ヤマトHD、韓国WATT社に出資——マンション内配送ロボット商用化へ前進|EC物流の再配達問題に変化をもたらすか
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宅配ドライバーが1日に何度もエレベーターを往復しながら各戸を回る——大規模マンションへの配送は、ラストワンマイルの中でも特にコストと手間がかかる工程として長年の課題とされてきました。2026年4月23日、ヤマトホールディングス株式会社はKURONEKO Innovation Fund 2号を通じて韓国の屋内配送自動化スタートアップ「WATT社」への出資を発表し、この問題の解決へ向けた具体的な一手を打ちました。
本記事では、このニュースの詳細と、EC事業者・発送代行を活用する事業者にとって何が変わるのかを整理します。
ヤマトHD、WATT社への出資を発表——2026年4月23日の公式リリース概要
2026年4月23日、ヤマトホールディングス株式会社は、運用するCVCファンド「KURONEKO Innovation Fund 2号(KIF2)」を通じて、屋内配送自動化ソリューションを提供する韓国スタートアップ「WATT社(ブランド名:WATT)」への出資実行を発表しました。
KURONEKO Innovation Fund 2号とは
KURONEKO Innovation Fund(KIF)は、ヤマトホールディングスが物流・スタートアップエコシステムの構築を目的に運用するCVCファンドです。KIF2はその第2号ファンドで、国内外の物流テック・ラストマイル技術・倉庫自動化領域を中心に投資対象とする方針を掲げています。ヤマト運輸との共同実証を経て事業シナジーが確認された企業に対してシード〜アーリーステージでの出資を行い、グループ全体の物流品質向上へ活かすことを目的としています。
WATT社への出資はKIF2としての投資の一例であり、すでに国内大規模マンションでの実証実験という具体的な協業実績を踏まえた戦略的出資に位置づけられます。物流AIの活用事例が多様化するなか、人材依存が高いラストワンマイルへのロボット投入は業界全体の注目を集めています。
出資先WATT社の概要と技術
WATT社は韓国発の屋内配送自動化スタートアップです。同社の主力製品は建屋フロア間自律走行ロボットで、集合住宅や複合施設のエントランスから各戸の玄関先までを自律的に移動し荷物を届けます。特徴的なのはエレベーターへの完全自律対応です。ロボットはエレベーターホールでボタンを操作し、乗降・扉の開閉タイミング調整、フロア移動まで人の介助なしに完結する独自のシステムを実装しています。また建物内の構造をリアルタイムで認識する機能を搭載しており、初訪問の建物でも地図情報を取得しながら経路を最適化できます。
ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸は、WATT社と共同で2025年8月から2025年12月にかけて関東圏の大規模マンション3か所において建屋フロア間自律走行ロボットを活用した実証実験を実施し、走行安全性と荷物の受け取り利便性が確認された。
屋内自律走行ロボットの仕組み——エレベーターまで自律操作する技術
WATT社ロボットが注目される最大の理由は、エレベーターを含む建物内インフラを自律的に操作する能力にあります。従来の配送ロボットの多くは1フロア内の水平移動に特化しており、多層構造の集合住宅ではドライバーによる補助が必要でした。WATT社はこの「垂直移動の自律化」を商用レベルで実現している点が他社との差別化ポイントです。
図1:マンション内自動配送ロボットの3ステップフロー(出典:STOCKCREW作成)実証実験の成果(2025年8月〜12月)
ヤマト運輸とWATT社は2025年8月から12月にかけて関東圏の大規模マンション3か所で実証実験を実施しました。この実証では走行安全性と荷物の受け取り利便性という2軸での検証が行われ、いずれも商用展開に向けた基準をクリアする結果が確認されました。エレベーター乗降時の安全確認、廊下での居住者とのすれ違い対応、荷物の適切な保護といった現場課題が一定水準でクリアされたことが、今回のKIF2を通じた正式出資につながっています。
EC事業者の視点から見ると、この実証は単なる技術実験にとどまらず、「ドライバーが各戸を訪問する」という配達モデルそのものを変える可能性を示すものです。特に高層マンション向けの出荷が多いEC事業者にとっては、今後の配送品質と再配達コストに直結する話題です。
従来の置き配・宅配ボックスとの違い
マンション配送の課題解決策としては、すでに置き配の標準サービス化や宅配ボックスの普及が進んでいます。しかし現行の置き配は「玄関前に荷物を置く」という行為自体はドライバーが行うため、エレベーターの往復コストは変わりません。WATT社ロボットの本質的な違いはドライバーがエントランスで荷渡しを完了するだけで、その後の棟内配達をすべてロボットが代替する点にあります。
これにより「ドライバーがエントランスで1件5〜10分かけて各フロアを回る」という時間コストが削減され、より多くの棟への短時間での配達が可能になります。EV配送車によるラストマイルDXと組み合わせると、幹線〜棟内配達の全工程で電動化・自動化が進む構図が見えてきます。
再配達問題の現状——なぜマンション配送が課題なのか
そもそも、なぜ今「マンション内ロボット配送」が注目されているのでしょうか。背景にあるのは依然として高止まりしている再配達率です。
再配達率の現状と政府目標
宅配便の再配達率は2025年4月時点で全国平均8.4%であった。国土交通省は2030年度末までに再配達率を6%以下に抑えることを目標として掲げており、置き配の標準化や宅配ボックス設置促進など複合的な施策を推進している。
再配達率8.4%は数字として小さく見えますが、年間の宅配便取扱量が約55億個(2024年推計)であることを踏まえると、年間約4.6億件以上が再配達されている計算になります。1件の再配達に要する時間・燃料・ドライバー労働を考えると、産業全体への影響は甚大です。物流2024年問題施行から2年が経過した現在も、人手不足による配達効率の低下が再配達削減の足を引っ張る構図が続いています。
特にマンションは不在率が高く、マルチキャリア戦略を取るEC事業者からも「マンション向け出荷は再配達になりやすい」という声が上がっています。高層階では玄関前置き配が難しかったり、宅配ボックスが満杯になるケースも多いためです。
マンション特有の配送コスト構造
大規模マンションへの配達は構造的なコスト課題を抱えています。主な要因は以下の3つです。
- 棟内移動時間の長さ——エレベーター待ち、廊下移動、各戸でのインターホン対応を含めると1棟で20〜40分かかるケースも珍しくありません。
- 高い不在率——集合住宅では日中の不在率が高く、再配達依頼や宅配ボックス利用の判断ロスが発生します。
- セキュリティ制約——オートロック付きマンションではエントランスで居住者との連絡が必要なため、配達時間が伸びます。
WATT社のロボットは、このうち「棟内移動時間」と「オートロック対応」に直接的なアプローチを取ります。ドライバーはエントランスで荷物を渡すだけでよく、その後の棟内作業はロボットが担うため、ドライバーは次の配達先へ移動できます。
EC事業者への影響——ラストマイルコストと配送品質の変化
このロボット配送の商用化は、EC事業者に対して間接的ではあるものの確実な影響を与えます。発送代行サービスの選定にも関わる話題なので、押さえておくべきポイントを整理します。
着荷率の改善と返品率への影響
EC事業者にとって「不在による再配達→配達断念→返品」という流れは損失に直結します。ロボット配送による24時間・不在時対応の強化は、荷物の着荷率向上に寄与すると考えられます。現状の置き配が「玄関前に置くだけ」であるのに対し、ロボット配送では居住者がスマートフォン経由で配達完了通知を受け取りつつ、自宅の玄関前に確実に届けられる体験が想定されます。
着荷率が向上すれば、物流起因の返品(不在持ち戻り・宛先不明による返送)が減少し、EC事業者側の返送処理コストが下がります。フルフィルメントコストの観点でも、返品処理件数の削減はコスト最適化に直接つながります。
配送料金体系への影響(中長期的視点)
短期的にはロボット導入コストが配送会社の先行投資となりますが、中長期的にはドライバー1人あたりの配達効率向上がキャリアのコスト構造を改善する可能性があります。現在、宅配便の配送料金は労働集約的な作業コストを相当部分含んでいますが、棟内自動化が進むことで単価引き下げ余地が生まれる可能性があります。
もちろん普及には時間がかかります。2026年時点でWATT社ロボットが商用展開しているのはヤマト運輸の一部提携マンションに限られており、すべての配送先で利用できる段階ではありません。EC事業者が直接的にロボット配送を選択・指定できるまでにはまだ時間が必要です。
| 施策 | 対象範囲 | EC事業者への直接影響 | 実用段階 |
|---|---|---|---|
| 置き配の標準化(国交省約款改正) | 全配送エリア | 再配達コスト低減・消費者満足度向上 | 2026年度以降施行予定 |
| 宅配ボックス普及(補助金) | 集合住宅・戸建て | 不在配達成功率の向上 | 普及進行中 |
| マンション内自動配送ロボット(WATT) | 大規模マンション(実証段階) | 棟内配達自動化・着荷率向上 | 商用化フェーズ移行中 |
| 自動物流道路(幹線) | 東名・中央道など一部路線 | 幹線輸送コスト・リードタイム改善 | 2030年代以降 |
発送代行との連携で見えてくる将来像
発送代行サービスを利用するEC事業者の場合、倉庫からの出荷はヤマト運輸や佐川急便のネットワークに乗ります。ラストマイルにロボット配送が導入されることで、「倉庫から高層マンション玄関前まで」のエンドツーエンドの自動化が現実に近づきます。物流全体の自動化ロードマップの中で、今回の出資はその一ピースといえます。
STOCKCREWのようにAMR(自律走行ロボット)を倉庫内で110台稼働させている発送代行では、倉庫内の自動化はすでに実用段階です。WMS(倉庫管理システム)との連携も進んでおり、ラストマイルの自動化が加速することで、「受注から玄関前配達まで人手がほとんど介在しない」物流体験がEC事業者にも届く日が近づきつつあります。
国内外の自律配送ロボット比較——日本固有の課題とWATT社のアプローチ
自律配送ロボットの世界的な動向と照らし合わせると、WATT社の「屋内・垂直移動」への特化は日本市場に合った戦略といえます。
米国・中国との比較
米国では自律走行配送ロボットが2,000台規模で稼働しており、Serve RoboticsやCocoなど歩道走行型の屋外ロボットが主流です。また中国では屋外・屋内を問わず大規模な実証・商用展開が進んでいます。一方で日本市場では道路交通法の制約や高密度都市構造により屋外走行型ロボットの大量展開が難しく、屋内・集合住宅特化型の需要が相対的に高い構造があります。
日本の宅配市場は特に「マンション比率の高さ」が際立ちます。東京都区部では住宅の約70%以上が集合住宅であり、首都圏を中心に年間数億件単位の集合住宅向け配達が発生しています。この市場特性こそが、WATT社のような「垂直移動対応型屋内ロボット」の需要を生んでいます。
日本市場固有の課題とWATT社のアプローチ
日本での配送ロボット普及には独自の障壁があります。主な課題は3つです。
- エレベーターメーカーとの連携——各社のエレベーター制御システムとの互換性確保が必要です。WATT社はロボットアームによる物理的なボタン操作という方法でこの課題を回避しています。
- 管理組合の合意形成——共用部使用には管理組合の承認が必要であり、導入ハードルが高い物件も存在します。
- 高齢者・子どもとの共存——廊下・エレベーターでの安全性確保が社会的受容の条件です。実証3か所での安全確認はこの点への回答といえます。
WATT社がヤマト運輸との共同実証を選んだのは、これらの課題を実環境で検証するためでもあります。総合物流施策大綱(2026〜2030年度)でも自動化・DX推進が明記されており、政策的な追い風も後押しします。一方で倉庫・物流の人手不足が深刻化するなか、自動化投資の回収スピードがロボット普及のペースを左右することになります。
令和6年度のBtoC-EC市場規模は26兆1,654億円(前年比5.81%増)に拡大。EC化率は9.8%に達し、荷物の総量増加とともにラストマイル配送コストへの圧力が続いている。
EC市場の成長が荷物量を押し上げ続けている今、EC物流全体のコスト構造改善のためにもラストワンマイルの自動化は急務となっています。物流コストの可視化に取り組むEC事業者にとっても、ラストワンマイルのコスト変化は注視すべき指標の一つです。
まとめ:自動化の波はラストワンマイルへ
ヤマトHDによるWATT社への出資は、倉庫内AMRの普及から始まった物流自動化の波が、いよいよ「棟内配達」というラストワンマイルの最終局面に到達したことを示すニュースです。今回のポイントを整理します。
- 2026年4月23日にヤマトHDがKIF2を通じてWATT社へ出資——大規模マンション向け屋内配送ロボット商用化へ前進
- WATT社ロボットはエレベーター操作まで自律対応——2025年8〜12月の関東3か所での実証実験で安全性・利便性を確認
- 再配達率(2025年4月時点8.4%)の削減が政府目標(6%)達成に向けた技術的裏付けになりうる
- EC事業者には着荷率向上・返品コスト削減という間接的メリットが期待される
商用展開はまだ一部マンションに限られており、すべてのEC事業者が直接体感できる変化には時間がかかります。しかし発送代行の選定や配送設計を検討する際は、こうした技術トレンドを背景として把握しておくことが長期的な競争力につながります。
配送コストの削減や物流DXの活用について、STOCKCREWへのお問い合わせや資料ダウンロードでぜひご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. ヤマトHDのWATT社への出資はいつ発表されましたか?
2026年4月23日に、ヤマトホールディングス株式会社がKURONEKO Innovation Fund 2号(KIF2)を通じたWATT社への出資実行を公式に発表しました。WATT社は韓国発の屋内配送自動化スタートアップで、2025年8〜12月にかけてヤマト運輸との共同実証実験を関東3か所で実施した実績があります。
Q. マンション内自動配送ロボットは現在どこで使えますか?
2026年4月時点では、ヤマト運輸とWATT社が実証実験を行った関東圏の大規模マンション3か所での検証が完了した段階であり、商用展開はこれから本格化するフェーズです。全国のマンションで利用できる状態ではなく、順次展開先が広がっていく見通しです。
Q. 自動配送ロボットの商用化でEC事業者のコストはすぐ下がりますか?
短期的には配送料金への直接的な影響は限定的です。ロボット導入は配送会社側の先行投資を要するため、料金体系への反映には時間がかかります。中長期的には配達効率の向上によりコスト構造が改善される可能性があります。EC事業者にとっては着荷率向上による返品コスト削減という間接的なメリットが先に現れる見込みです。
Q. 宅配便の再配達率は現在どの程度ですか?
国土交通省の把握では2025年4月時点の全国平均再配達率は8.4%です。政府は2030年度末までに6%以下とする目標を掲げており、置き配の標準化・宅配ボックス普及・配送ロボット活用など複合施策を推進しています。年間約55億個の宅配便のうち4億件以上が再配達されている計算となり、産業全体の大きなコスト課題です。
Q. 発送代行を使っているEC事業者はこのロボット配送とどう関わりますか?
発送代行(物流代行)経由で出荷する場合、配送はヤマト運輸や佐川急便のネットワークを利用します。マンション内ロボット配送はヤマト運輸のラストワンマイル工程に組み込まれる技術であるため、発送代行を利用するEC事業者は特別な手続きなしに、対応マンションへの配達で自動的にその恩恵を受けられる仕組みが想定されます。倉庫内AMRと組み合わせることで、受注から玄関前配達まで自動化されたフローが実現に近づきます。
この記事の監修者
仲井暉人
株式会社KEYCREW オペレーション部DX推進リーダー。IT業界でシステムエンジニアとして客先常駐・受託開発に約1年従事した後、KEYCREWに入社。現在は物流の仕組みづくりと改善を担当し、現場とシステムの両面から効率的な物流設計を支援している。倉庫出荷件数10倍拡大に伴うシステム連携・アーキテクチャ設計、自社ハンディ端末の機能設計・開発・導入、YFF移管1,000社超のシステム移管責任者として大規模プロジェクトを完遂。高負荷になるDB・インフラの見直しにより月額50万円のコスト削減も実現した。「心頭滅却」を信条に、バックエンド・フロントエンド・インフラの幅広い技術領域をカバーし、WMS・倉庫DX・庫内効率化・自動化技術に関する実装経験に基づいた記事を発信している。