フリーランス法違反で勧告、振込手数料の差引きは「報酬の減額」|ECの委託先支払いと2026年1月の取適法改正
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公正取引委員会が2026年8月26日、家庭用電気製品の運送・設置などを個人事業主に委託していた事業者に対し、フリーランス法違反で勧告を出しました。違反の中身は「振込手数料を報酬から差し引いていた」というものです。実費を超える分だけで計48万1,031円、対象は138名にのぼります。この慣行はEC事業者にとっても他人事ではありません。ささげ業務の外注先、軽貨物ドライバー、繁忙期のスポット委託——振込手数料を先方負担にしている支払いがあれば、同じ構図に立っています。しかも2026年1月1日からはルールが厳しくなり、合意があっても差引きが違反になります。委託の全体像は発送代行の仕組みと費用から押さえておくと、この記事の射程がつかみやすくなります。
何があったのか——運送・設置の委託先138名から差し引いていた
公正取引委員会が勧告を出したのは、家庭用電気製品の運送・設置工事・クリーニングなどを請け負い、その一部を個人事業主に委託していた事業者です。物流・設置の委託そのものが舞台になっている点で、EC事業者にとって読み替えのしやすい事例になっています。
本件業務委託に係る当該事業者に対する報酬の額から、ジェイトップが実際に金融機関へ支払う振込手数料を超える額である計481,031円を差し引いた
合意はあった。それでも違反になった
ここが一番押さえておきたいところです。この事業者は、振込手数料を委託先の負担とすることを書面または電磁的方法で合意していました。それでも違反と判断されています。理由は単純で、差し引いていた額が実際に金融機関へ支払った手数料を超えていたからです。
たとえば実費が330円の振込に対して一律550円を差し引いていれば、超過分の220円は「報酬の減額」になります。社内では「手数料相当額」として処理していても、金額の根拠が実費とずれていれば、その差は法的に説明がつきません。委託先との条件設計そのものを見直す視点は2026年度の物流契約見直しチェックリストに整理しています。
規模と期間
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象人数 | 特定受託事業者138名 |
| 違反期間 | 令和6年11月1日〜令和7年11月30日(約13か月) |
| 差引き額(実費超過分) | 計481,031円 |
| 違反法条 | フリーランス・事業者間取引適正化等法 第5条第1項第2号(報酬の減額の禁止) |
| 事後対応 | 令和8年8月5日までに減じた額を支払い済み |
13か月・138名で48万円ですから、1人あたり月あたり約280円という計算になります。金額そのものは小さい。それでも社名を公表した勧告に至っている点が、この事例の重さです。「少額だから見逃される」という前提は成り立ちません。
2026年1月から「合意があっても差引きはアウト」になる
今回の勧告には、本文とは別に見逃せない注記が付いています。ルールそのものが2026年1月1日から変わるという予告です。公正取引委員会は同じ勧告資料の注記で、2025年10月1日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」が改正されたことにより、2026年1月1日以降になされた業務委託(1か月以上行うものに限る)については、特定受託事業者との合意の有無にかかわらず、振込手数料を報酬の額から差し引くことが報酬の減額に該当すると示しています。
実費どおりでも差し引けなくなる
現行ルールでは、事前に書面で合意があり、かつ実費の範囲内であれば、振込手数料を差し引く余地がありました。今回の事業者が違反になったのは、実費を超えていたためです。ところが2026年1月1日以降は、実費どおりに差し引いても報酬の減額になります。合意書を交わしていても効きません。
対象は「1か月以上行う業務委託」
注記には条件が付いています。新ルールが及ぶのは1か月以上行う業務委託です。単発のスポット発注はここから外れますが、EC事業者が使う委託の多くは継続契約でしょう。月次で発注書を出しているささげ業務、シーズンごとに固定で入ってもらう検品スタッフ、日々のラストマイルを担う軽貨物——いずれも1か月以上の委託に当たります。
外注に切り替えるときに何が起きるかはEC物流の初めての外注化と物流を「外注」すると失われる情報とはにまとめてあります。
同じ日に施行される取適法で、EC事業者が規制される側に回る
2026年1月1日には、もう一つ大きな変更があります。下請法が「取適法」に変わり、同日から施行されることです。正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、略称が中小受託取引適正化法、通称が取適法です。改正法そのものは2025年5月16日に成立し、同月23日に公布されています。制度全体の見取り図は取適法で物流委託がどう変わるかにまとめてあるので、支払期日や書面化の論点まで押さえたい場合はそちらが早いです。この記事では振込手数料と対象取引の拡大に絞ります。
振込手数料はこちらでも禁止される
振込手数料についても中小受託事業者に負担させることを禁止
フリーランス法は相手が個人のとき、取適法は相手が中小企業のときに効きます。振込手数料の負担転嫁は、2026年1月1日からどちらのルートでも塞がれるということです。委託先が法人か個人かで社内運用を分けている場合、その区別に意味がなくなります。
「発荷主から運送への委託」が新たに対象になる
取適法の改正でEC事業者にとって最大の変化は、対象取引の拡大です。従来、下請法が見ていたのは元請運送事業者から下請運送事業者への委託でした。改正後は、発荷主が元請運送事業者に運送を委託する取引も対象に入ります。
- 荷待ち・荷役の無償化が規制対象になる——立場の弱い物流事業者が荷積みや待機を無償で行わされている状況が、法の射程に入ります。
- 一方的な運賃の据え置きが禁止される——価格協議の求めに応じない、必要な説明をしないといった対応が明確に違反行為になります。
- 手形払い・振込手数料の負担転嫁が塞がれる——支払手段そのものにも制約がかかります。
荷主側からの運賃引き下げ圧力がどこまで通用しなくなるのかは、適正原価の第2回検討会と標準的運賃の交渉率90%・収受は約35%で追っている論点と地続きです。国が原価を定義しようとしている流れは国が運賃の「原価」を定義し始めたに整理しました。運賃交渉の実態そのものは国土交通省の「標準的運賃」に係る実態調査結果の公表で確認できます。
資本金だけでは判定できなくなる
適用対象の判定方法も変わります。従来は資本金の基準だけで対象かどうかが決まっていましたが、改正後は資本金の基準に該当しない場合でも、従業員数の基準に該当すれば適用対象になります。基準は、製造委託等が従業員数300人、役務提供委託等が従業員数100人です。資本金1,000万円のまま従業員150人というEC事業者は珍しくありません。これまで「資本金が小さいから下請法の対象外」と整理していた会社が、2026年1月から委託事業者として規制される側に回ります。公正取引委員会は簡易診断ツールを公開しているので、自社が該当するかは早めに確認しておくのが確実です。
物流分野の法規制がここ数年でどう積み上がってきたかは、改正貨物自動車運送事業法のポイントと改正物流効率化法の届出実務を並べて読むと流れがつかめます。荷主に課される義務の全体像は国土交通省の物流効率化法について(荷主・物流事業者の皆様へ)が一次情報になります。背景にある人手不足の構造は物流2024年問題から2年の現場変化にまとめました。
ECのどの支払いが該当するのか
「うちは物流会社ではないから関係ない」と考えたくなるところですが、EC事業者の支払先には個人事業主と中小企業が並んでいます。振込手数料を先方負担にしている取引を洗い出すと、思ったより多いはずです。
該当しやすい5つの支払い
| 委託の種類 | 相手 | 1か月以上か | 適用される法 |
|---|---|---|---|
| ささげ業務(撮影・採寸・原稿) | 個人カメラマン、ライター | 月次発注なら該当 | フリーランス法 |
| 軽貨物の配送委託 | 個人ドライバー | 継続契約が通常 | フリーランス法 |
| 繁忙期の梱包・検品 | 個人事業主、小規模業者 | シーズン単位なら該当 | 両方(相手による) |
| 運送・配送の委託 | 中小の運送会社 | 継続契約が通常 | 取適法(新規対象) |
| 倉庫・流通加工の委託 | 中小の物流会社 | 継続契約が通常 | 取適法 |
ささげ業務の外注設計はEC商品撮影のコツ、運送会社の使い分けは配送会社の使い分けとマルチキャリア戦略に実務を寄せています。委託契約そのものの組み立てはEC物流の業務委託の進め方と3PL契約の実務ガイド2026年版が具体的です。
見落としやすいのは「相殺」の形をとっているケース
振込手数料として明示的に引いていなくても、実質的に同じことをしている処理があります。
- 請求書の金額から一律の事務手数料を引いている——名目が違っても、根拠のない控除であれば同じ論点になります。
- 端数を切り捨てて振り込んでいる——「振込金額を丸めている」運用は、差額が積み上がると減額と見なされます。
- 資材代・システム利用料を天引きしている——委託先の同意と実費の裏付けがなければ、支払時の相殺は説明がつきません。
会計処理の都合で長年続いている運用ほど、誰も理由を説明できない状態になりがちです。令和7年の賃金不払 監督指導22,605件で扱った雇用側の論点と同じく、「昔からこうしている」が一番危ないと考えておくのが安全です。
今週できる点検——支払データを3ステップで洗い出す
年末が近づくと経理も現場も動けなくなります。2026年1月1日という期日から逆算すると、9月から11月のあいだに運用を切り替えておくのが現実的です。
ステップ1:請求額と振込額が一致しない支払を全件出す
会計ソフトや振込データから、請求書の金額と実際の振込額が一致していない取引を抽出します。数百円の差は目視では見つかりません。金額の一致・不一致で機械的に絞り込むのが確実です。
ステップ2:相手の属性と契約期間で仕分ける
抽出した取引を、相手が個人か法人か、法人なら従業員数がいくつか、契約が1か月以上かで仕分けます。個人=フリーランス法、中小企業=取適法という対応です。どちらにも当たらない取引だけが、現行の運用を続けられます。
ステップ3:契約条項と振込設定を同時に直す
ここでよくある失敗が、契約書だけ直して振込設定を放置することです。条項を削除しても、経理システムの支払マスタに「手数料先方負担」の設定が残っていれば、翌月も差し引かれて振り込まれます。契約と設定はセットで直してください。既存契約の棚卸しの手順は2026年度の物流契約見直しチェックリストに沿うと抜けが出にくくなります。
手数料を自社負担にすると、いくら増えるのか
是正の判断を鈍らせるのは「コストが増える」という感覚です。実際の増分を数字にしてしまえば、判断は早くなります。
月あたりの増分は委託先の件数で決まる
| 委託先の件数 | 1件あたり手数料 | 月間の増分 | 年間の増分 |
|---|---|---|---|
| 10件 | 330円 | 3,300円 | 39,600円 |
| 30件 | 330円 | 9,900円 | 118,800円 |
| 50件 | 330円 | 16,500円 | 198,000円 |
| 138件(勧告事例と同規模) | 330円 | 45,540円 | 546,480円 |
※他行宛振込手数料330円で試算した参考値です。実際の手数料は金融機関と振込方法によって変わります。
委託先が50件でも年間で約20万円です。勧告を受けた事業者と同じ138件規模でも年間55万円ほど。社名公表のリスクと比べれば、判断に迷う金額ではありません。ネット銀行や一括振込サービスに切り替えれば、この増分はさらに圧縮できます。
本当のコストは是正作業そのもの
金額よりも重いのは、契約書の巻き直しと支払マスタの修正にかかる工数です。委託先が50件あれば、覚書の送付・回収だけで数週間かかります。年末の繁忙期に重ねると現実的に回りません。だからこそ9月に着手しておく意味があります。
そもそも委託先の数を減らすという選択肢もあります。ささげ・梱包・配送を個別に外注している状態から、工程をまとめて任せる形に寄せると、管理する契約が減ります。判断材料は3PLとEC物流外注の全体像とフルフィルメントの5工程と外注化の判断に整理しました。自社出荷を続ける場合のコスト構造は自社発送コストの可視化で数字にできます。
価格転嫁の議論とセットで考える
振込手数料の負担転嫁が塞がれるのは、価格転嫁を進める政策の一部です。委託先に負担を押し付ける余地を潰したうえで、適正な価格を協議させるという設計になっています。物流費・労務費の転嫁がどこまで進んでいるかは価格転嫁率54.2%どまりの現状、運賃が上がり続ける構造はなぜ宅配運賃は毎年上がるのかにまとめています。EC物流全体の設計図はEC物流完全ガイドが出発点になります。
まとめ:金額は小さく、リスクは小さくない
公正取引委員会が2026年8月26日に出した勧告は、13か月・138名で実費超過分48万1,031円という規模でした。合意書があっても、実費を超えて差し引けば報酬の減額になります。そして2026年1月1日以降は、合意があっても実費どおりでも差し引けなくなります。同じ日に施行される取適法では、振込手数料の負担転嫁が禁止され、発荷主から元請運送事業者への委託が新たに対象に加わります。資本金が小さくても従業員数で該当するため、これまで対象外だったEC事業者も規制される側に回ります。
やることは3つです。請求額と振込額が一致しない支払を全件出し、相手の属性と契約期間で仕分け、契約条項と振込設定を同時に直す。委託先50件でも年間の増分は約20万円ですから、金額で迷う話ではありません。年末を避けて9月中に動いておくのが現実的です。
委託先の数そのものを減らす選択肢も検討する価値があります。工程をまとめて任せる形に寄せれば、管理する契約も支払も減ります。全体像は発送代行の業者選びと導入手順、STOCKCREWで何をどこまで任せられるかはSTOCKCREWのサービス範囲と料金にまとめてあります。自社の委託構成で何が変わるかを具体的に詰めたい場合はお問い合わせフォームから、まず全体像を掴みたい場合は資料ダウンロードをご利用ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 振込手数料を委託先負担にする合意書があれば問題ないですか?
A. 2025年12月31日までの委託については、合意があり実費の範囲内であれば差し引けます。ただし実費を超えて差し引くと報酬の減額になり、今回の勧告事例もこれに該当しました。2026年1月1日以降に行う1か月以上の業務委託については、合意の有無にかかわらず差引きが報酬の減額に該当します。
Q. フリーランス法と取適法はどう使い分けられますか?
A. フリーランス法は従業員を使用しない個人などの特定受託事業者への業務委託が対象です。取適法は中小受託事業者、つまり資本金または従業員数の基準に該当する事業者への委託が対象になります。振込手数料の負担転嫁は2026年1月1日から、どちらの法律でも禁止されます。
Q. 資本金1,000万円の会社でも取適法の対象になりますか?
A. なります。改正により、資本金の基準に該当しない場合でも従業員数の基準に該当すれば適用対象になりました。基準は製造委託等が従業員数300人、役務提供委託等が従業員数100人です。資本金を小さく保ったまま従業員が増えている会社は、委託事業者として規制される側に回る可能性があります。
Q. EC事業者が運送会社に配送を委託する取引も対象ですか?
A. 2026年1月1日から対象に加わります。従来は元請運送事業者から下請運送事業者への委託だけが対象でしたが、改正後は発荷主が元請運送事業者に対して製造・販売等の目的物の引渡しに必要な運送を委託する取引も新たな対象取引になります。EC事業者は発荷主としてこの範囲に入ります。
Q. 単発のスポット発注も対象になりますか?
A. フリーランス法の振込手数料に関する新ルールは、1か月以上行う業務委託に限定されています。単発の発注はこの条件から外れます。ただし報酬の減額の禁止そのものは業務委託全般に及ぶため、実費を超える控除は期間にかかわらず問題になり得ます。
Q. 振込手数料を自社負担にすると、どのくらいコストが増えますか?
A. 委託先の件数に比例します。他行宛330円で試算すると、委託先10件で年間約4万円、50件で年間約20万円、138件で年間約55万円です。ネット銀行や一括振込サービスに切り替えれば増分は圧縮できます。金額よりも、契約書の巻き直しと支払マスタの修正にかかる工数のほうが負担は大きくなります。
Q. いつまでに対応すればよいですか?
A. 2026年1月1日が期日です。契約条項の修正には委託先との覚書のやり取りが必要で、件数が多いと数週間かかります。年末の繁忙期と重なると現実的に進みません。9月から11月のあいだに、支払データの抽出、対象取引の仕分け、契約と振込設定の修正を終えておくのが安全です。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。