公取委が大規模小売と納入業者の取引を実態調査|EC卸・B2B出荷側の回答準備と優越的地位の論点【2026年8月】
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自社ECだけでなく、小売チェーンや量販店に卸している。あるいはモールと並行してB2B取引も持っている。そうしたEC事業者のもとに、いま1通の依頼状が届いているかもしれません。公正取引委員会は2026年7月29日、「大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査」の開始を公表しました。翌7月30日に、小売業者約1,200名と納入業者約31,000名を対象としたウェブアンケートへの協力依頼状が発送されており、回答期限は2026年8月27日です。前回の同種調査の報告書公表から時間が経ち、原材料価格の上昇やSNS・デジタル広告による販促手法の多様化で、費用負担のあり方が変わっていることが背景にあります。この記事では、公表された一次情報をもとに、調査の中身と、卸・B2B出荷を行うEC事業者が押さえるべき論点、そして回答準備の進め方を整理します。
何が公表されたのか:調査の概要
約3万2千者にウェブアンケート
今回の調査は、公正取引委員会が大規模小売業者と納入業者の取引実態を把握するために実施するものです。2026年7月30日に、小売業者約1,200名および納入業者約31,000名に対して、ウェブアンケート調査への協力依頼状が発送されました。合計すると約3万2千者に及ぶ大規模な調査です。回答期限は2026年8月27日と設定されており、この記事の公開時点で残り時間は多くありません。依頼状が届いている場合は、まず社内の誰が受け取っているかを確認するところから始める必要があります。
アンケートのあとにヒアリングと公表が続く
公正取引委員会は、ウェブアンケートの結果を踏まえて関係事業者へのヒアリングを実施し、その結果を公表して広く周知する予定としています。あわせて、独占禁止法上の問題につながるおそれのある行為が認められた事業者に対しては、注意喚起文書を送付するなどの対応を行うとしています。つまりこの調査は、単なる統計収集ではなく、問題行為の未然防止を目的とした実務的な取り組みです。回答内容が直ちに処分につながるわけではありませんが、業界の実態が公表資料としてまとまることの影響は小さくありません。
令和8年7月30日に、小売業者(約1,200名)及び納入業者(約31,000名)を対象として、取引実態を把握するためのウェブアンケート調査への協力依頼状を発送します。協力依頼状が届いた事業者の皆様におかれては、ウェブアンケート調査に御回答いただきますようお願いいたします(回答期限は令和8年8月27日です。)。
なぜいま調査するのか:8年ぶりの背景
前回の報告書は平成30年1月
公正取引委員会は、大規模小売業者と納入業者との取引について継続的に実態調査を行っており、直近では平成30年(2018年)1月に「大規模小売業者との取引に関する納入業者に対する実態調査報告書」を公表しました。その報告書を関係事業者に周知することで、独占禁止法上の優越的地位の濫用行為の未然防止に取り組んできた経緯があります。今回の調査は、その公表から一定の期間が経過したことを受けたものです。
原材料高と販促手法の多様化が変えたもの
公正取引委員会は調査の趣旨として、原材料価格等の上昇という経営環境の変化に加え、SNSやデジタル広告等による販売促進手法の多様化といった流通業界の事業戦略上の変化を挙げています。こうした変化に伴い、取引条件や費用負担の内容が変わっていることが想定される、という認識です。実際、原材料や梱包資材の値上がりは続いており、上がったコストを誰がどこまで負担するかという論点は、どの取引にも生じています。販促費の分担についても、店頭中心だった時代とSNS・デジタル広告が中心の時代では、費用の性質そのものが異なります。
物流の側でも、公正取引委員会は取引適正化の取り組みを強めています。荷主と物流事業者の関係については荷主105社への立入調査、着荷主を含む規制強化については物流特殊指定の改正で扱っています。売り手と買い手の力関係を取引条件に持ち込ませない、という方向は共通しています。
優越的地位の濫用とは何を指すのか
「力の差」そのものは問題ではない
優越的地位の濫用は、取引上の立場が強い側が、その立場を利用して相手方に不当な不利益を与える行為を指します。ここで誤解されやすいのは、取引先との力の差があること自体は問題ではないという点です。問題になるのは、その差を背景にして、通常の商慣習に照らして不当な負担を押し付けた場合です。逆にいえば、双方が納得して条件を決め、その経緯が記録に残っていれば、同じ内容でも評価は変わります。
物流にかかわる論点も含まれる
納入業者の側から見ると、費用負担の論点には物流に関わるものが多く含まれます。センターフィー(物流センター使用料)の負担、指定納品時間への対応、納品ロットや荷姿の指定、急な追加出荷への対応。これらはいずれも、出荷側の作業コストを実際に増減させる要素です。納品条件が変われば、倉庫でのピッキングや検品の工数も変わります。「取引条件の話」と「物流の話」を切り離さずに整理しておくことが、実態を正確に答えるうえで重要になります。
同報告書の公表から一定の期間が経過しており、原材料価格等の上昇といった大規模小売業者と納入業者の事業経営に影響を及ぼす事情のほか、SNSやデジタル広告等による販売促進手法の多様化など流通業界における事業戦略上の変化に伴い、大規模小売業者と納入業者との取引における取引条件や費用負担の内容が変化していることが想定されます。
なお、取引の適正化に関する制度全般や相談窓口は中小企業庁「取引適正化、価格交渉・価格転嫁」にまとまっています。発注者と受注者の関係を規律する法律としては取適法(旧・下請法)もあり、こちらは公正取引委員会のサイトで確認できます。価格転嫁の実務は価格転嫁率の記事もあわせてご覧ください。
EC事業者が「納入業者」になる3つのパターン
1. 卸売・B2B取引を並行している
企業間取引の電子化そのものは急速に進んでいます。経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によると、2024年の国内BtoB-EC市場規模は514.4兆円(前年比10.6%増)、BtoB-ECのEC化率は43.1%です。卸の取引がデジタル化しても、条件をどう決めたかという論点は残ります。
自社ECやモールでの販売と並行して、小売チェーンや専門店に商品を卸しているケースです。この場合、EC事業者は明確に納入業者の立場になります。ECの売上比率が高くても、卸の取引額が一定規模あれば調査対象に含まれる可能性があります。B2Bの受注・出荷の仕組みづくりはShopify B2B機能の記事で扱っていますが、取引条件の記録という観点でも、B2Bは自社ECとは別の管理が要ると考えたほうが安全です。
2. 自社ブランド(OEM)を小売に展開している
OEM・ODMで自社ブランド商品をつくり、ECで実績を出したあとに実店舗へ販路を広げるパターンです。EC発のブランドが小売に並ぶ流れは一般的になりましたが、そこで初めて協賛金や販促費の分担、返品条件といった商慣習に直面することになります。ECだけを経験してきた事業者ほど、何が通常の条件で何がそうでないのかの相場観を持ちにくいという点は意識しておきたいところです。
3. 商流と物流の担当が分かれている
3つ目は組織の話です。営業が商流(価格・条件)を、物流部門が納品作業を担当している場合、取引条件の変更が現場の作業量に与えた影響が、どこにも集計されていないことがあります。「納品ロットが小さくなった」「指定納品時間が早まった」といった変更は、営業側では条件変更として認識されても、コスト増としては見えません。商流と物流の関係を整理し、条件変更が出荷側にいくらの負担を生んだのかを可視化しておくと、調査への回答も交渉も具体的になります。受発注データの連携がAPI・CSVのどちらかによっても、条件変更時の作業負荷は変わります。
| パターン | 立場 | 優先して確認すること |
|---|---|---|
| 卸売・B2B取引を並行 | 納入業者 | 依頼状の受領有無、取引先別の条件一覧 |
| OEMで小売に展開 | 納入業者 | 協賛金・販促費・返品条件の合意経緯 |
| 商流と物流の担当が別 | 社内体制の課題 | 条件変更が出荷コストに与えた影響 |
回答期限までにやること
依頼状の所在を確認する
まず、協力依頼状が自社に届いているかを確認します。7月30日発送のため、代表電話・本社総務あてに届いて担当部署に回っていない、という事態は起こりがちです。回答期限は8月27日なので、社内で滞留している時間はありません。届いていた場合は、営業・調達・物流・経理のどこが回答を主管するかを先に決めます。取引条件と費用負担の実態は1部署では把握しきれないため、複数部署から情報を集める前提で段取りを組むのが現実的です。
直近1年の取引条件を棚卸しする
回答の前提として、主要な取引先ごとに、価格・支払条件・返品条件・販促費の分担・センターフィー・納品条件を一覧にしておくと作業が速くなります。契約書に書かれている条件と、実際の運用が食い違っていないかもあわせて確認します。この棚卸しは調査対応のためだけでなく、自社のコスト構造を把握し直す機会にもなります。新しい取引先との条件をこれから詰める段階なら、オンボーディング時の確認項目の考え方が、条件を漏れなく文書化するうえで参考になります。納品条件が出荷作業に与える影響を金額で見たい場合は、1件あたり配送コスト(CPO)の考え方が使えます。
やり取りの記録を残す運用に切り替える
今回の調査に限らず、取引条件の変更や費用負担の要請については、いつ・誰から・どういう内容で・どう合意したかを残しておくことが最大の防御になります。口頭やチャットで決まったことも、あとから確認できる形にしておく。これは相手を疑うためではなく、双方の認識を揃えるための実務です。記録があれば、条件の妥当性を第三者に説明できます。
| ステップ | やること | 主管の目安 |
|---|---|---|
| 1 | 協力依頼状の受領有無を確認し、主管部署を決める | 総務・経営企画 |
| 2 | 取引先別に価格・支払・返品・販促費分担を一覧化 | 営業・経理 |
| 3 | センターフィー・納品条件と出荷作業への影響を整理 | 物流・調達 |
| 4 | 契約書の条件と実際の運用の食い違いを点検 | 法務・営業 |
| 5 | 不明点を社内確認したうえで回答を確定(期限8月27日) | 主管部署 |
納品ミスや誤出荷が条件交渉の場で持ち出されることもあります。日頃の品質を数値で説明できるようにしておくことも備えのひとつで、指標の作り方は誤出荷率を下げる方法で整理しています。「言われたから直す」ではなく「数字で示して交渉する」状態にしておくことが、立場の差を埋める現実的な手段です。
回答内容は正確に、推測で埋めない
アンケートは実態把握が目的です。分からない項目を推測で埋めるより、社内で確認して正確に答えるほうが調査の趣旨に合います。時間的に厳しい場合の取り扱いについては、公表資料に記載の問い合わせ先(公正取引委員会 経済取引局取引部企業取引課 優越的地位濫用未然防止対策調査室)に確認するのが確実です。
まとめ:取引条件を記録に残す習慣をつくる
公正取引委員会は2026年7月29日、大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査の開始を公表しました。7月30日に小売業者約1,200名・納入業者約31,000名へ協力依頼状が発送されており、回答期限は2026年8月27日です。調査の背景には、平成30年1月の前回報告書から時間が経ったことに加え、原材料価格の上昇とSNS・デジタル広告による販促手法の多様化で、取引条件や費用負担の内容が変わってきているという認識があります。今後はヒアリングを経て結果が公表され、問題のおそれがある事業者には注意喚起文書が送付される予定です。卸やB2B取引を持つEC事業者、OEMで自社ブランドを小売に展開している事業者は、自分が納入業者の側に立っているという前提で依頼状の所在を確認してください。そして調査の有無にかかわらず、取引条件と費用負担のやり取りを記録に残す運用へ切り替えることが、いちばん確実な備えになります。納品条件の変更に伴う出荷側のコスト影響や、B2B出荷体制の設計についてのご相談はお問い合わせや資料ダウンロードから承っています。発送代行サービスの比較検討もあわせてご覧いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q. 今回の実態調査はいつ何が公表されたのですか?
A. 公正取引委員会が2026年(令和8年)7月29日に「大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査」の開始を公表しました。翌7月30日に、小売業者約1,200名および納入業者約31,000名に対してウェブアンケート調査への協力依頼状が発送されています。回答期限は2026年8月27日です。
Q. 調査の目的は何ですか?
A. 大規模小売業者と納入業者との取引実態を把握し、独占禁止法上の優越的地位の濫用行為の未然防止を図ることなどが目的です。前回の報告書(平成30年1月公表)から一定の期間が経過し、原材料価格等の上昇やSNS・デジタル広告等による販売促進手法の多様化によって、取引条件や費用負担の内容が変化していることが想定される、と説明されています。
Q. 回答したら処分を受けることがありますか?
A. 公表資料によれば、公正取引委員会はアンケート結果を踏まえて関係事業者へのヒアリングを実施し、その結果を公表して周知するとともに、独占禁止法上の問題につながるおそれのある行為が認められた事業者に注意喚起文書を送付するなどの対応を予定しています。個別の取り扱いについては、公表資料に記載の問い合わせ先に確認してください。
Q. EC事業者も調査の対象になりますか?
A. 対象は大規模小売業者と納入業者です。自社ECやモールでの販売と並行して小売チェーンや専門店に卸している事業者、OEMで自社ブランドを実店舗に展開している事業者は、納入業者の立場として依頼状が届いている可能性があります。まず自社に協力依頼状が届いていないかを確認することをおすすめします。
Q. 回答期限までに何を準備すればよいですか?
A. 依頼状の所在を確認して主管部署を決め、主要な取引先ごとに価格・支払条件・返品条件・販促費の分担・センターフィー・納品条件を一覧に棚卸しします。契約書の条件と実際の運用が一致しているかもあわせて確認してください。取引条件と費用負担の実態は1部署では把握しきれないため、営業・調達・物流・経理から情報を集める前提で段取りを組むのが現実的です。
この記事の監修者
金子将大
株式会社KEYCREW ソリューション部門の責任者。大手ECプラットフォーム会社にてEC構築に関する開発・PM業務を7年間担当し、EC業界での豊富な技術知見を持つ。応用情報技術者・証券外務員2種の資格を保有。UIリニューアルやサービスリニューアルのプロジェクトマネジメント、Temu・ShopifyなどのEC外部API連携の新規開発・リプレイスを手がけてきた。クラウド環境のアプリログコストを60%程度削減するなどの技術的成果も上げている。KEYCREWではソリューション部門全体を統括し、技術で組織の仕組みを改善し、安定した運営と今後の成長につながる基盤づくりに注力。API連携・システム統合・EC自動化・DX推進に関する実践的な知見を記事に反映している。