SHEIN・Temuが物流を現地化|越境EC「直送モデル」転換で日本のEC事業者が備えること
- EC・物流インサイト
この記事は約13分で読めます
「Temuやシーインの安さには、もう価格では勝てない」——そう感じている中堅EC事業者の方は少なくないはずです。ところが2025年から2026年にかけて、その低価格を支えてきた中国からの「直送モデル」が大きく揺らいでいます。米国をはじめ各国が少額輸入の免税制度を相次いで撤廃し、SHEINやTemuは在庫を消費地の近くに置く「現地化」へと舵を切り始めました。本記事では、この物流モデルの転換が何を意味するのか、そして日本のEC事業者が国内競争と自社の越境輸出の両面で何を準備すべきかを整理します。あわせて、自社物流の組み立て方は発送代行の選び方から逆算すると判断しやすくなります。
いま越境ECの物流で何が起きているのか
SHEINとTemuは、これまで「中国の倉庫から注文ごとに1個ずつ国際小包で送る」直送モデルで急成長してきました。各国の少額輸入免税(デミニミス)に収まる単価設計と、広告投資による集客が組み合わさることで、圧倒的な低価格を実現してきたのです。ところが2025年以降、両社はこのモデルを見直し、消費地の近くに在庫を構える方向へ動き始めています。これは単なる戦術変更ではなく、越境ECの収益構造そのものの転換を意味します。
直送モデルが抱えていた構造的な弱点
直送モデルは初期投資が小さく、在庫リスクを持たずに世界中へ販売できる点が強みでした。一方で、注文ごとに国境を越えるため、配送リードタイムが7〜15日と長く、追跡精度や返品対応にも限界がありました。さらに各国が少額輸入の免税枠を縮小すると、1件ごとに関税や手数料が乗るため、低価格の前提そのものが崩れます。このコスト構造の変化が、両社を現地化へと押し出した最大の要因です。
現地拠点の新設とセミマネージ型への移行
SHEINは米国に大型の配送拠点を構え、第三者の出品者を受け入れる「セミマネージ(半委託)型」モデルを拡大しています。これは、商品を現地倉庫にまとめて納品させ、保管・出荷はプラットフォーム側が担う仕組みで、Amazonのフルフィルメント(FBA)に近い発想です。Temuも同様に、現地の倉庫と出品者を活用するローカル・ツー・ローカル型へ比重を移しています。こうした動きはAmazon Haulの欧州展開とも連動しており、中国発越境ECの国内倉庫シフトは、日本市場でも同じ方向で進みつつあります。
背景には、単なるコスト対策だけでなく規制リスクの分散もあります。直送モデルは制度変更ひとつで採算が一変するため、在庫を消費地に置いて現地企業として振る舞うほうが、関税や通関の不確実性を抑えられます。Temuの台頭が日本市場に与える影響はTemuとは何かの整理もあわせて読むと立体的に理解できます。
なぜ「現地化」なのか──免税撤廃という引き金
現地化の背景を一言でいえば、「価値ベースの免税が世界的に縮小し、直送の安さが続かなくなった」ことに尽きます。各国の制度変更を時系列で並べると、その圧力の大きさが見えてきます。
米国デミニミス撤廃の衝撃
米国は2025年8月29日、800ドル以下の輸入品を免税としてきたデミニミス制度を全世界向けに撤廃しました。これにより、低単価の小包にも一律で関税や手数料が課されるようになり、直送モデルの採算が一気に悪化しました。1件あたり数百円〜千円規模のコスト増は、単価の低い商材ほど打撃が大きくなります。日本から米国へ販売する事業者にとっても無関係ではなく、詳しくはアメリカ越境物流の最新事情で整理しています。
世界に広がる「少額でも課税」の流れ
同じ流れはEUや日本にも波及しています。EUは2026年7月から150ユーロの免税枠を撤廃し、小包に定額の関税を課す方向です。こうした少額免税の世界的な見直しは、直送モデルの前提を一斉に崩しています。「1個ずつ送れば免税」という設計が成り立たなくなった以上、在庫を消費地にまとめて置き、関税を仕入原価ベースで一度に納める現地在庫型のほうが合理的になるわけです。
個人的に使用するために海外から購入した物品(個人輸入)であっても、課税価格の合計額が1万円以下の場合を除き、原則として関税・消費税が課されます。
越境EC物流の3つのモデルを整理する
現地化の話を理解するには、越境ECの物流が大きく3つの型に分かれることを押さえておくと便利です。それぞれにコスト構造とスピードのトレードオフがあり、商材や規模によって最適解が変わります。物流の全体像をつかみたい方は物流の基礎から確認すると、各モデルの位置づけが見えてきます。
| モデル | 仕組み | リードタイム | 関税の扱い | 向いているフェーズ |
|---|---|---|---|---|
| 直送型 | 注文ごとに生産国から国際小包で発送 | 長い(7〜15日) | 1件ごとに課税 | テスト販売・小ロット |
| 保税・3PL中継型 | 保税倉庫や近隣国の拠点を経由して配送 | 中(3〜7日) | まとめて申告 | 需要が読めてきた段階 |
| 現地在庫型 | 消費地のFCに在庫を前進配置し国内配送 | 短い(翌日〜中2日) | 仕入原価ベースで一括 | 定番化・量が安定 |
スピードとコストはトレードオフではなくなりつつある
かつては「安くしたいなら直送、速くしたいなら現地在庫」という単純な二択でした。しかし免税撤廃によって直送のコスト優位が薄れた結果、量が安定している商材では現地在庫型のほうが総コストでも有利になるケースが増えています。SHEIN・Temuの現地化は、まさにこの計算が成り立つ規模に達したことの表れだといえます。
判断のポイントは「売れ筋の予測精度」です。需要が読める定番商材なら、まとめて輸入しても在庫が滞留しにくく、現地在庫型の利点を最大限に引き出せます。反対に、トレンドの移り変わりが速く需要が読みにくい商材は、直送型や保税中継型で在庫リスクを抑えるほうが無難です。1つのモデルに固定せず、商材ごとに使い分けるのが現実的な解になります。
「半委託」という中間解
セミマネージ型は、出品者が商品を現地倉庫に納品し、保管・出荷をプラットフォームに任せる中間的な仕組みです。出品者は在庫リスクと納品責任を負う代わりに、現地配送のスピードと信頼性を手に入れます。これは日本の事業者が国内で発送代行を使うときの考え方と本質的に同じで、「保管と出荷を専門業者に寄せる」発想が国境を越えて広がっているといえます。
日本のEC事業者への2つの示唆
この変化は、海外の出来事として眺めているだけでは不十分です。日本のEC事業者には「国内市場での競争」と「自社の越境輸出」という2つの面で、具体的な示唆があります。
示唆1:国内市場では「価格以外の価値」で戦う
Temuやシーインが現地在庫型に移行すれば、これまで遅さがネックだった配送スピードが改善し、国内ECとの距離はさらに縮まります。価格と速さの両方で攻められると、薄利多売の真っ向勝負では分が悪くなります。だからこそ、品質保証・丁寧な梱包・同梱物による世界観づくり・返品対応の安心感といった、価格表に現れない価値で差別化することが重要です。低価格越境ECへの国内EC事業者の対抗策は、結局のところ「体験の質」に行き着きます。出荷の速さと正確さは、その体験を支える土台です。
示唆2:越境輸出では「現地在庫型」を判断軸に加える
逆に、日本から海外へ販売する事業者にとっては、現地在庫型が現実的な選択肢として浮上しています。各国で免税が縮小した今、少量の直送を続けるよりも、売れ筋を現地FCにまとめて送り、現地から配送するほうが、配送スピードと総コストの両面で有利になる場面が増えました。まずは直送型で需要を確かめ、定番化した商材から現地在庫型へ移すという段階設計が現実的です。日本ブランドにとっては、現地配送のスピードが「信頼できる海外ブランド」という評価につながり、リピート率にも効いてきます。
令和6年度のBtoC-EC市場規模は26兆1,654億円(前年比5.81%増)で、物販系分野は14兆6,760億円となった。
国内EC市場が拡大を続けるなか、越境ECは成長の一翼を担っています。だからこそ、輸出を伸ばすには物流モデルの選択がそのまま競争力を左右します。輸出時の関税やランディングコストの考え方は関税の仕組みを押さえると見通しが立てやすくなります。
国内物流体制をどう整えるか
国内・越境のいずれで戦うにしても、土台になるのは「自社の出荷をいかに速く・安く・安定して回すか」です。ここでは、現地化の潮流を踏まえて国内事業者が整えておきたい3点を挙げます。
- 出荷波動への耐性をつくる——セール期や広告連動で注文が急増しても、当日〜翌日出荷を崩さない体制が体験の質を決めます。
- 配送キャリアを分散する——1社依存はリスクです。複数キャリアを使い分けるマルチキャリア戦略で、遅延や値上げの影響を平準化します。
- 保管と出荷を外部化する——在庫前進という発想を国内でも採り入れ、保管・梱包・出荷を専門業者に寄せることで、販促や商品開発に時間を回せます。
越境輸出を見据えた海外発送の選択肢
日本から海外へ送る場合の配送料感を把握しておくと、現地在庫型へ切り替える損益分岐の判断がしやすくなります。たとえば少量を都度発送する直送型では1件あたりの国際送料と関税が積み上がりますが、売れ筋をまとめて現地FCへ送る現地在庫型では、輸送単価を下げつつ現地配送のスピードを確保できます。どのゾーンへどれだけ送るかによって最適なモデルは変わるため、まずはゾーン別の送料水準と自社の販売量を突き合わせて試算することが出発点になります。海外発送を含む料金の詳細は料金ページで確認できます。なお、輸出先の制度や必要書類はJETROなど公的機関の情報で最新を確認しておくと安心です。
商品を輸出する際には、関税関係法令だけでなく、輸出貿易管理令や食品衛生法など、各種の関係法令に基づく許可・承認等が必要となる場合があります。
宅配クライシスを前提にした設計
国内でも人手不足を背景に配送コストは上昇基調が続いています。宅配クライシスを前提に、出荷リードタイムの短縮と在庫配置の最適化を進めることが、価格以外の競争力を支える基盤になります。
まとめ:価格競争から「届け方」の競争へ
SHEIN・Temuの物流現地化は、越境ECが「とにかく安く送る」段階から「速く・確実に届ける」段階へ移ったことを示しています。少額免税の撤廃が直送モデルのコスト優位を削り、在庫を消費地へ寄せる現地在庫型が合理的になりました。日本のEC事業者は、国内市場では価格以外の体験価値で差別化し、越境輸出では現地在庫型を判断軸に加えることが求められます。いずれの戦略も、土台となる出荷体制の強さがあって初めて機能します。自社に合った物流の組み立て方は発送代行の選び方と、STOCKCREWのサービス全体像から逆算して検討してみてください。具体的な料金や体制の相談はお問い合わせから、費用感の把握には資料ダウンロードが役立ちます。
よくある質問(FAQ)
Q. SHEINやTemuの「現地化」とは具体的に何を指しますか?
中国から注文ごとに直送していた方式を見直し、米国などの消費地に大型物流拠点を構えて在庫をまとめて置き、現地から配送する方式へ移すことを指します。第三者の出品者を受け入れるセミマネージ型の拡大もこの一部です。
Q. なぜいま現地化が進んでいるのですか?
米国が2025年8月にデミニミス制度を撤廃するなど、各国が少額輸入の免税枠を相次いで縮小したためです。1個ずつ送れば免税という前提が崩れ、在庫をまとめて輸入し関税を一括で納める現地在庫型のほうが採算に合うようになりました。
Q. 日本の中堅EC事業者にどんな影響がありますか?
低価格越境ECの配送スピードが改善するため、価格と速さの両面で競合しやすくなります。価格以外の品質・梱包・返品対応といった体験価値での差別化が一段と重要になります。
Q. 自社の越境輸出でも現地在庫型を採るべきですか?
まずは直送型で需要を検証し、定番化した売れ筋から現地在庫型へ移す段階設計が現実的です。販売量が安定すれば、配送スピードと総コストの両面で現地在庫型が有利になる場面が増えています。
Q. 国内物流で今すぐ整えるべきことは何ですか?
出荷波動に強い体制づくり、配送キャリアの分散、保管・出荷の外部化の3点です。これらは越境輸出にも転用できる基盤であり、価格以外の競争力を支えます。
この記事の監修者
保阪涼子
株式会社KEYCREW 営業部長。物流会社で10年間、EC物流の現場担当・営業事務を経験し、EC・物流業界で通算10年以上のキャリアを持つ。STOCKCREWではサービス開始初期から商談を担当し、500社以上のEC事業者への導入支援を一貫して手がけてきた。YFF(Yahoo!フルフィルメント)移管時には1,000社超の顧客接点・フロー設計を主導。月間10万件以上の出荷管理に携わり、顧客の物流費を平均15%削減する成果を上げている。成約率50%を達成した営業手法には、「『売る』より『解く』」という顧客課題解決型のアプローチが根底にある。物流メディア(Logistics Today、ECのミカタ)へのインタビュー掲載実績も持つ。