賃金不払の監督指導は令和7年で22,605件・128億円|EC自社出荷の残業代リスクと切替判断【2026年8月】
- EC・物流インサイト
この記事は約16分で読めます
受注が跳ねた日の出荷を、社員やアルバイトの残業でしのいでいるEC事業者は少なくありません。その残業代が正しく計算され、正しく支払われているかを、行政は毎年チェックしています。厚生労働省は2026年8月21日、令和7年に労働基準監督署が実施した賃金不払の監督指導結果を公表しました。取り扱った事案は22,605件・128億5,782万円。そのうち96.1%が指導によって支払われ、解決しています。この数字が示すのは「見つかったら払うことになる」という単純な事実です。本記事では公表された一次情報を読み解き、EC出荷の現場でなぜ賃金不払が起きるのか、自社出荷を続けるなら何を点検すべきか、そして人手に依存した体制を発送代行完全ガイドで扱う外部委託にどう振り替えるかを順に整理します。
2026年8月21日に公表された監督指導結果
公表された3つの数字
厚生労働省が公表したのは、令和7年(2025年)の1年間に全国の労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案の集計です。数字は3つあります。件数22,605件(前年比251件増)、対象労働者数173,016人(同12,181人減)、金額128億5,782万円(同43億5,331万円減)。件数はわずかに増えた一方で、人数と金額はいずれも減っています。1件あたりの規模が小さくなり、件数の裾野が広がったと読める構図です。
⑴ 件 数 22,605 件(前年比 251件増)
ここでいう「賃金不払」は、給料そのものを払っていないケースだけを指すわけではありません。時間外労働に対する割増賃金の不足、始業前の準備や終業後の片付けを労働時間としてカウントしていない、といった算定漏れも含まれます。EC出荷の現場でよくある「開店前の在庫確認」「閉店後の梱包残処理」は、まさにこの領域に入ります。
金額が減っても件数が減らない理由
金額が43億円以上減った一方で件数が増えたのは、大口の倒産事案が減り、中小規模の算定漏れが多く拾われた結果と考えるのが自然です。集計には倒産や事業主の行方不明によって賃金が支払われなかったものも含まれると注記されており、大型倒産の有無で金額は年ごとに大きく振れます。件数のほうが、日常的な労務管理の状態をよく映す指標だといえます。
この発表が置かれている文脈
労働時間まわりの行政の動きは、この1件では終わりません。同じ厚生労働省は2026年9月1日から時間外労働に関する相談・支援と監督指導を見直すと公表しており、36協定の専門相談窓口の新設と、時間数だけを見た一律指導の変更が同時に始まります。制度の全体像は36協定の相談支援と労基署の指導が9月1日に見直しにまとめています。年度を通じた制度変更の並びはEC事業者の制度変更・コスト増カレンダーで俯瞰しておくと抜けを防げます。
この見直しでは、36協定で定めた健康及び福祉を確保するための措置の実施状況が重点的に確認される形に変わります。時間数だけを見た一律の指導は減る一方で、協定に書いた措置を実行していない事業場は指摘を受けやすくなります。賃金不払の是正と合わせて、9月1日を区切りに一度点検しておくのが合理的です。
「96.1%が解決」が意味するリスクの実像
指導に入られた時点で、支払いはほぼ確定する
解決率の高さは、労務管理を軽く見ている事業者にとっては悪い知らせです。件数ベースで96.1%、対象労働者数ベースで97.0%が令和7年中に支払われています。つまり労働基準監督署が入った事案は、ほぼ確実に支払いへ行き着くということです。「指摘されたら交渉して減らす」という余地は、統計上ほとんど見当たりません。
金額ベースの解決率だけが85.5%と低めなのは、倒産などで原資がないケースが混じるためです。ここは賃金の支払の確保等に関する法律に基づく未払賃金立替払制度が受け皿になります。裏を返せば、事業が継続している限り、金額もほぼ全額が支払い対象になると考えておくのが安全です。
キャッシュフローへの影響は「一時金」で来る
賃金不払の是正が厄介なのは、費用が平準化されず過去にさかのぼった一時金として一度に発生する点にあります。月々数万円の算定漏れでも、対象者が10人・期間が2年に及べば、支払額は数百万円規模になります。出荷波動が大きく利益率の薄いEC事業では、この一時金がそのまま資金繰りを直撃します。
| 指標 | 取扱い | 解決 | 解決率 |
|---|---|---|---|
| 件数 | 22,605件 | 21,731件 | 96.1% |
| 対象労働者数 | 173,016人 | 167,828人 | 97.0% |
| 金額 | 128億5,782万円 | 109億9,703万円 | 85.5% |
出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」(2026年8月21日公表)をもとに作成。取扱いには翌年繰越分・倒産等による未払分を含む。
人件費の上昇と同時に効いてくる
賃金不払のリスクは、人件費そのものの上昇と同時進行で重くなります。2026年度の地域別最低賃金は10月から順次発効し、時給の底上げが確定しています。詳細は2026年度の都道府県別最低賃金が出そろうと最低賃金の過去最高改定で倉庫人件費と発送代行料金はどう動くかで扱っています。時給が上がれば、割増賃金の算定漏れ1時間あたりの金額も上がるという関係にある点は見落とされがちです。
EC出荷の現場で賃金不払が生まれる3つの型
型1:出荷締切前後の「サービス残業」
もっとも多いのが、出荷締切に間に合わせるための延長分が記録されていない型です。定時にタイムカードを押してから梱包を続ける、締切後に伝票を整理する、といった時間は労働時間にあたります。波動が読めない日ほど発生しやすく、記録も残りにくいという構造的な難しさがあります。出荷波動そのものへの向き合い方は完全失業率2.5%・人手不足下のEC出荷体制で整理しています。
型2:作業前後の準備・片付けが労働時間に入っていない
制服への着替え、ハンディ端末の受け取り、朝礼、作業エリアの清掃。これらは使用者の指揮命令下にある時間と評価されれば労働時間です。1日15分でも、20人が20日続ければ月100時間に達します。ピッキング方式や動線の設計が甘いと準備時間が延びやすいため、EC倉庫のピッキング方式を比較で扱う工程設計は労務リスクの話でもあります。
型3:固定残業代・年俸制の運用ミス
固定残業代を導入していても、何時間分の残業に対応する金額かが明示されていない、超過分を精算していない、という運用では不払いと判断されます。少人数のEC事業者が管理業務を兼務しているケースで起こりやすい型です。
自社出荷を続けるなら押さえる4つの点検項目
点検の優先順位
すべてを一度に整えるのは現実的ではありません。是正されたときの金額インパクトが大きい順に手を付けるのが実務的です。
- 労働時間を客観的な方法で把握しているか——自己申告のみに頼らず、打刻・入退場記録・システムログのいずれかで裏取りできる状態にします。
- 始業前・終業後の作業を労働時間に含めているか——着替え、朝礼、清掃、締切後の伝票処理を洗い出し、含めるか業務から外すかを決めます。
- 固定残業代の時間数と超過精算のルールが書面にあるか——雇用契約書・就業規則の記載と、実際の給与明細の突合まで行います。
- 36協定の特別条項が繁忙期の実態と合っているか——協定に書いた事由と時間数が、実績と乖離していないかを確認します。
点検に使える判断表
下表は、EC出荷の現場でよく問題になる時間の扱いを整理したものです。判断に迷う項目が2つ以上あるなら、社会保険労務士など専門家への相談を優先してください。
| 場面 | 労働時間になりやすいか | 実務での押さえどころ |
|---|---|---|
| 制服・作業靴への着替え | なりやすい | 着用が義務なら含める方向で設計する |
| 朝礼・当日の出荷件数共有 | なりやすい | 参加が事実上必須なら含める |
| 締切後の梱包・伝票処理 | ほぼ確実に該当 | 打刻ルールを先に直す |
| 休憩中の電話・チャット対応 | なりやすい | 手待ち時間として扱う |
| 自宅での受注確認 | なりやすい | 端末の利用ログで実態を確認する |
記録が残っていること自体が防御になる
監督指導の場面で効くのは、主張ではなく記録です。労働時間、指示内容、支払額の3点が突合できる状態にしておけば、仮に算定漏れが見つかっても是正の範囲が限定されます。在庫や出荷の数値管理を仕組みにしている事業者ほど、労務の記録も整いやすい傾向があります。数値管理の基本は在庫差異率の計算式と改善手順やGMROIと交叉比率で在庫の収益性を測るに整理しています。
残業を前提にしない出荷体制への切り替え
「採る」から「持たない」へ
賃金不払は、人を雇って出荷を回している限りついて回る論点です。採用難が続くなかで、シフトを埋めきれずに既存メンバーの残業で埋める構図が固定化しやすくなっています。倉庫人材の確保が難しくなっている背景は倉庫・物流の人手不足は2026年以降どう深刻化するかとEC出荷を支える倉庫人材の確保にまとめています。採用実務そのものはEC倉庫・物流スタッフの採用方法ガイドが具体的です。
出荷を外部に委ねると、労働時間管理・割増賃金・シフト調整という3つの負担がまとめて外れます。費用は固定の人件費ではなく、出荷量に連動した変動費に置き換わります。仕組みの全体像は3PLとは?EC物流外注の全体像とフルフィルメントの5工程と外注化に整理しています。
判断は感覚ではなく損益分岐で
切り替えの是非は、出荷件数ごとの金額比較で決めるのが確実です。自社出荷の総額には、時給だけでなく残業割増・社会保険料・採用教育費・資材費・スペース費が含まれます。可視化の手順は自社発送のコストを可視化する実務ガイドに、件数別の試算は発送代行の損益分岐を出荷件数別にシミュレーションにまとめました。はじめて外部化を検討する段階ならEC物流の初めての外注化ガイドから読むと流れがつかめます。
委託先の労働時間も他人事ではない
外部に委ねれば自社の労務は軽くなりますが、配送を担うドライバー側の労働時間規制は運賃を通じて跳ね返ってきます。厚生労働省が2026年8月6日に公表した結果では、自動車運転者を使用する事業場への監督指導で改善基準告示違反が53.1%にのぼりました。構造は自動車運転者の監督指導で改善基準告示違反53.1%で扱っています。物流費の転嫁交渉の実務は価格転嫁率54.2%どまりに整理しています。
監督指導を実施した事業場は4,123事業場
出典:厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します」(2026年8月6日)
宅配の総量そのものも増え続けています。国土交通省の集計では令和6年度の宅配便取扱個数は50億3147万個で、前年度から約0.5%増えました。荷物は増え、運ぶ人と詰める人は増えないという前提で体制を組むなら、出荷を人手の頑張りに依存させない設計が現実解になります。EC物流完全ガイドで全体の設計思想を、STOCKCREW完全ガイドで具体的なサービス内容を確認できます。
令和6年度の宅配便取扱個数は、50億3147万個で、前年度と比較して2414万個・約0.5%の増加となった。令和6年度のメール便取扱冊数は、33億4477万冊で、前年度と比較して2億6531万冊・約7.3%の減少となった。
切り替えには移行コストも伴います。委託先を変えにくい構造については物流は「乗り換えづらい」からこそ選定が9割、外部化で失われる情報については物流を「外注」すると失われる情報とはも読んでおくと判断の精度が上がります。規模別の考え方は月商100〜500万円EC事業者のための発送代行ガイドと月間500件規模ECの物流戦略に分けてまとめています。
まとめ:賃金不払は「払えば済む」ではなく「払うまで残る」
令和7年の監督指導結果が示したのは、22,605件・128億5,782万円という規模と、件数の96.1%が支払いに至るという結末です。指摘を受けた時点で支払いはほぼ確定し、しかもそれは過去にさかのぼった一時金として資金繰りを直撃します。EC出荷の現場では、締切前後の延長、始業前後の準備・片付け、固定残業代の運用という3つの型で算定漏れが起きやすく、いずれも波動の大きい事業ほど発生しやすい構造にあります。
やるべきことは2段構えです。短期には、労働時間の客観的な把握、始業前後の作業の扱い、固定残業代の書面、36協定の特別条項という4点を点検します。中期には、残業に依存しない出荷体制へ設計を変えます。人を増やして支えるのか、出荷そのものを外に出すのかは、感覚ではなく出荷件数ごとの損益分岐で判断してください。判断材料は発送代行完全ガイドとSTOCKCREW完全ガイドに整理しています。
自社の出荷件数で試算するとどうなるかを具体的に知りたい場合は、お問い合わせから現在の出荷件数と商材をお知らせください。検討の進め方を先に把握したい場合は資料ダウンロードもご利用いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q. 令和7年の賃金不払の監督指導結果はどのような内容ですか?
A. 厚生労働省が2026年8月21日に公表した集計では、労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案は22,605件(前年比251件増)、対象労働者数173,016人、金額128億5,782万円でした。このうち令和7年中に指導により解決したのは21,731件(96.1%)、167,828人(97.0%)、109億9,703万円(85.5%)です。
Q. 賃金不払には残業代の計算漏れも含まれますか?
A. 含まれます。給与そのものの未払いだけでなく、時間外労働に対する割増賃金の不足や、始業前の準備・終業後の片付けを労働時間としてカウントしていない算定漏れも対象です。EC出荷の現場では、出荷締切後の梱包や伝票処理が記録されていないケースが典型的な例にあたります。
Q. 解決率96.1%という数字はどう受け止めればよいですか?
A. 労働基準監督署の指導が入った事案は、ほぼ確実に支払いへ行き着くという意味です。交渉によって支払いを免れる余地は統計上ほとんど見当たりません。金額ベースの解決率85.5%がやや低いのは倒産等で原資がない事案が含まれるためで、事業を継続している限りは全額が支払い対象になると考えるのが安全です。
Q. EC事業者はまず何から点検すべきですか?
A. 優先順位は4つです。労働時間を打刻や入退場記録など客観的な方法で把握できているか、始業前後の着替え・朝礼・清掃を労働時間に含めているか、固定残業代の対応時間数と超過精算のルールが書面にあるか、36協定の特別条項が繁忙期の実態と合っているか。この順で確認すると金額インパクトの大きい論点から潰せます。
Q. 発送代行に切り替えると賃金不払のリスクは減りますか?
A. 出荷が残業の主因になっている場合は有効です。労働時間管理・割増賃金・シフト調整という3つの負担が外れ、費用も固定の人件費から出荷量に連動した変動費へ置き換わります。ただし切り替えの是非は感覚ではなく、自社出荷の人件費・割増賃金・社会保険料・資材費・スペース費と委託費用を出荷件数ごとに並べた損益分岐で判断してください。
Q. 委託先のドライバーの労働時間はEC事業者に関係しますか?
A. 運賃を通じて関係します。厚生労働省が2026年8月6日に公表した結果では、自動車運転者を使用する事業場への監督指導で改善基準告示違反が53.1%にのぼりました。労働時間の是正が進むほど1人・1台が運べる量に上限がかかり、その分が運賃に反映されます。社内の残業削減と配送費の上昇は、同じ人手不足という構造から生じています。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。