国が運賃の「原価」を定義し始めた|適正原価検討会の初開催とEC配送費への影響
- EC・物流インサイト
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2026年7月17日、国土交通省が「適正原価検討会」を初めて開催しました。聞き慣れない会議名かもしれませんが、これはトラック運送の運賃の“原価”そのものを国が主導で定義しようとする動きで、EC事業者の配送費にじわじわと効いてくるテーマです。背景には2025年に成立した改正貨物自動車運送事業法があり、原価割れの運賃で運送を引き受ける事業者は、将来的に事業許可の更新を受けられなくなります。つまり「安く運んでもらう」こと自体が制度的に難しくなる方向に進んでいます。本記事では、適正原価検討会と改正法の中身を時系列で整理し、運賃の下限が国によって引き上げられる流れがEC事業者の物流コストにどう波及するのか、そして値上げ局面で何を準備すべきかを解説します。
「適正原価検討会」とは何か(初開催の位置づけ)
「適正な運賃」の根拠となる原価を国が定義する
適正原価検討会は、トラック運送で「適正な運賃」を算定する土台となる“原価”の考え方や構成要素を、有識者を交えて国主導で整理するための会議です。国土交通省は2026年7月17日にこの検討会を初開催し、年内のとりまとめを目指すとされています。これまで運賃は事業者と荷主の相対交渉で決まり、力関係によっては原価を下回る水準でも運送が引き受けられてきました。適正原価検討会は、その「いくらが原価割れなのか」を客観的に線引きするための準備作業にあたります。
この動きは単独で降って湧いたものではありません。2024年問題として知られるドライバーの時間外労働規制、慢性的な担い手不足、そして賃上げの継続という構造的な圧力が積み重なった結果、「運べる人を確保するには適正な運賃が要る」という問題意識が政策として明文化されつつある、という流れです。物流業界が長く抱えてきた「安値受注が担い手を疲弊させる」という悪循環を、制度で断ち切ろうとしているのが今回の本質です。
近年の通信販売、特にインターネットを利用した通信販売(EC)の伸びとともに、宅配便の取扱個数は急伸しており、令和5年度は約50億個にのぼっています。
荷主も「無関係」ではいられない
重要なのは、これが運送会社だけの話ではない点です。改正法では、適正原価を支払わない荷主が是正指導の対象になり得ます。ECの発送を委託する荷主(=店舗運営者)にとっても、「相場より安く運んでもらう」ことが将来的にリスクになりかねません。運賃の適正化は、運送業界の内輪の制度改正ではなく、荷物を出す側であるEC事業者にとっても物流契約を見直す契機になります。
改正貨物自動車運送事業法の段階施行スケジュール
2025年成立、2028年に向けて段階的に効いてくる
適正原価検討会の法的な裏付けとなるのが、2025年6月に成立・公布された改正貨物自動車運送事業法です。この改正は公布から3年以内に段階的に施行される設計で、書類・多重下請けに関する部分が先行し、適正原価の告示や事業許可の更新制といった“運賃の根幹”に関わる部分は後から効いてきます。改正貨物自動車運送事業法の全体像は別記事で詳しく整理していますが、ポイントは「一度に全部変わるのではなく、2028年に向けて段々と締まっていく」という点です。
とりわけEC事業者に関係が深いのが、次の2つです。第一に、トラック運送事業の許可が実質的に5年ごとの更新制になり、原価割れの運送を続けていた事業者は更新を受けられなくなる方向であること。第二に、国が「適正原価」を定義し、それを下回る運賃での引き受けが制限されること。適正原価検討会は、この第二の点を実装するための議論の場だと位置づけると理解しやすくなります。
| 時期 | 主な施行内容 | EC事業者への含意 |
|---|---|---|
| 2025年6月 | 改正法の成立・公布 | 運賃適正化の方向性が確定 |
| 2026年ごろ | 書類・多重下請けに関する規制が先行 | 委託先の取引実態の透明性が上がる |
| 2026年7月 | 適正原価検討会が初開催(年内とりまとめ目標) | 「原価割れ」の線引きが具体化に向かう |
| 〜2028年 | 適正原価の告示・事業許可の5年更新制 | 原価割れ運賃の受託が制度的に困難に |
運賃の下限規制がEC配送費に波及する仕組み
「幹線の運賃」と「宅配の送料」はつながっている
適正原価検討会が対象とするのは、主に企業間(BtoB)のトラック幹線輸送の運賃です。一見するとEC事業者が使う宅配便とは別の世界に見えますが、両者は地続きです。宅配大手の集配ネットワークは、幹線輸送・仕分け・ラストマイルという複数の工程で成り立っており、その川上にあたる幹線の運賃が下限規制で底上げされれば、宅配便全体の原価も押し上げられます。結果として、EC事業者が支払う1件あたりの送料にも上昇圧力がかかります。宅配運賃がなぜ上がり続けるのかという構造は、運賃の構造分解のコラムでも整理しています。
これは、これまで続いてきた宅配便の値上げがさらに「制度的な追い風」を得るということでもあります。人件費や燃料費の上昇に加えて、「原価割れで運んではいけない」という法的な下限が加わることで、運賃が下がりにくく・上がりやすい構造がいっそう固定されます。物流の2024年問題以降に進んできた運賃の適正化は、今回の適正原価検討会で新しい局面に入ったと言えます。こうした一連の動きは、国が進める物流全体の効率化施策の一環でもあります(国土交通省の物流政策)。
連合がまとめた2026年春闘第1次集計(3月23日時点、1100組合)の賃上げ率(加重平均)は5.26%で、25年春闘の1次集計5.46%を0.20ポイント下回ったものの、3年連続で5%の高水準を維持した。
波及は「レイヤー」で理解する
この波及を整理すると、規制のレイヤー(適正原価の定義)→運賃のレイヤー(幹線運賃の下限が上がる)→配送費のレイヤー(宅配便の原価が上がる)→EC損益のレイヤー(送料負担が利益を圧迫)という4層の連鎖になります。EC事業者が直接コントロールできるのは最下層の「自社の物流体制」だけですが、上の3層で起きている変化を理解しておくと、値上げ通知が届いてから慌てるのではなく、先回りして手を打てるようになります。
EC事業者が今から準備すべき打ち手
短期:送料設計と契約の棚卸し
まず短期でできるのは、現在の送料負担と物流契約の棚卸しです。直近1年で1件あたりの配送費がどう推移したか、送料をどれだけ自社で吸収しているかを数字で把握します。そのうえで、粗利率に応じて「送料込み価格」「一定額以上で送料無料」などの基準をルール化しておくと、次の値上げが来ても機械的に対応できます。あわせて、出荷を1社のキャリアに依存していないか、荷物の特性に応じてヤマト運輸と佐川急便を使い分けられているかも点検します。なお日本郵便は発送代行の出荷手段としては前提にできない領域があるため、キャリア構成は現実的な選択肢で考えます。
中期:物流を「固定費」から「変動費」に寄せる
中期の打ち手は、物流体制そのものの見直しです。自社で倉庫と人員を抱えると、出荷量が減っても固定費が残り、運賃上昇と需要変動のダブルパンチを受けやすくなります。出荷を発送代行に委託すれば、物流費を出荷量に連動した変動費に変えられ、値上げ局面でも身軽に調整できます。自社出荷と委託の分岐点は損益分岐のシミュレーションで試算しておくと判断がぶれません。物流の全体像を押さえたい場合は物流の仕組みと6大機能もあわせて確認しておくとよいでしょう。
試算の際は、単に1件あたりの配送単価を比べるだけでなく、繁忙期と閑散期で出荷量がどれだけ振れるか、そのときに固定費がどれだけ重荷になるかまで含めて考えることが大切です。運賃が上がる局面では、コストの絶対額よりも「変動に強い構造かどうか」が効いてきます。自社の数字を月次で並べてみると、どの打ち手が効くかは意外とはっきり見えてきます。
| 観点 | 今すぐ(短期) | これから(中期) |
|---|---|---|
| 送料 | 吸収額を把握しルール化 | 粗利連動の送料ポリシーへ再設計 |
| キャリア | 1社依存を点検 | 荷姿別に複数キャリアを使い分け |
| 物流体制 | 固定費・変動費の内訳を可視化 | 発送代行で変動費型に寄せる |
| 在庫・出荷 | 出荷波動を把握 | 自動化・外部化で単位コストを下げる |
まとめ:運賃は「上がる前提」で物流を設計する
適正原価検討会の初開催は、これまで相対交渉に委ねられてきた運賃の“下限”を、国が客観的に定義しにいく転換点です。改正貨物自動車運送事業法により、原価割れの運送は事業許可の更新を通じて制度的に難しくなり、適正原価を払わない荷主も是正指導の対象になり得ます。幹線運賃の底上げは宅配便の原価を通じてEC事業者の送料に波及し、これまでの値上げに制度的な追い風が加わる形になります。だからこそ必要なのは、個別の値上げに一喜一憂することではなく、運賃は「上がる前提」で送料と物流体制をあらかじめ設計しておくことです。
短期では送料負担と契約の棚卸し、中期では物流を固定費から変動費へ寄せること――この2段構えで備えておけば、2028年に向けて規制が締まっていく局面でも慌てずに済みます。STOCKCREWは初期費用0円・固定費0円、全国一律260円〜、最短7日から利用でき、1点からの小ロット出荷にも対応します(対象は国内・常温の発送代行で、冷蔵冷凍・医薬品・酒類、越境・通関の代行は行いません)。自社の配送費と物流体制を見直す出発点として、発送代行完全ガイドやSTOCKCREWのサービス概要もあわせてご覧ください。具体的なコスト試算やご相談は、資料ダウンロードやお問い合わせからご連絡ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 適正原価検討会とは何ですか?
トラック運送で「適正な運賃」を算定する土台となる“原価”の考え方や構成要素を、国土交通省が有識者を交えて整理するための会議です。2026年7月17日に初開催され、年内のとりまとめを目指すとされています。改正貨物自動車運送事業法にもとづく運賃適正化の一環です。
Q. EC事業者にどんな影響がありますか?
対象は主に企業間のトラック幹線輸送ですが、幹線運賃の底上げは宅配便の原価を通じて1件あたりの送料に波及します。これまで続いてきた宅配便の値上げに、原価割れを制限する制度的な下限が加わることで、運賃が下がりにくい構造がいっそう固定される見通しです。
Q. 「原価割れ運賃」だと何が起きますか?
改正貨物自動車運送事業法では、トラック運送事業の許可が実質的に5年ごとの更新制になり、原価割れの運送を続けた事業者は更新を受けられなくなる方向です。適正原価を支払わない荷主も是正指導の対象になり得ます。運賃の根幹に関わる部分は2028年に向けて段階的に施行されます。
Q. EC事業者は今から何を準備すべきですか?
短期では、1件あたりの配送費の推移と送料の吸収額を把握し、粗利率に応じた送料ポリシーをルール化することです。中期では、物流を固定費型の自社体制から出荷量連動の変動費型へ寄せておくと、運賃上昇と需要変動の両方に対応しやすくなります。
Q. 運賃の値上げはいつまで続きますか?
人件費の上昇や担い手不足に加えて、原価割れを制限する制度的な下限が加わるため、上昇圧力は当面続くと見るのが現実的です。景気による一時的な値動きとは性質が異なり、「上がる前提」で物流を設計しておくことをおすすめします。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。