卸)とは?も参考になります。
| 立場 | 相手 | やるべきこと |
|---|---|---|
| 受注側 | 卸・メーカー・モール・BtoB顧客 | コスト上昇の根拠を示して納入価格を交渉 |
| 発注側 | 配送会社・資材業者・物流委託先 | 買いたたきを避け、適正な支払条件を守る |
受注側として価格転嫁を進める3ステップ
①コスト上昇を数字で示す
価格交渉で最も効くのは、「いくら上がったか」を具体的な数字で示すことです。送料の改定額、梱包資材の値上がり、倉庫の人件費の増加を、商品1個あたりに落とし込んで根拠にします。原価をどう計算するかは原価率の計算方法とEC業種別の目安を、値づけの考え方は仕入れ単価と販売価格の決め方や上代・下代と掛け率の設計を土台にすると、交渉相手に説明しやすくなります。
②交渉のタイミングを改定前に合わせる
調査でも触れられているとおり、価格改定は4月と10月に行う企業が多く、だからこそ前月の3月・9月が月間に設定されています。EC事業者も、この改定サイクルに合わせて交渉を切り出すと通りやすくなります。とくに2026年9月の価格交渉促進月間は、10月の改定に向けた絶好の機会です。値上げが集中する時期の需要動向は2026年夏の値上げラッシュと物流費高騰も判断材料になります。
③交渉の経緯を記録する
交渉がまとまらなかった場合でも、いつ・何を・どう伝えたかを記録しておくことが重要です。調査では、全額転嫁に至らなかった企業のうち、発注企業から「納得できる説明があった」と回答したのは約6割にとどまりました。裏を返せば、4割は納得のいく説明を受けられていないということです。説明の有無や合意内容を残しておけば、次の交渉やトラブル時の材料になります。発注書のやり取りの基本はPO(発注書)とは?EC仕入れでの使い方にまとめています。
発注側として取引を適正化する
買いたたきを避け、支払条件を守る
EC事業者は、配送会社や資材業者、物流委託先に対しては発注側です。自社がコスト転嫁を求める一方で、委託先には一方的な単価の据え置きや買いたたきを求めていないか、点検が必要です。取引適正化の考え方は中小企業庁「取引適正化・価格交渉・価格転嫁」にまとまっています。支払面では改善が進む一方、長い支払サイトの残存も指摘されています。
取引代金の支払について、支払手段を「現金のみ」とした回答が87.5%まで増加した。一方、支払期日が60日を超過している企業の割合が全体の6.6%残存する結果となった。
| 点検項目 | 望ましい状態 | 避けるべき状態 |
|---|---|---|
| 単価の見直し | コスト上昇を反映した改定に応じる | 根拠なく単価を据え置く(買いたたき) |
| 支払手段 | 現金・振込で支払う | 受注側の負担が重い手段に偏る |
| 支払期日 | 納品後できるだけ早く支払う | 60日を超える長い支払サイト |
「発注者リスト」で自社の姿勢も見られる
もう一つ意識しておきたいのが、取引先としての自社の姿勢が外から見られる時代になっている点です。中小企業庁は、発注者ごとの価格交渉・転嫁の評価を記載した「発注者リスト」を公表しており、2026年も8月上中旬に最新版を公表する予定としています。委託先との関係を適正に保つことは、レピュテーションの面でも、安定した出荷体制の確保の面でも意味を持ちます。買いたたきで一時的にコストを抑えても、委託先が疲弊すれば配送品質やキャパシティに跳ね返り、結局は自社の出荷が不安定になります。適正な対価は、長い目で見れば安定供給への投資でもあります。委託先を含めた配送コストの見直しはEC物流のCPO削減実務ガイドも参考になります。
価格転嫁と物流コスト削減はセットで考える
「通す」と「下げる」の両輪
価格転嫁は重要ですが、上がったコストをすべて価格に乗せれば、今度は販売数量が落ちるリスクがあります。だからこそ、転嫁と物流コストそのものの削減を両輪で進めるのが現実的です。送料や梱包費を見直して1件あたりの出荷コストを下げられれば、転嫁すべき幅も小さくなり、価格競争力を保ちやすくなります。転嫁は交渉相手があるため一朝一夕には進みませんが、コスト削減は自社の裁量で今日から着手できる点が強みです。まず削減で足場を固め、それでも残る上昇分を転嫁で埋める、という順序で考えると現実的な計画になります。
出荷コストを下げて転嫁幅を小さくする
物流コストを数字で管理する方法はEC物流コストの可視化と削減実務ガイドに、送料上昇への具体策はカインズが通販送料を値上げの対策編にまとめています。梱包を一段小さくして運賃区分を下げる工夫は運賃の「サイズ区分」という階段構造で扱っています。出荷を外部化して固定費を変動費に変えれば、コスト構造そのものを軽くできます。発送代行の全体像は発送代行の始め方と業者選びで、対応範囲はSTOCKCREW完全ガイドで確認できます。転嫁で価格を守り、削減でコストを軽くする。この両輪がそろって初めて、値上げ局面でも利益を確保しやすくなります。
まとめ:9月の月間を前にやっておくこと
2026年3月時点の価格転嫁率は54.2%で、とくに労務費(50.0%)やエネルギーコスト(48.9%)といった物流に効くコストの転嫁は道半ばです。EC事業者は受注側と発注側の二つの立場を持つため、①受注側としてコスト上昇を数字で示して納入価格を交渉する、②発注側として委託先への買いたたきを避け支払条件を守る、の両面で取り組む必要があります。次の価格交渉促進月間は2026年9月で、10月の改定に向けた好機です。あわせて、価格転嫁と物流コスト削減をセットで進めれば、価格競争力を保ちながら利益を守りやすくなります。9月の月間までに、送料・人件費・資材費が商品1個あたりいくら上がったのかを整理し、交渉の材料をそろえておくと、いざ交渉に臨むときの説得力が変わってきます。まずは自社のコスト上昇を具体的な数字にすることから、着実に始めてみてください。出荷コストの見直しや外部化については発送代行の始め方と業者選びで確認できるほか、具体的なご相談はお問い合わせや資料ダウンロードから承っています。
よくある質問(FAQ)
Q. 価格交渉促進月間とは何ですか?
A. 原材料費・労務費・エネルギーコストなどの上昇分を取引価格に反映しやすくするため、中小企業庁が毎年3月と9月に設定している取り組みです。価格改定を4月・10月に行う企業が多いことから、その前月を月間とし、広報・講習会・フォローアップ調査を行っています。月間後には受注側中小企業30万社を対象に調査を実施し、価格転嫁の実態を公表します。
Q. 2026年の価格転嫁率はどのくらいですか?
A. 中小企業庁が2026年6月26日に公表したフォローアップ調査によると、2026年3月時点の価格転嫁率は54.2%でした。コスト要素別では原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%で、物流に効く労務費やエネルギーの転嫁が原材料費より遅れています。
Q. EC事業者にはどう関係しますか?
A. EC事業者は「受注側」と「発注側」の二つの立場を持ちます。卸やメーカー、モールへ納める場面では受注側としてコスト上昇の転嫁を交渉し、配送・資材・物流を委託する場面では発注側として適正な対価を支払う責任があります。どちらか一方だけでは、サプライチェーン全体のコスト上昇は解消しません。
Q. 価格転嫁を成功させるコツはありますか?
A. 大きく3つです。①送料や人件費の上昇を商品1個あたりの数字に落とし込んで根拠を示す、②価格改定が多い4月・10月の前月(3月・9月の月間)に合わせて交渉する、③交渉の経緯や説明の有無を記録に残す、です。数字と記録が、次の交渉やトラブル時の材料になります。
Q. 価格転嫁だけで利益は守れますか?
A. 転嫁だけに頼ると販売数量が落ちるリスクがあります。価格転嫁と、送料・梱包費など物流コストそのものの削減を両輪で進めるのが現実的です。1件あたりの出荷コストを下げられれば転嫁すべき幅も小さくなり、価格競争力を保ちやすくなります。出荷の外部化で固定費を変動費に変える方法もあります。
この記事の監修者
金子将大
株式会社KEYCREW ソリューション部門の責任者。大手ECプラットフォーム会社にてEC構築に関する開発・PM業務を7年間担当し、EC業界での豊富な技術知見を持つ。応用情報技術者・証券外務員2種の資格を保有。UIリニューアルやサービスリニューアルのプロジェクトマネジメント、Temu・ShopifyなどのEC外部API連携の新規開発・リプレイスを手がけてきた。クラウド環境のアプリログコストを60%程度削減するなどの技術的成果も上げている。KEYCREWではソリューション部門全体を統括し、技術で組織の仕組みを改善し、安定した運営と今後の成長につながる基盤づくりに注力。API連携・システム統合・EC自動化・DX推進に関する実践的な知見を記事に反映している。