最低賃金1,177円へ、中小企業庁が支援策パッケージを公表|EC倉庫の人件費と価格転嫁・省力化の実務
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倉庫のパート時給が上がると、出荷1件あたりのコストはいくら動くのか。2026年9月3日、厚生労働省は令和8年度の地域別最低賃金について、全都道府県の答申が出そろったことを公表しました。全国加重平均は1,177円、昨年度から56円の引上げです。翌9月4日には中小企業庁が、この引上げに対応する支援策パッケージを公表しています。この記事では、答申の中身を確認したうえで、EC出荷の人件費が実際にどれだけ動くのかを出荷1件あたりに分解し、支援策のどれをどの順番で使うかを整理します。自社出荷と外部委託のコスト比較の考え方は発送代行完全ガイドにまとめています。
令和8年度の最低賃金は全国加重平均1,177円で答申された
地域別最低賃金は、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が目安を示し、それを参考に各都道府県の地方最低賃金審議会が調査・審議して答申するという二段構えで決まります。令和8年度の目安は7月28日に示され、それを受けた各地の審議が9月3日までに出そろいました。
改定額の全国加重平均額は1,177円(昨年度1,121円)
引上げ額は54円から65円まで幅がある
今回の特徴は、全国一律で同じ額が上がるわけではないという点です。厚生労働省の公表資料によれば、47都道府県の引上げ額は54円から65円まで分布しています。もっとも多いのは56円で11の道県、次いで57円が7県と続きます。自社の倉庫がどの県にあるかで、負担の増え方が変わります。
| 引上げ額 | 該当数 | 引上げ額 | 該当数 |
|---|---|---|---|
| 65円 | 1県 | 58円 | 4府県 |
| 64円 | 1県 | 57円 | 7県 |
| 63円 | 2県 | 56円 | 11道県 |
| 62円 | 2県 | 55円 | 3県 |
| 61円 | 4県 | 54円 | 3都府県 |
| 60円 | 4県 | 59円 | 5県 |
表1:令和8年度 地域別最低賃金の引上げ額の分布(厚生労働省の答申取りまとめをもとにSTOCKCREW作成)
地域間の格差は12年連続で縮まっている
もうひとつ押さえておきたいのが、地域差の動きです。最高額は1,280円、最低額は1,085円で、その比率は84.8%となりました。昨年度は83.4%だったので、格差は縮小しています。厚生労働省はこの比率が12年連続で改善したと説明しています。
この動きはEC事業者にとって無関係ではありません。人件費の安い地域に倉庫を置くという発想が、以前ほど効きにくくなっているということだからです。拠点の立地は賃金水準だけでなく、配送リードタイムや配送料の構造とあわせて考える必要があります。配送会社の使い分けはEC事業者のマルチキャリア戦略と配送会社の使い分けで整理しています。
発効日は10月1日から12月2日|拠点の所在地で上がる時期が違う
答申はそのまま発効するわけではありません。労働局での異議申出の手続を経て、都道府県労働局長の決定によって効力が生じます。厚生労働省は、その時期を令和8年10月1日から令和8年12月2日までの間に順次としています。つまり、県によって新しい額が効き始める日が最大で2か月ずれます。
単一拠点なら発効日を1つ確認すれば足りる
自社倉庫が1か所しかない場合、確認すべきは所在地の都道府県の改定額と発効日だけです。発効日が12月に近い県であれば、10月から11月にかけては旧額のまま運用できることになります。逆に10月1日発効の県では、繁忙期に入る前に人件費が切り替わります。年末商戦の要員計画を組む前に、この日付を押さえておくと予算のブレが小さくなります。
複数拠点や委託先がある場合の点検順序
拠点が複数あったり、出荷を外部に委託していたりする場合は、確認する対象が増えます。次の順番で見ていくと漏れが出にくくなります。
- 自社倉庫の所在県——改定額と発効日を確認し、パート・アルバイトの時給が新しい下限を下回らないかを点検します。
- 委託先の倉庫の所在県——委託先の人件費が上がれば、次回の料金改定で転嫁される可能性があります。契約の改定条項を先に見ておきます。
- スポット要員を使う地域——繁忙期だけ人材を追加する地域があれば、そこも対象です。
- 配送を委託しているキャリアの動き——ドライバーの人件費は運賃に跳ね返ります。
委託契約のどこを見ればよいかは発送代行の契約書に含むべき14項目チェックリストに整理しています。年度単位で契約を見直すならEC事業者の2026年度物流契約見直し完全チェックリストもあわせて使えます。都道府県別の金額そのものは2026年度の都道府県別最低賃金が出そろうで扱っています。
出荷1件あたりの人件費はいくら動くのか
ここからは実務の話です。時給が56円上がると、出荷1件あたりのコストはいくら増えるのか。全国加重平均の1,121円と1,177円を時給としてそのまま置いた計算で見てみます。以下の数値は答申額を入力値にしたSTOCKCREWの試算であり、統計値ではありません。
時給ベースでは月8,960円、年間では10万円強
1人あたり1日8時間、月20日勤務と置くと、56円の差は1日448円、1か月8,960円になります。庫内に10人いれば月89,600円、年間では約107万円です。金額だけ見ると小さくありませんが、これは出荷件数と切り離した見方です。
UPHで割ると1件あたり数円の世界になる
出荷1件あたりに直すには、1人1時間あたり何件出荷できるか、つまり人時生産性(UPH)で割ります。UPHが20件なら、時給1,177円のとき1件あたりの人件費は約58.9円。1,121円のときは約56.1円なので、差は1件あたり約2.8円です。UPHが30件なら差は約1.9円まで縮みます。
| UPH(1人1時間の出荷件数) | 時給1,121円のとき | 時給1,177円のとき | 差 |
|---|---|---|---|
| 15件 | 約74.7円/件 | 約78.5円/件 | +約3.8円 |
| 20件 | 約56.1円/件 | 約58.9円/件 | +約2.8円 |
| 25件 | 約44.8円/件 | 約47.1円/件 | +約2.2円 |
| 30件 | 約37.4円/件 | 約39.2円/件 | +約1.9円 |
表2:時給の差を出荷1件あたりに換算した試算(答申の全国加重平均額を時給に置いた計算例。STOCKCREW作成)
賃金より生産性のほうが効き幅が大きい
この表から読み取れるのは、UPHを1段上げるほうが、時給の上昇分より影響が大きいということです。UPHが20件から25件に上がると1件あたりは58.9円から47.1円へ、約11.8円下がります。時給の上昇分2.8円の4倍以上です。つまり、賃金改定への対応は「時給を抑える」方向ではなく「1時間あたりの出荷件数を増やす」方向に置いたほうが、打ち手として素直です。
UPHの計算式と改善の手順はEC倉庫の人時生産性(UPH)の計算式と改善手順で扱っています。関連する指標を一覧で押さえたい場合は物流KPIの設定方法と13指標の計算式ガイド、出荷工程そのものの効率化はピッキングとは?物流倉庫の手法比較と効率化戦略にまとめました。梱包工程の作業時間は発送代行の梱包サービスと流通加工の実務解説やEC事業者のための段ボール・梱包資材の選び方で扱っている資材の選び方にも左右されます。
中小企業庁の支援策パッケージ|価格転嫁・補助金・省力化の3本柱
答申の翌日、9月4日に中小企業庁が支援策を公表しました。内容は大きく、取引適正化と価格転嫁、予算・税制による支援、省力化投資の3つに分かれます。
全国加重平均については、1,177円となりました。
取適法・振興法の執行と価格転嫁
1つ目の柱は取引適正化です。中小企業庁は、本年1月に施行された中小受託取引適正化法(取適法)と中小受託取引振興法(振興法)を着実に執行し、官公需や取適法の対象外となる民間取引を含めて価格転嫁・取引適正化を強化するとしています。物流の委託取引に取適法がどう効くかは取適法(中小受託取引適正化法)で物流委託が変わるで整理しています。
もっとも、転嫁は制度があれば自動的に進むものではありません。転嫁率の現状と交渉の進め方は物流費・労務費の価格転嫁の実務で扱っています。取適法の条文や運用の入口は中小受託取引適正化法(取適法)関係、価格交渉の支援ツールは取引適正化、価格交渉・価格転嫁 | 中小企業庁にまとまっています。
補助金の上限引上げと加点措置
2つ目は予算・税制です。販路開拓を支援する持続化補助金のほか、中小企業向けの賃上げ促進税制や生産性革命事業による支援が挙げられています。あわせて、賃上げを行う事業者に対して各種補助金の補助上限の引上げや加点措置を引き続き実施するとしています。補助金を検討するなら、賃上げの実施が加点になる設計かどうかを公募要領で先に確認しておくと、申請の組み立てが変わります。
省力化投資と100万件の伴走支援
3つ目が省力化です。省力化ナビや生産性向上支援サポーター制度といった支援体制を整えたうえで、省力化投資補助金やデジタル化・AI導入補助金で「省力化投資促進プラン」を進めるとしています。さらに、自治体と連携した支援機関のプッシュ型アプローチと商工会・商工会議所の働きかけを合わせ、今年度末までに100万件の伴走支援・相談対応を目指すとしています。
省力化投資補助金の直近の公募については省力化投資補助金 第8回の公募要領が公開で扱っており、公募要領の原文は中小企業省力化投資補助事業(一般型)の第8回公募要領を公開しましたから確認できます。
設備投資と外部委託、どちらで人件費を吸収するか
UPHを上げる方法は、大きく2つに分かれます。自社で設備を入れて生産性を上げるか、出荷そのものを外部に委託して固定的な人件費から離れるかです。どちらが向くかは出荷件数と変動の大きさで変わります。
自社で省力化投資をする場合
自社倉庫に設備を入れる選択です。補助金の対象になりやすく、出荷が安定して多い事業者ほど回収が早くなります。一方で、設備は出荷が減っても費用が減らないという性質を持ちます。季節変動が大きい商材では、閑散期に固定費だけが残ります。
どのレベルの自動化から手をつけるかはEC倉庫の自動化レベル5段階と投資判断の実務ガイドが判断の枠組みになります。搬送ロボットの実際はEC物流ロボット(AMR)の導入と活用ガイド、システム側から生産性を上げる話は物流WMS(倉庫管理システム)とはや物流AIの活用事例とEC事業者への影響で扱っています。
外部委託に切り替える場合
出荷を外部に委託すると、人件費は出荷件数に連動する変動費に置き換わります。閑散期に人を抱えなくてよくなる代わりに、1件あたりの単価は明示的に発生します。判断の分かれ目は、自社で回したときの1件あたり総コストと、委託したときの単価のどちらが低いかです。
| 観点 | 自社出荷+省力化投資 | 外部委託 |
|---|---|---|
| 人件費の性質 | 固定費に近い | 出荷件数に連動する変動費 |
| 最低賃金改定の影響 | 直接受ける | 委託先の料金改定を通じて間接的に受ける |
| 閑散期 | 設備費と人件費が残る | 出荷が減れば費用も減る |
| 初期投資 | 設備費が必要(補助金の対象になりうる) | STOCKCREWの場合は初期費用0円・固定費0円 |
| 立ち上げ期間 | 設備の選定・導入に時間がかかる | STOCKCREWの場合は最短7日 |
表3:人件費上昇への2つの対処法の比較(STOCKCREW作成)
出荷件数がどのあたりで損益が入れ替わるかは発送代行の損益分岐を出荷件数別にシミュレーションで試算できます。外部委託の全体像は3PLとは?EC物流外注の全体像、工程ごとの分担の考え方はフルフィルメントの5工程と費用・KPIが土台になります。委託に切り替えたときに何が変わるかはEC物流アウトソーシングで売上が上がる理由にもまとめています。
実際の配送料の水準はSTOCKCREWの料金表で確認できます。サイズ別の単価と作業オプションを、自社の商材構成に当てはめて比較してみてください。
受注から出荷までのつなぎ込みを先に整える
どちらを選ぶにしても、受注データが倉庫まで自動で流れていなければ生産性は上がりません。転記の手作業が残っていると、UPHは設備ではなく事務で頭打ちになります。連携の方式はEC物流のAPI連携とCSV連携の違いを解説とECカートと発送代行のAPI連携とはで比較できます。複数モールを扱うならEC向けOMS(受注管理システム)比較ガイドで受注管理の集約先を検討しておくと、拠点や委託先を変えるときの移行が軽くなります。
モール別の運用では、楽天市場の出荷要件を踏まえた選択肢の比較がRSLとSTOCKCREWを徹底比較と楽天市場×発送代行の実務ガイドにあります。Amazonの場合はAmazon出品者がFBA vs 外部発送代行を選ぶ判断基準とFBAから発送代行への移行ガイドと手順の全体像が対応します。倉庫にかかる保管側のコストはEC倉庫の保管料4方式を徹底比較で課金方式ごとの違いを確認できます。
まとめ:1,177円時代のEC物流コスト設計
令和8年度の地域別最低賃金は、全国加重平均1,177円で答申が出そろいました。引上げ額は54円から65円と県によって幅があり、発効は10月1日から12月2日に順次進みます。まず自社と委託先の所在県を特定し、発効日を予算に反映するところから始めてください。
出荷1件あたりに直すと、時給56円の差は2〜4円程度にとどまります。同じ表で見たとおり、UPHを20件から25件に上げるほうが4倍以上効きます。賃金は外部要因ですが、生産性は運用で動かせます。対処の軸をそちらに置いたほうが、打てる手は多くなります。
その原資として、中小企業庁は価格転嫁の強化、補助金の上限引上げと加点措置、省力化投資の後押しを打ち出しました。制度を使って設備を入れるか、出荷を委託して変動費に置き換えるか——判断の材料は出荷件数と季節変動の大きさです。委託側の考え方は発送代行完全ガイドに、STOCKCREWの料金と体制はSTOCKCREW完全ガイドにまとめています。倉庫や配送の全体像から見直すならEC物流完全ガイドもあわせてお読みください。
自社の出荷件数で試算した結果を知りたい場合はお問い合わせから、料金や運用の詳細をまとめた資料は資料ダウンロードからご覧いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q. 令和8年度の最低賃金はいくらになりましたか?
A. 全国加重平均で1,177円です。昨年度の1,121円から56円の引上げとなり、厚生労働省は昭和53年度に目安制度が始まって以降で2番目の高さと説明しています。引上げ額は都道府県ごとに54円から65円まで幅があります。
Q. 新しい最低賃金はいつから適用されますか?
A. 答申された額は労働局での異議申出の手続を経たうえで、都道府県労働局長の決定により令和8年10月1日から令和8年12月2日までの間に順次発効する予定です。発効日は都道府県ごとに異なるため、自社倉庫や委託先の所在県で個別に確認してください。
Q. 最低賃金の引上げでEC倉庫の人件費はどれくらい増えますか?
A. 全国加重平均の差である56円を時給として置くと、1人あたり1日8時間・月20日で月8,960円の増加になります。出荷1件あたりに換算すると、人時生産性が20件のときで約2.8円、30件のときで約1.9円です。答申額を入力値にした試算値です。
Q. 人件費の上昇に対して何から手をつけるべきですか?
A. 出荷1件あたりの人件費は時給を人時生産性で割った値なので、分母である生産性を上げるほうが効き幅は大きくなります。人時生産性が20件から25件に上がると1件あたりは約11.8円下がり、時給上昇分の約2.8円を上回ります。受注データの連携を自動化して転記作業をなくすところが起点になります。
Q. 中小企業庁の支援策にはどのようなものがありますか?
A. 取適法・振興法の執行を通じた価格転嫁と取引適正化の強化、持続化補助金や賃上げ促進税制などの予算・税制支援、省力化投資補助金やデジタル化・AI導入補助金による省力化投資促進プランの3つが柱です。今年度末までに100万件のプッシュ型伴走支援・相談対応を目指すとしています。
Q. 自社で設備を導入するのと外部委託するのはどちらが有利ですか?
A. 出荷件数が多く安定している事業者は設備投資の回収が早く、補助金の対象にもなりやすい傾向があります。一方で季節変動が大きい場合は、外部委託で人件費を出荷件数に連動する変動費に置き換えたほうが閑散期の負担が軽くなります。損益が入れ替わる件数を試算してから判断してください。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。