運賃の「適正原価」に荷主側の声が入る第2回検討会|EC配送費への波及と今から打てる4つの手
- EC・物流インサイト
この記事は約13分で読めます
宅配便の運賃は、これまで各社が自社の判断で決めてきました。その前提が2026年に入って変わりつつあります。国土交通省は改正トラック法で導入される「適正原価」の設定に向けた有識者検討会を立ち上げ、2026年8月26日に第2回を開催しました。注目したいのは、ヒアリング対象に運ぶ側だけでなく荷主・利用者側の団体が複数入ったことです。運賃の下限が国主導で定義されると、EC事業者の配送費はどう動くのか。この記事で整理します。出荷体制の全体像は発送代行の仕組みと費用、物流の基礎知識は物流完全ガイド2026年版にまとめています。
第2回検討会は8月26日、議題は関係者ヒアリング
改正トラック法で導入される「適正原価」の議論
国土交通省は2026年8月24日、第2回検討会の開催を公表しました。開催日は2026年8月26日(水)13時から15時で、議題は関係者ヒアリングと個別論点の検討です。この検討会は、令和7年6月に成立・公布された「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律(令和7年法律第60号)」で導入される「適正原価」を、どのように設定するかを詰めるために令和8年7月に立ち上げられたものです。
関係者へのヒアリング及び個別論点についての検討を行います
第1回で何が議論されたかは国が運賃の「原価」を定義し始めたに整理しています。第2回の特徴は、抽象論から一歩進んで現場の当事者から直接話を聞く段階に入ったことです。
資料は後日公開、いま断定できることは限られる
検討会は報道関係者に公開されますが、資料と議事要旨は後日の公開とされています。したがって、8月26日時点で「原価がいくらになる」といった数字を語ることはできません。確定しているのは、誰から意見を聞くかという枠組みだけです。ただしこの枠組み自体が、議論の行き先を読むうえで十分な情報量を持っています。
「適正原価」とは何を決めようとしている話か
運賃を「決める」のではなく「割ってはいけない線」を示す
誤解されやすいのですが、国が宅配便の運賃そのものを決めるという話ではありません。議論されているのは、トラック運送を成り立たせるために最低限かかるコストの水準をどう算定するかです。燃料費、車両の減価償却、保険料、そしてドライバーの人件費。これらを積み上げた線を下回る運賃が常態化すると、事業として続かなくなる——その線を可視化しようという発想です。
宅配運賃がなぜ毎年上がるのかという構造そのものはなぜ宅配運賃は毎年上がるのかで分解しました。今回の議論は、その構造を制度として言語化する作業だと捉えると理解しやすくなります。
2024年問題からの一本の線
この流れは突然出てきたものではありません。時間外労働の上限規制から始まり、荷主にも義務が及ぶ制度改正が続いてきました。労働時間の管理そのものへの監督も強まっており、労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った監督指導は、令和7年で4,123事業場に上ります(厚生労働省「労働基準監督署等が自動車運転者を使用する事業場に対して行った令和7年の監督指導、送検等の状況を公表します」)。人件費を削って運賃を下げるという選択肢が、制度の側から順に塞がれているという流れです。
| 時期 | できごと | 荷主(EC事業者)への影響 |
|---|---|---|
| 2024年4月 | ドライバーの時間外労働に上限規制 | 輸送力不足、リードタイムの見直し |
| 2026年4月 | 改正物流効率化法が全面施行 | 一定規模以上は特定事業者として中長期計画の義務 |
| 2026年4月 | 改正貨物自動車運送事業法が施行 | 白トラ利用時の荷主責任、書面交付の義務 |
| 検討中 | 適正原価の設定(令和7年法律第60号) | 運賃の下限が可視化される見込み |
それぞれの中身は物流2024年問題から2年、改正物流効率化法2026年4月全面施行、改正貨物自動車運送事業法とは?に分けて整理しています。荷主側の実務対応はEC荷主が整えるべき3点が具体的です。
ヒアリング6団体の内訳を読む
運ぶ側1、働く側1、荷主・利用側4
第2回のヒアリング対象は6団体です。公表資料に挙がっているのは、公益社団法人全日本トラック協会、全日本運輸産業労働組合連合会、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国農業協同組合中央会、一般財団法人出版文化産業振興財団。この並びを立場で分けると、運送事業者が1、労働側が1、そして荷主・利用者側が4という構成になります。
荷主側が4つ入った意味
原価の議論は、放っておけば運ぶ側の主張だけで進みます。そこに日本商工会議所と全国商工会連合会という中小企業の代表が入っていることは、EC事業者にとって見逃せません。中小のEC事業者は、まさにこの2団体が代弁する層に属します。農協中央会は農産物、出版文化産業振興財団は書籍という、それぞれ運賃が収益を直撃する業界の代表です。
- 運送側の論点——燃料・車両・人件費を回収できる水準をどう積み上げるか
- 労働側の論点——拘束時間の短縮と賃金確保をどう原価に織り込むか
- 荷主側の論点——原価の上昇をどこまで価格に転嫁できるか、転嫁できない層をどう扱うか
荷主の責任はすでに制度化が進んでいる
荷主が「運んでもらう側」として一方的に守られる立場ではなくなってきた点も押さえておきたいところです。改正物流効率化法では、一定規模以上の事業者に計画作成が義務づけられています。
物流効率化法に基づき、一定規模以上の荷主及び物流事業者を「特定事業者」として指定し、物流効率化に向けた中長期計画の作成を義務付けています。
指定を受けた場合の期限については特定荷主の中長期計画は10月末が期限にまとめました。取引条件の面では公正取引委員会の動きも続いており、公取委が荷主105社を立入調査と公正取引委員会が物流特殊指定を改正が参考事例になります。
原価が定義されると、EC配送費に何が起きるか
短期:交渉の言葉が変わる
まず起きるのは、値上げの説明のしかたが変わることです。これまで「燃料が上がったので」だった説明が、「適正原価がこの水準なので」に置き換わっていきます。事業者側からすると反論しにくい根拠が増えるわけで、単価の押し戻し交渉は今より難しくなると見ておくのが現実的です。実際、宅配大手の収益構造も価格適正化を軸に動いており、ヤマトHD第1四半期は営業赤字も価格適正化で改善にその推移を整理しています。
中期:単価より「1件あたりの総コスト」で見る必要が出る
単価が動かしにくくなると、削れる場所は別のところに移ります。サイズ区分をひとつ落とす、同梱率を上げる、送料無料ラインを見直す——いずれも単価ではなく1件あたりの総コストを下げる打ち手です。サイズと運賃の関係は運賃の「サイズ区分」という階段構造、収益側からの発想は「1配送あたりの粗利密度」で送料値上げに勝つにまとめています。
| 削減の切り口 | 効きはじめる時期 | 難易度 |
|---|---|---|
| 配送単価の値下げ交渉 | 即時 | 今後は上がる |
| 梱包サイズの見直し(区分を1段階下げる) | 1〜2か月 | 中 |
| 送料無料ライン・同梱設計の変更 | 1〜3か月 | 中 |
| 出荷拠点・委託先の再設計 | 3か月〜 | 高(効果も大きい) |
長期:燃料補助のような一時的な緩和策には頼れない
燃料価格の激変緩和措置のような一時的な下支えは、恒久的なものではありません。見直しの動きは燃料補助金(激変緩和措置)の見直しとEC配送費への波及で追いました。原価が制度として定義される流れと、補助が縮む流れは同じ方向を向いています。値上げが構造的なものだという前提は、宅配便値上げが止まらないでも繰り返し確認できます。
荷主としてのEC事業者に求められるもの
自社の物流原価を説明できるか
運送側が原価を開示する方向に進むということは、荷主側も自社の物流原価を把握していないと会話が成立しないということです。出荷1件あたりの梱包資材費、庫内作業費、配送費をそれぞれ分けて言えるかどうか。ここが曖昧なままだと、値上げの妥当性を判断することもできません。
転嫁できているかを点検する
上がったコストを販売価格や送料に反映できているかも、あわせて確認したい点です。全体の転嫁状況は価格転嫁率54.2%どまりに数字がまとまっています。送料設計そのものを組み直す場合はECサイトの送料設定ガイド、安く送る手段の棚卸しは荷物を安く送る方法まとめが下敷きになります。
契約書に何が書いてあるかを確認する
改正法では運送契約締結時の書面交付が論点になっています。いま自社が交わしている物流契約に、運賃改定の条件や燃料サーチャージの扱いが書かれているかを確認しておくと、次の改定時に慌てずに済みます。点検の観点はEC事業者の2026年度物流契約見直し完全チェックリストにリスト化しました。
今から打てる4つの手
- 出荷1件あたりのコストを分解する——資材・作業・配送に分けて数字を出します。分解できていないと、値上げが妥当かどうかを判断する基準を持てません。
- サイズ区分をまたいでいる商品を洗い出す——あと1cmで区分が下がる商品は、梱包材の変更だけで単価が動きます。効果が最も早く出る打ち手です。
- 配送会社を1社に依存していないか確認する——1社依存だと、改定時に選択肢がありません。使い分けの設計はEC事業者のマルチキャリア戦略と配送会社の使い分けにまとめています。
- 制度変更のカレンダーを社内で共有する——いつ何が効いてくるかを一覧にしておくと、価格改定の時期を先回りして決められます。EC事業者の2026年度 制度変更・コスト増カレンダーが下敷きになります。
委託先を見る目線も変わる
原価が制度として定義されると、委託先の選び方も変わります。これまでは提示された単価の安さが比較の中心でしたが、その単価が原価を割っていないかという視点が加わるためです。極端に安い見積もりは、値上げの前倒しや突然の取扱い停止という形で跳ね返る可能性があります。見積書を並べるときは、単価だけでなく改定条件・燃料サーチャージの扱い・最低利用料の有無まで含めて比較するのが安全です。倉庫や配送の体制を実際に確認したうえで判断したい場合、拠点の見学や作業フローの説明を受けられるかどうかも判断材料になります。
配送を単なるコストではなく顧客体験(CX)として設計する視点を持つと、削減と品質の折り合いをつけやすくなります。4つのうち、もっとも効果が大きいのは委託先の再設計です。自社出荷を続けるか外部に委託するかで、1件あたりの構造そのものが変わります。判断材料は発送代行の仕組みと費用に、STOCKCREWの具体的な条件はSTOCKCREWのサービス全体像にまとめました。
まとめ:値下げ交渉から原価の共有へ
第2回検討会で分かったのは、運賃の原価を決める議論に、荷主・利用者側の団体が4つ参加しているという構図です。運ぶ側の言い分だけで決まるわけではない一方、中小のEC事業者が個社で意見を届ける場でもありません。制度が固まる前提で、自社の数字を整えておくのが現実的な備えになります。資料と議事要旨は後日公開されるため、確定情報が出た段階での追記が必要な段階です。
やることは3つに絞れます。出荷1件あたりのコストを分解すること、サイズ区分をまたいでいる商品を潰すこと、配送会社の依存度を下げること。いずれも単価交渉ではなく構造を変える打ち手で、原価が制度化された後にこそ効いてきます。固定費0円・初期費用0円・全国一律260円〜・最短7日で始められる外部委託を比較対象に入れると、自社出荷の1件あたりコストが客観的に見えるようになります。全体像は発送代行の仕組みと費用、個別の試算はお問い合わせから、比較検討用の資料は資料ダウンロードで入手できます。
よくある質問(FAQ)
Q. 適正原価が決まると宅配便の運賃はいくらになりますか?
A. 現時点では分かりません。第2回検討会は2026年8月26日に開催されたばかりで、資料と議事要旨は後日公開とされています。国が運賃額そのものを決めるのではなく、事業を成り立たせるために必要なコスト水準を算定する議論である点にも注意が必要です。
Q. 検討会のヒアリングにはどんな団体が参加していますか?
A. 公表資料によれば、全日本トラック協会、全日本運輸産業労働組合連合会、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国農業協同組合中央会、出版文化産業振興財団の6団体です。運送側1、労働側1、荷主・利用者側4という構成になっています。
Q. 中小のEC事業者は意見を出せますか?
A. 個社として直接ヒアリングを受ける枠組みではありません。日本商工会議所や全国商工会連合会が中小企業の立場を代弁する形になります。所属する商工会議所を通じて現場の実情を伝えることが、間接的な経路になります。
Q. 運賃の値上げ交渉は今後どうなりますか?
A. 原価の水準が制度として示されると、値下げを求める交渉の余地は狭まると考えられます。単価そのものより、梱包サイズの見直しや同梱設計、委託先の再設計といった1件あたりの総コストを下げる打ち手に重心を移すのが現実的です。
Q. 荷主であるEC事業者に義務は生じますか?
A. 適正原価に関する具体的な義務はまだ確定していません。ただし改正物流効率化法では一定規模以上の荷主が特定事業者に指定され、中長期計画の作成が義務づけられています。制度が荷主側にも及ぶ流れは続いています。
この記事の監修者
重光翔太
株式会社KEYCREW 営業管掌取締役。ヤマト運輸にて本社営業部長を歴任し、物流業界で16年以上のキャリアを積む。法人営業・コスト最適化・業者比較選定を専門とし、累計1,500社以上のEC事業者への物流支援を手がけてきた。数百万件/日規模の出荷オペレーション管理や、6,000社が利用するフルフィルメントサービスの構築、温度帯コールドチェーンの大規模荷主向け事業設計など、業界でもトップクラスの実績を持つ。STOCKCREWでは営業戦略全体を統括し、「数字で語り、ROIで証明する」をモットーに、EC事業者の物流コスト最適化を推進している。