令和7年の労働安全衛生調査でメンタルヘルス対策は63.0%|EC出荷現場を規模別に点検する
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出荷を自社でこなしているEC事業者にとって、現場の安全衛生は「大きな倉庫の話」に見えがちです。ところが厚生労働省が2026年8月7日に公表した令和7年「労働安全衛生調査(実態調査)」を規模別に読むと、話が変わります。メンタルヘルス対策に取り組む事業所は全体で63.0%ですが、労働者数10〜29人の事業所では54.6%まで下がります。つまり、少人数で梱包と出荷を回している事業者ほど、対策が手つかずのまま残っているということです。本記事では公表された数字を規模別に分解し、9月までに何を点検すべきかを整理します。出荷体制そのものを見直す選択肢は発送代行完全ガイドにまとめています。
令和7年 労働安全衛生調査で何が分かったか
調査の位置づけと規模
労働安全衛生調査(実態調査)は、労働災害防止計画の重点施策を組み立てるための基礎資料として毎年実施されています。令和7年調査は、常用労働者を10人以上雇用する民営事業所から約14,000事業所、そこで働く労働者と受け入れた派遣労働者から約18,000人を抽出し、有効回答8,054事業所・8,393人を集計したものです。テーマは安全衛生管理、労働災害防止活動、そして労働者が仕事や職業生活で感じる不安やストレスの実態でした。数値の一次資料は厚生労働省の報道発表用資料にすべて掲載されています。
4つの領域で数字が出ている
公表資料で示されたポイントは、メンタルヘルス対策、高年齢労働者に対する労働災害防止対策、化学物質のばく露防止対策、長時間労働の4領域です。いずれもEC事業者の出荷現場と無関係ではありません。梱包資材の粘着剤や洗浄剤を扱えば化学物質の話になり、シニアのパート採用が進めば高年齢労働者の話になります。EC倉庫・物流スタッフの採用を進めている事業者ほど、この4領域は同時に効いてきます。
この調査を「自社の物差し」として使う
調査結果の使い道は、順位づけではなく自社の立ち位置の確認です。同じ規模帯の事業所が何%取り組んでいるかが分かれば、自社が平均より上か下かを判断できます。数字を眺めて終わらせず、次章の規模別データを自社の従業員数に当てはめてください。
規模別に見ると10〜29人で対策が失速する
メンタルヘルス対策の実施率
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は、全体で63.0%(前年調査63.2%)でした。規模別に見ると、労働者数50人以上の事業所は93.7%(同94.3%)とほぼ全社が実施している一方、30〜49人は72.0%(同69.1%)、10〜29人は54.6%(同55.3%)にとどまります。50人を境に実施率が40ポイント近く開く構造です。
ストレスチェックの実施率も同じ形をしている
メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、ストレスチェックを実施している割合は64.0%(同65.3%)です。こちらも50人以上で89.8%(同89.8%)、30〜49人で58.4%(同57.8%)、10〜29人で55.9%(同58.1%)と、規模による段差がはっきり出ています。50人以上でストレスチェックが義務化されている制度設計が、そのまま数字に表れた形です。
EC事業者にとっての意味
自社出荷を続けるEC事業者の多くは、まさに10〜29人の帯に入ります。この帯では、半数近くがメンタルヘルス対策に着手していません。セールや出荷波動で負荷が跳ね上がる時期に、負荷を受け止める仕組みがない状態が続くわけです。賃金不払の監督指導や36協定に関する労基署の指導見直しといった労務側の動きと合わせて見ると、小規模事業場に行政の視線が向いている流れが読み取れます。
高年齢労働者への対策は「知られていない」段階
ガイドラインの認知率は24.8%
60歳以上の高年齢労働者が業務に従事している事業所のうち、厚生労働省が令和2年3月に作成したエイジフレンドリーガイドラインを知っている事業所は24.8%(前年調査21.6%)でした。そのうち高年齢労働者に対する労働災害防止対策に取り組んでいる事業所は20.4%(同18.1%)です。前年より数ポイント伸びてはいるものの、4社に3社はガイドラインの存在自体を把握していません。
取組内容で最も多いのは作業管理の見直し
取り組んでいる事業所の内容を見ると、「高年齢労働者の特性を考慮した作業管理」が61.0%(同62.9%)で最多でした。持久力や筋力の低下を前提に作業内容そのものを組み替えるという発想です。ピッキングの歩行距離、重量物の持ち上げ回数、立ち作業の連続時間——出荷現場でこれらを設計し直すことが、そのまま対策になります。
シニア採用と現場設計はセットで考える
人手不足を背景に、倉庫や出荷現場でのシニア採用は広がっています。倉庫の労働力調達を考えるとき、募集条件だけを整えても現場の作業設計が変わらなければ、災害リスクは残ったままです。フルフィルメント品質KPIと同じように、作業負荷も測って設計する対象として扱ってください。
| 領域 | 令和7年調査の数値 | 前年調査 | 出荷現場での読み替え |
|---|---|---|---|
| メンタルヘルス対策(全体) | 63.0% | 63.2% | 繁忙期の負荷を受け止める仕組みの有無 |
| ストレスチェック実施 | 64.0% | 65.3% | 50人未満は努力義務。実施率は約半数 |
| エイジフレンドリーGL認知 | 24.8% | 21.6% | シニア採用時の作業設計の指針 |
| 化学物質リスクアセスメント全実施 | 55.5% | 52.2% | 洗浄剤・接着剤・充填材の取扱い |
| 時間外・休日労働80時間超の月あり | 1.4% | 1.5% | セール期の集中残業が該当しやすい |
化学物質と長時間労働——出荷現場の2つの盲点
化学物質のリスクアセスメントは55.5%
労働安全衛生法第57条の2の対象ではないものの、危険有害性がある化学物質を使用している事業所のうち、リスクアセスメントをすべて実施している事業所は55.5%(前年調査52.2%)でした。出荷現場では、緩衝材のスプレー糊、ラベルの剥離剤、什器や床の洗浄剤などが該当し得ます。「化学工場ではないから関係ない」と判断する前に、購入している資材の安全データシートを一度確認してください。梱包資材の選定を見直すタイミングは、この確認を組み込む好機です。
80時間超は1.4%でも「面接指導まで到達」は16.2%
個人調査では、令和6年11月1日から令和7年10月31日までの1年間に、1か月の時間外・休日労働が80時間を超えた月があった労働者は1.4%(前年調査1.5%)でした。注目すべきはその先です。80時間を超えたすべての月について医師による面接指導を受けた労働者は16.2%(同12.6%)にとどまります。長時間労働が発生した場合の手続きが、現場では完結していないことを示す数字です。
セール期に集中する構造
EC事業者の残業は年間を通じて平坦ではありません。大型セール、季節商戦、テレビ露出などをきっかけに、特定の月だけ跳ね上がります。猛暑で出荷が止まるリスクや熱中症対策の義務化と同様に、負荷が一点に集中する構造そのものを設計で解くほうが、精神論より確実です。出荷リードタイムの置き方を変えるだけでも、ピークの角は削れます。
令和6年度の宅配便取扱個数は、50億3147万個で、前年度と比較して2414万個・約0.5%の増加となった。令和6年度のメール便取扱冊数は、33億4477万冊で、前年度と比較して2億6531万冊・約7.3%の減少となった。
宅配便の総量が過去最高水準で推移している以上、出荷現場にかかる作業量も減りません。総量が増える前提で、人を増やすのか、仕組みを変えるのか、委託するのかを選ぶ必要があります。EC物流完全ガイドでは、この選択肢の全体像を整理しています。
自社出荷のEC事業者が9月までに点検する項目
9月は行政の重点月間が重なる
9月は職場の健康診断実施強化月間にあたり、10月1日から7日の全国労働衛生週間の準備期間でもあります。労働安全衛生調査の結果を読んだ流れで点検に着手すれば、健診・ストレスチェック・作業設計を一度に見直せます。
全国労働衛生週間(10月1日~7日)の準備月間である毎年9月を「職場の健康診断実施強化月間」と位置付け
あわせて、荷主側にも制度面の宿題が増えています。2026年4月に全面施行された物流効率化法では、一定規模以上の荷主が特定事業者に指定され、中長期計画の作成が義務づけられました。安全衛生と物流効率化は別の法律ですが、現場の作業負荷を数字で把握するという作業は共通しています。同じ棚卸しを二度やらずに済むよう、9月にまとめて着手するのが効率的です。
点検リスト
| 点検項目 | 根拠・目安 | 50人未満の扱い | 着手の時期 |
|---|---|---|---|
| 一般健康診断の実施・記録保存 | 労働安全衛生法 | 規模を問わず義務 | 9月(強化月間) |
| 労働基準監督署への結果報告 | 労働安全衛生法 | 50人以上のみ | 健診実施後 |
| ストレスチェック | 令和7年調査の実施率64.0% | 当分の間の努力義務 | 9〜10月 |
| 高年齢者向けの作業設計 | エイジフレンドリーGL | 規模の区分なし | 採用計画とセット |
| 化学物質のリスクアセスメント | 令和7年調査の全実施55.5% | 使用実態で判断 | 資材見直し時 |
| 80時間超の月の特定 | 令和7年調査で1.4%が該当 | 規模の区分なし | 年1回・繁忙期前 |
- 健康診断の実施と記録——規模を問わず実施義務があります。所見への医師の意見聴取と記録の保存まで到達しているかを確認してください。
- ストレスチェックの位置づけ——50人未満は努力義務ですが、令和7年調査では10〜29人でも55.9%が実施しています。過半数がやっている以上、未実施は説明が必要な状態です。
- 高年齢者向けの作業設計——歩行距離、重量物の頻度、立ち作業の連続時間を数字で把握します。エイジフレンドリーガイドラインが指針になります。
- 化学物質の棚卸し——洗浄剤・接着剤・スプレーを一覧化し、安全データシートを確認します。リスクアセスメント未実施なら着手します。
- 残業のピーク月の特定——過去12か月で80時間超が発生した月を洗い出し、翌年の同月に何を先回りするかを決めます。
- 派遣・スポット人材の責任分界——一般健康診断は原則として派遣元の義務です。契約時に業務内容を明示していないと、双方が未実施のまま進みます。
点検の先にある判断
点検して不足が見つかったとき、選択肢は「自社で整える」か「出荷そのものを外に出す」の2つです。前者は採用・教育・健診・シフト管理・安全衛生管理を自社の固定費として抱え続けることを意味します。後者を選ぶなら、自社出荷のコストを人件費・社会保険料・資材費・スペース費まで含めて算出し、出荷件数別の損益分岐と並べて比較してください。判断材料が揃っていない状態での外注は、別の管理コストを生みます。
まとめ:安全衛生は出荷体制の選び方に直結する
令和7年の労働安全衛生調査が示したのは、規模が小さいほど対策が届いていないという構造でした。メンタルヘルス対策は全体63.0%に対し10〜29人で54.6%、ストレスチェックは全体64.0%に対し10〜29人で55.9%。エイジフレンドリーガイドラインの認知は24.8%、化学物質のリスクアセスメント全実施は55.5%です。自社出荷を続けるEC事業者は、この「届いていない側」に位置しやすいという前提で点検を始めてください。
点検の結果、管理そのものが負担だと分かった場合は、出荷を外部に委ねて変動費に置き換える判断もあります。委託先を選ぶ際の観点は発送代行完全ガイドと3PL契約の実務ガイドに整理してあります。サービスの範囲や料金の考え方はSTOCKCREW完全ガイドにまとめてあります。3PLへのアウトソーシングや業務委託の進め方、発送代行の賠償・リスク管理もあわせて検討材料になります。
自社の出荷件数で試算したい場合は資料ダウンロードから料金の考え方をご確認いただけます。個別の条件で相談したい場合はお問い合わせからご連絡ください。物流コストKPIの可視化やフルフィルメントの基礎、はじめての物流外部委託、倉庫システム停止時のBCP、2026年度の都道府県別最低賃金も、人と現場を守る設計の材料になります。
よくある質問(FAQ)
Q. 労働安全衛生調査とは何を調べている調査ですか?
A. 厚生労働省が労働災害防止計画の重点施策を策定するための基礎資料として毎年実施している調査です。令和7年は事業所の安全衛生管理・労働災害防止活動と、労働者の仕事上の不安やストレスの実態を対象とし、有効回答8,054事業所・8,393人を集計しています。結果は2026年8月7日に公表されました。
Q. メンタルヘルス対策の実施率は事業所規模でどう違いますか?
A. 全体では63.0%ですが、労働者数50人以上の事業所で93.7%、30〜49人で72.0%、10〜29人で54.6%と大きな差があります。ストレスチェックの実施率も50人以上で89.8%、10〜29人で55.9%と同じ傾向です。少人数で出荷を回している事業者ほど、対策が手つかずになりやすい構造といえます。
Q. 従業員50人未満でもストレスチェックは必要ですか?
A. 労働安全衛生法上、50人未満の事業場は当分の間の努力義務とされています。ただし令和7年調査では10〜29人の事業所でも55.9%が実施しており、過半数が取り組んでいる状況です。実施していない場合は、その理由を説明できる状態にしておくほうが安全です。
Q. エイジフレンドリーガイドラインとは何ですか?
A. 高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境づくりと、予防的観点からの健康づくりを進めるために厚生労働省が令和2年3月に作成したガイドラインです。令和7年調査では、60歳以上が働く事業所のうち認知しているのは24.8%にとどまり、取組内容では作業管理の見直しが61.0%で最多でした。
Q. 出荷現場で化学物質のリスクアセスメントは必要ですか?
A. 危険有害性がある化学物質を使用しているなら検討対象です。出荷現場では緩衝材のスプレー糊、ラベルの剥離剤、床や什器の洗浄剤などが該当し得ます。令和7年調査では、対象となる事業所のうちすべて実施しているのは55.5%でした。まず購入資材の安全データシートを確認してください。
Q. 繁忙期の残業と安全衛生をどう両立させればよいですか?
A. 負荷が特定月に集中する構造そのものを設計で解くのが確実です。過去12か月で時間外・休日労働が80時間を超えた月を特定し、翌年の同月に人員・在庫・リードタイムを先回りさせます。管理負担が大きい場合は、出荷を外部に委ねて固定費を変動費へ置き換える判断も選択肢になります。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。