長時間労働の監督指導は29,150事業場、38.5%で違法な時間外労働|EC自社出荷の繁忙期を点検する
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年末商戦やセールのたびに、夜の倉庫で梱包を続けてはいないでしょうか。厚生労働省は2026年9月15日、令和7年度に長時間労働が疑われる事業場へ実施した監督指導の結果を公表しました。対象となった29,150事業場のうち、11,228事業場(38.5%)で違法な時間外労働が確認されています。この記事では公表された数字を分母ごとに整理したうえで、EC事業者の出荷現場に当てはめると何をどの順で点検すべきかを具体化します。出荷を外部に出す選択肢も含めた全体像は発送代行の基本から確認できます。
令和7年度の監督指導結果|29,150事業場の38.5%で違法な時間外労働
今回の監督指導は、無作為の抽出ではありません。各種情報から時間外・休日労働が1か月あたり80時間を超えていると考えられる事業場や、過労死等に係る労災請求が行われた事業場など、長時間労働が疑われる事業場が対象です。対象期間は令和7年4月から令和8年3月までの1年間にあたります。
まず押さえたいのは分母の違い
公表資料の数字は、箱ごとに分母が変わります。ここを読み違えると、危険水準の事業場の規模感を大きく取り違えてしまいます。
1違法な時間外労働があったもの:11,228事業場(38.5%)
38.5%は監督を実施した29,150事業場に対する割合です。一方、その下にぶら下がる44.5%や25.3%は、違法な時間外労働があった11,228事業場を100としたときの割合になります。「29,150事業場の44.5%で月80時間超」と読むと実数が2倍以上ずれるため、社内で共有するときは分母を添えておくと誤解が生じません。
月80時間超が4,991事業場
| 区分 | 事業場数 | 割合 | 分母 |
|---|---|---|---|
| 監督指導を実施 | 29,150 | — | — |
| 違法な時間外労働があった | 11,228 | 38.5% | 29,150 |
| うち月80時間超 | 4,991 | 44.5% | 11,228 |
| うち月100時間超 | 2,842 | 25.3% | 11,228 |
| うち月150時間超 | 554 | 4.9% | 11,228 |
| うち月200時間超 | 111 | 1.0% | 11,228 |
表1:令和7年度 長時間労働の監督指導結果(厚生労働省の公表資料をもとにSTOCKCREW作成)
月80時間という水準は、脳・心臓疾患の労災認定で目安とされてきたラインです。そこを超える事業場が4,991、さらに月200時間超が111。1か月200時間の時間外労働は、所定労働に加えて毎日9時間以上を上乗せしている計算になります。倉庫やバックヤードでこの状態が常態化していれば、法令以前に人が続きません。倉庫の人手不足が深刻化するほど、残った人に負荷が寄る構造も強まります。
違反の中身|賃金不払残業と健康障害防止措置
是正勧告の対象は、時間外労働の長さだけではありません。公表資料では主な違反内容として3項目が挙げられており、EC事業者の現場にも当てはまりやすいものが並びます。
賃金不払残業は1,901事業場
賃金不払残業があったものは1,901事業場、監督実施事業場の6.5%でした。前段の統計として、厚生労働省が令和7年に公表した賃金不払の監督指導結果もあり、支払われていない賃金は事後に遡って請求されます。出荷のピーク時だけスポットで人を入れている場合、打刻の運用が緩くなりやすい点に注意が要ります。この論点は賃金不払の監督指導を扱った回でも整理しました。
健康障害防止措置と労働時間の把握
- 過重労働による健康障害防止措置が未実施——5,919事業場(20.3%)。長時間労働者への医師の面接指導など、法令で求められる措置そのものが行われていない状態です。
- 同措置が不十分で改善を指導——12,811事業場(43.9%)。監督実施事業場の4割強にのぼり、最も多い指導項目になっています。
- 労働時間の把握が不適正——4,045事業場(13.9%)。記録が残っていなければ、事業者側が「働かせていない」と示すこともできません。
健康診断の受診漏れや衛生管理の体制不備も同じ文脈でチェックされます。職場の健康診断や労働安全衛生調査の回で扱った点検項目と、今回の指導内容は地続きです。
EC出荷現場に当てはめる|残業をつくるのは波動
EC事業者の残業は、恒常的な業務量よりも出荷の波動から生まれます。平常日は定時で終わるのに、セール期だけ深夜まで梱包が続くという形です。月平均でならすと基準内に見えても、監督指導が見るのは月単位の実績が最も長い労働者の時間数です。
ピークは年に何度も来る
| 時期 | 波動の要因 | 残業が出やすい工程 |
|---|---|---|
| 3月・9月 | 期末セール・季節の入れ替え | 入荷検品・棚入れ |
| 6月・11月 | モールの大型セール | ピッキング・梱包 |
| 11月下旬〜12月 | ブラックフライデー〜年末商戦 | 全工程+問い合わせ対応 |
| 毎月5のつく日・月末 | ポイント施策・締め日 | 出荷指示・伝票発行 |
表2:EC出荷で残業が発生しやすい局面(STOCKCREW作成)
年間の山谷をあらかじめ見込んでおく設計は出荷波動の回に、個別イベントへの備えは年末商戦や駆け込み需要の準備チェックにまとめてあります。11月は大型セールと過重労働解消キャンペーンが重なる月でもあり、備えの優先度は高めに置いておきたいところです。
「小さいから対象外」ではない
監督指導は事業場単位で行われ、規模による除外はありません。倉庫を1つだけ持つ事業者でも、時間外・休日労働が月80時間を超えていると疑われる情報があれば対象になりえます。人員が少ないほど1人あたりの偏りは大きくなり、人手不足下の採用難と重なると交代要員を用意できません。採用の打ち手は倉庫スタッフの採用、短期の人員確保はスポットワークと特定技能の回が手がかりになります。
11月の過重労働解消キャンペーンまでに見る5項目
公表資料では、11月の過重労働解消キャンペーン期間中に重点的な監督指導を行う方針が示されています。逆算すると、9月から10月にかけてが点検の時期にあたります。
記録・協定・措置の3系統で見る
- 実労働時間の記録方法——自己申告のみになっていないか。入退場記録やシステムのログと突き合わせられる状態か。
- 36協定の上限と特別条項——協定で定めた時間と、繁忙月の実績が整合しているか。特別条項の回数上限を超えていないか。
- 割増賃金の計算——時間外・深夜・休日の割増が正しく分けて計算されているか。端数処理が切り捨てになっていないか。
- 健康障害防止措置——長時間労働者への面接指導の案内が運用に組み込まれているか。
- 繁忙期の応援体制——特定の担当者に出荷業務が集中していないか。1人が抜けたときに回る設計か。
2026年度は地域別最低賃金が10月に発効し、中小企業庁も支援策のパッケージを公表しています。最低賃金1,177円への支援策や、パート時間給の実勢を踏まえると、残業単価そのものも上がります。時間外労働の削減は、法令対応であると同時に費用の話でもあります。
記録が残っていないことのコスト
労働時間の把握が不適正で指導を受けた4,045事業場という数字は、裏を返せば反証の材料を持てない事業場が1割以上あることを示します。出荷件数や作業ログを残しておけば、どの工程に時間がかかっているかを後から検証できます。1件あたりの工数を測る考え方は人時生産性(UPH)、コスト全体の可視化はEC物流コストの可視化が土台になります。
残業を減らす3つの打ち手|平準化・省力化・外部化
残業の削減策は、大きく3つに分かれます。どれか1つではなく、波動の大きさと出荷件数に応じて組み合わせるのが現実的です。
| 打ち手 | やること | 効きやすい局面 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 平準化 | 受注の締め時間設計・先行出荷・同梱まとめ | 月内に山谷がある | セールの山そのものは消せない |
| 省力化 | ハンディ検品・送り状の自動発行・OMS連携 | 件数が読める定常業務 | 初期投資と習熟期間が要る |
| 外部化 | 出荷工程を発送代行へ委託 | 波動が大きく人を抱えきれない | 現場の情報が手元から離れる |
表3:残業削減の3つの打ち手(STOCKCREW作成)
外部化を検討するときの損益分岐
外部化は残業時間をゼロに近づける一方、委託費が固定的に発生します。判断の軸は「今の残業代+採用コスト+管理工数」と「委託費」の比較です。月商帯ごとの考え方は月商500〜1000万円の切り替え判断に、初めて外に出すときの手順は初めての外注化に整理しています。切り替えづらさの構造はスイッチングコストの回も併せて読むと判断が早くなります。
STOCKCREWの場合、BtoB出荷を除き当日15時までの受注分を当日出荷する運用で、導入リードタイムは最短7日、初期費用と固定費は0円です。EC物流の工程のうち、どこまでを外に出すかは段階的に決められます。料金の一覧で自社の出荷件数を当てはめてみると、残業代との比較がしやすくなります。
外部化しても手放してはいけないもの
委託後も、出荷件数・遅延件数・返品件数は自社で持っておくべき数字です。現場を外に出すと、日々の肌感覚が薄れます。外注で失われる情報の回で触れたとおり、数字の定点観測だけは残しておくと、委託先との会話が具体的になります。工程全体の設計はフルフィルメントの5工程に沿って線を引くと整理しやすくなります。
まとめ:数字が動く前に体制を決める
令和7年度の監督指導では、29,150事業場のうち11,228事業場(38.5%)で違法な時間外労働が確認され、そのうち4,991事業場(44.5%)が月80時間を超えていました。賃金不払残業は1,901事業場、労働時間の把握が不適正で指導を受けたのは4,045事業場です。EC事業者にとっての論点は、出荷の波動が特定の月と特定の担当者に集中し、月単位で見たときに基準を超えてしまう点にあります。
11月の重点監督までに残された時間は2か月弱です。記録・36協定・健康障害防止措置の3系統を点検し、そのうえで平準化・省力化・外部化のどれを足すかを決める順序が現実的といえます。委託を選択肢に入れるなら発送代行の比較軸から、サービスの具体的な仕様はSTOCKCREWの解説から確認できます。自社の出荷件数で試算したい場合は資料ダウンロードを、個別の条件を詰めたい場合はお問い合わせからご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 38.5%という数字は、日本の事業場全体の割合ですか。
違います。今回の監督指導は、時間外・休日労働が月80時間を超えていると考えられる事業場など、長時間労働が疑われる事業場を対象に実施されたものです。母数の29,150事業場は無作為抽出ではないため、日本全体の違反率として読むことはできません。
Q. 月80時間超の4,991事業場は、全体の何%にあたりますか。
公表資料の44.5%は、違法な時間外労働があった11,228事業場を分母にした割合です。監督を実施した29,150事業場を分母にすると約17%になります。社内で共有するときは、どちらの分母で話しているかを明示すると誤解が避けられます。
Q. 倉庫を持たず自宅兼事務所で発送している場合も対象になりますか。
従業員を雇用していれば労働基準法の適用を受けます。規模による除外はなく、長時間労働が疑われる情報があれば監督指導の対象になりえます。家族経営で雇用がない場合は労働時間規制の対象外ですが、その場合も出荷が特定の人に集中していないかは点検しておきたいところです。
Q. 11月の過重労働解消キャンペーンでは何が行われますか。
厚生労働省は、11月のキャンペーン期間中に重点的な監督指導を行う方針を公表資料で示しています。具体的な実施要領は例年キャンペーン前に公表されるため、現時点では「11月に重点監督がある」という事実までを前提に準備しておくのが妥当です。
Q. 労働時間の把握はどこまで記録すれば十分ですか。
自己申告のみに頼る方法は、今回4,045事業場が指導を受けた「把握が不適正」に該当しやすい運用です。入退場の記録やシステムのログなど、客観的に突き合わせられる記録を併せて残しておくと、実態との差が生じたときに検証できます。
Q. 発送代行に切り替えると残業はどれくらい減りますか。
削減幅は委託する工程の範囲によって変わるため、一律の数字はありません。ピッキングから梱包・出荷までを委託すれば、その工程に紐づく残業は発生しなくなる一方、受注確認や在庫調整の業務は自社に残ります。現在の残業時間を工程別に分解してから比較すると、現実的な試算ができます。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。