EC倉庫の棚卸の進め方と在庫差異の潰し方【2026年版】|一斉棚卸・循環棚卸の設計と当日フロー
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棚卸をやったものの、差異の一覧が出て終わり。翌月も同じところがずれる。これは棚卸の作業手順ではなく、「何のために数えるか」を決めないまま数えていることが原因です。決算のために数えるのか、出荷精度を上げるために数えるのかで、対象も頻度も、差異が出たあとの動き方も変わります。この記事では、目的の決め方から一斉棚卸と循環棚卸の使い分け、当日フロー、差異の原因切り分けまでを、実務でなぞれる順序に並べます。在庫管理そのものの全体像は発送代行完全ガイドと合わせて押さえておくと理解が早くなります。
棚卸の目的を先に1つ決める
棚卸には性格の異なる3つの目的があります。混ぜると、どれも中途半端になります。
3つの目的は要求が違う
| 目的 | 知りたいこと | 対象 | 頻度 |
|---|---|---|---|
| 決算・税務 | 期末時点の在庫金額 | 全SKU | 年1〜2回 |
| 出荷精度の維持 | 引当可能な数量が実在するか | 回転の速いSKU | 月次〜週次 |
| 原因追及 | どこで数が消えているか | 差異が出たロケーション | 随時 |
決算目的の棚卸は全数が必要ですが、出荷精度の維持が目的なら全数は要りません。回転の速い上位SKUだけを高頻度で数えるほうが、同じ工数で欠品を減らせます。目的を1つに絞ることが、棚卸の設計の出発点になります。
「精度を上げたい」だけでは設計できない
精度という言葉は具体的な行動に落ちません。「引当ミスによる出荷遅延を月◯件以下にする」「棚卸差異率を◯%以下にする」といった数値目標に置き換えると、必要な頻度と対象が自動的に決まります。差異率の計算式と目安は在庫差異率(棚卸差異率)の計算式と改善手順にまとめています。物流のKPI全般は物流KPIの設定方法と13指標の計算式ガイドが参考になる範囲です。
在庫金額が増えるほど棚卸の重みが増す
2024年の日本国内のBtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、26.1兆円(前年24.8兆円、前々年22.7兆円、前年比5.1%増)に拡大しています。また、2024年の日本国内のBtoB-EC(企業間電子商取引)市場規模は514.4兆円(前年465.2兆円、前々年420.2兆円、前年比10.6%増)に増加しました。
出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日・2024年時点)
市場が前年比5.1%で伸びている以上、多くの事業者で取扱SKU数と在庫金額は増える方向にあります。SKUが増えるほど棚卸の工数は増え、同時に差異1件あたりの金額インパクトも大きくなります。在庫を持つ量そのものを抑える視点は在庫回転率の計算式と業界別目安で扱っています。
一斉棚卸と循環棚卸の使い分け
方式は大きく2つです。どちらか一方ではなく、目的別に併用するのが実務の形です。
2方式の違い
| 項目 | 一斉棚卸 | 循環棚卸(サイクルカウント) |
|---|---|---|
| 対象 | 全ロケーション・全SKU | 一部のロケーション・SKUを順番に |
| 出荷の停止 | 必要(半日〜1日) | 不要(稼働中に実施) |
| 頻度 | 年1〜2回 | 毎日〜週次 |
| 向く目的 | 決算・税務 | 出荷精度の維持・原因追及 |
| 差異発見の速さ | 遅い(最大半年前の原因を追う) | 速い(数日前まで遡れる) |
| 必要な工数 | 一時的に大量 | 平準化される |
差異の原因追及という点では、循環棚卸のほうが圧倒的に有利です。一斉棚卸で半年ぶりに差異が見つかっても、その間の出荷履歴は膨大で、どこでずれたかを特定できません。循環棚卸なら前回カウントからの日数が短く、その期間の入出庫だけを見れば原因に辿り着けます。効率化の手法は棚卸しを効率化する5つの実務手法とツール活用で扱っています。
循環棚卸の対象はABC分析で決める
全SKUを均等な頻度で回すのは非効率です。出荷金額または出荷件数の上位20%を週次、中位を月次、下位を四半期ごとに回すという組み方が一般的です。回転の速いSKUほど入出庫の回数が多く、差異も出やすくなります。ロケーション管理の考え方は物流倉庫の保管・ロケーション管理 実務ガイドに整理しました。
賞味期限・ロット管理がある場合は数量だけでは足りない
食品・化粧品・サプリメントのように期限管理が必要な商材では、数量が合っていてもロットや期限が帳簿とずれていれば、先入先出が崩れます。棚卸のカウント項目に期限とロット番号を含めてください。ロット運用はロット管理と発注最適化の実務で扱っています。
準備と当日フロー:3日前から締めまで
棚卸の精度は、当日の数え方より前日までの段取りで決まります。
3日前:対象と基準時点を確定する
- 棚卸の基準時点を決める——「◯月◯日18時時点の在庫」と時刻まで決めます。ここが曖昧だと、当日の入出庫をどちらに含めるかで揉めます。
- 対象ロケーションを一覧化する——保管棚だけでなく、入荷待機エリア、出荷待ちエリア、返品保留エリア、不良品置き場をすべて含めます。
- カウント担当と区画を割り当てる——1区画を2人でダブルカウントするか、1人でカウントして抜き取り検証するかを決めます。
抜けやすいのは「棚以外の場所」です。出荷待ちのカゴ車、検品台の上、返送されて処理待ちの箱。ここに在庫があるのに数えないと、そのぶんがまるごと差異になります。返送品の扱いはEC返品物流(リバースロジスティクス)ガイド【2026年版】で整理しました。
前日:帳簿を締めて、動きを止める
前日にやることは3つです。①基準時点で在庫データのスナップショットを取る、②当日の入荷を止める(または別エリアに隔離する)、③仕掛かり中の出荷指示を完了させる。動いているものがある状態で数えると、数え漏れと二重計上の両方が起きます。入荷の受け入れ手順は入庫とは?入荷との違いとEC物流の実装方法に整理しています。
カウント用紙は「帳簿の数字を載せない」
カウント表に理論在庫を印字すると、数えずにその数字を書き写す人が必ず出ます。ブラインドカウント(帳簿数を見せずに数える)を原則にすると、差異の検出力が上がります。ハンディターミナルを使う場合も、画面に理論在庫を表示しない設定にしてください。WMSの機能差は物流WMS(倉庫管理システム)とは【2026年版】で扱っています。
当日は3工程を混ぜずに流す
当日はカウント・突合・締めの3工程を順に流します。工程を混ぜると、どこまで終わったかが分からなくなります。
工程1:カウント(ロケーション単位で完結させる)
SKU単位ではなくロケーション単位で数えます。「棚A-01を数え終わった」と言える単位で区切ると、途中で中断しても再開できます。同じSKUが複数ロケーションに散っている場合は、ロケーションごとに数えて後から合算します。
工程2:突合(差異のあるロケーションだけ再カウント)
カウント結果を理論在庫と突き合わせ、差異が出たロケーションだけを別の担当者が再カウントします。1回目の担当者に数え直させると、同じ見落としを繰り返す傾向があります。再カウントで一致すれば1回目の数え間違い、一致しなければ実在庫の差異として次工程に送ります。
工程3:締め(差異を確定して在庫を書き換える)
再カウントでも差異が残ったものを確定差異とし、在庫データを実在数に修正します。このとき「なぜ差異が出たか」の欄を空欄のまま締めないことが重要です。原因不明なら「原因不明」と明記して件数を数えます。原因不明の比率が下がっていくことが、棚卸運用が機能している証拠になります。
工数はどれくらいかかるか
パートタイム労働者 ・時間当たり給与(所定内給与) 1,460 円(5.7%増)※61 ヵ月連続プラス
パートタイム労働者の時間当たり給与は1,460円です。仮に5人×8時間で一斉棚卸を行うと40時間、人件費だけで約58,400円かかります。年2回なら年間で約12万円です。この金額を出したうえで、循環棚卸に切り替えたほうが安いか、外部に委託したほうが安いかを比べるのが実務的な判断になります。人件費の水準はパート時間給1,460円と最低賃金の差でも扱いました。
在庫差異の原因を4つに切り分ける
差異の一覧を眺めても対策は出ません。原因を4分類に振り分けてから初めて、打ち手が決まります。
4分類とその見分け方
| 原因 | 典型的な症状 | 見分け方 |
|---|---|---|
| ①入荷時点のずれ | 初回から数が合わない | 入荷検品の記録と発注書を突合する |
| ②出荷時のミス | 実在庫が理論より少ない | 出荷検品の記録・顧客からの過不足連絡を確認 |
| ③ロケーション違い | あるロケーションで不足、別で余剰 | 同一SKUの差異を全ロケーションで合算すると0になる |
| ④システム反映のずれ | 特定の日時に集中する | 差異の発生タイミングと連携バッチの時刻を照合 |
③は差異のように見えて実在庫は合っているため、対策の緊急度が違います。同一SKUの差異を全ロケーションで足して0になるなら、消えているのではなく置き場所の記録がずれているだけです。まずこの切り分けをしてから、①②④に絞って原因を追ってください。
①入荷時点のずれ
発注数と実入荷数の差が、入荷検品で捕捉されないまま在庫計上されているケースです。員数検品を省略している商材ほど発生します。仕入先の梱包単位が変わったときにも起こります。検品の設計は検品とは?EC物流の入荷検品・出荷検品を徹底解説で扱っています。
②出荷時のミス
ピッキングで1点多く取った、同梱物と商品を取り違えた、といった作業起因の差異です。誤出荷の顧客連絡と在庫差異は同じ原因から出ているため、両方の記録を突き合わせると特定が早くなります。ピッキング方式の違いはピッキングとは?物流倉庫の手法比較と効率化戦略にまとめました。
④システム反映のずれ
モールやカートと在庫を同期している場合、連携の失敗やタイムラグで理論在庫だけが動くことがあります。差異の発生時刻がバッチ処理の時刻に集中していれば、これを疑ってください。複数モールを併用しているほど発生確率が上がります。在庫連携の設計は複数ECモール同時出店の物流一元管理と在庫配分設計、OMS側の役割はEC受注管理(OMS)と物流の連携ガイドで扱っています。
差異を潰す打ち手と再発防止
原因が分かれば、打ち手は限られます。分類ごとに対応を固定してしまうのが早道です。
原因別の標準対応
- ①入荷時点のずれ → 員数検品を対象SKUに追加する——全SKUではなく、差異が出たSKUだけに絞ります。
- ②出荷時のミス → ダブルチェックまたはスキャン検品を入れる——類似パッケージのSKUを離れたロケーションに置くだけでも減ります。
- ③ロケーション違い → ロケーション移動の記録を必須にする——移動を記録せずに棚を移す運用を禁止します。
- ④システム反映のずれ → 連携エラーの通知を設定する——失敗が静かに握り潰されていないかを先に確認します。
「全部やる」を避ける
4つすべてに一度に手を付けると、どれが効いたか分かりません。件数の多い原因から1つずつ潰し、次の棚卸で効果を確認するという順序にしてください。1周期ごとに1つずつ改善すれば、循環棚卸なら数か月で差異率は目に見えて下がります。
差異率が下がらないときは在庫の持ち方を疑う
作業改善をしても差異が減らない場合、SKU数が現場の管理能力を超えている可能性があります。似た仕様の商品を細かく分けすぎていないか、動いていないSKUが棚を占有していないかを確認してください。SKU設計はSKUとは?EC在庫管理での意味・設定・活用法、滞留の解消は滞留在庫の原因と解消方法で扱っています。倉庫が物理的に溢れている場合の対処は倉庫オーバーフローとは?発生原因・対策・予防策にまとめました。
人が入れ替わっても回る形にする
改定額の全国加重平均額は1,177円(昨年度1,121円)
令和8年度の最低賃金は全国加重平均1,177円で、前年度から56円の引上げです。人件費が上がり続ける環境では、経験者に依存した棚卸運用は続きません。手順書とカウント表の様式を固定し、初日の人でも同じ結果が出る形にすることが、結果的に差異を減らします。物流人材の体系的な知識はJILS「物流技術管理士資格認定講座」のような外部講座でも整理されています。人手不足の見通しは倉庫・物流の人手不足で扱いました。
発送代行に委託している場合の棚卸
倉庫を委託していても、棚卸がなくなるわけではありません。役割分担が変わるだけです。
誰が数え、誰が責任を持つかを契約で決める
委託先が数えるのか、事業者が立ち会うのか。差異が出たときに誰が負担するのか。これらは料金表には書かれていないことが多く、契約書か覚書で定めておく項目です。契約時の確認項目は発送代行の契約書に含むべき14項目チェックリストに整理しました。賠償の範囲は発送代行の賠償・保険・リスク管理ガイドで扱っています。
棚卸は有料オプションであることが多い
棚卸は通常の入出荷作業に含まれない付帯作業のため、多くの発送代行では別料金になります。STOCKCREWでも、棚卸は「在庫関連」のオプション作業として料金体系に含まれています。見積もりの段階で、年に何回・どの範囲を実施する前提かを揃えておかないと、後から想定外の費用が出ます。オプション料金の全体像は料金ページで公開しています。費用の内訳の読み方は発送代行の費用の内訳と相場、見積書の比較は発送代行の見積書を項目別に読み解く7つのチェックポイントにまとめています。
委託先に確認する4項目
- 棚卸の実施方式——一斉か循環か、循環ならどの頻度で全SKUを1周するか。
- 差異が出たときの連絡フロー——いつ、どの粒度で報告されるか。
- 在庫データの修正権限——委託先が直すのか、事業者の承認を待つのか。
- 棚卸中の出荷可否——一斉棚卸の日に出荷が止まるなら、モール側の発送遅延をどう告知するか。
とくに4番目は見落とされがちです。棚卸で出荷が1日止まると、あす楽や最強配送の表示条件に影響する可能性があります。実施日は繁忙期を外して設定してください。出荷が集中する時期の設計はEC通販の年間出荷波動管理ガイドが参考になる範囲です。委託先の選び方全般は発送代行の選び方と比較の5つの判断軸にまとめました。
まとめ:数える前に、何を知りたいかを決める
棚卸の設計は、目的を1つに絞るところから始まります。決算目的なら全数の一斉棚卸、出荷精度が目的なら回転上位を回す循環棚卸で、対象も頻度も変わります。当日はカウント・突合・締めの3工程を混ぜずに流し、差異が出たロケーションだけを別の担当者が再カウントする形にすると、数え間違いと実差異を分離できます。
差異は①入荷時点のずれ、②出荷時のミス、③ロケーション違い、④システム反映のずれの4つに切り分けてから打ち手を決めます。③は実在庫が合っているため緊急度が違い、まずここを外すだけで追うべき対象が絞れます。原因の多い順に1つずつ潰し、次の周期で効果を確認する進め方が最短です。物流全体の工程設計はEC物流完全ガイド【2026年版】、外注の判断は発送代行完全ガイドにまとめています。
棚卸を含めた倉庫運用を外部に委ねる場合の費用感は、サービス資料で確認できます。自社の在庫規模とSKU数に合わせた運用の相談はお問い合わせページから受け付けています。サービスの詳細はSTOCKCREW完全ガイドで確認できます。
よくある質問(FAQ)
Q. EC倉庫の棚卸はどのくらいの頻度で行うべきですか?
A. 目的によって変わります。決算・税務のための全数棚卸は年1〜2回で足りますが、出荷精度の維持が目的なら循環棚卸で回転上位のSKUを週次、中位を月次、下位を四半期ごとに回す組み方が実務的です。全SKUを均等な頻度で数えるのは非効率になります。
Q. 一斉棚卸と循環棚卸はどちらを選ぶべきですか?
A. 排他的な選択ではなく、目的別に併用します。一斉棚卸は全数を押さえられる代わりに出荷を半日〜1日止める必要があり、差異が見つかっても原因を遡れません。循環棚卸は稼働中に実施でき、前回カウントからの期間が短いため原因追及に向きます。
Q. 在庫差異の原因はどう特定すればよいですか?
A. 入荷時点のずれ、出荷時のミス、ロケーション違い、システム反映のずれの4つに切り分けます。まず同一SKUの差異を全ロケーションで合算し、0になるならロケーション違いなので実在庫は合っています。これを外してから、残りの3つを記録と突き合わせて絞り込みます。
Q. カウント表に理論在庫を印字してもよいですか?
A. 印字しないブラインドカウントを推奨します。理論在庫が見えていると、数えずに同じ数字を書き写す運用が発生し、差異の検出力が落ちます。ハンディターミナルを使う場合も、画面に理論在庫を表示しない設定にしてください。
Q. 棚卸にはどれくらいのコストがかかりますか?
A. 人件費が主です。厚生労働省の毎月勤労統計調査によるとパートタイム労働者の時間当たり給与は1,460円で、5人×8時間の一斉棚卸なら人件費だけで約58,400円になります。年2回で約12万円です。この額を出したうえで、循環棚卸への切り替えや外部委託と比較してください。
Q. 発送代行に委託していれば棚卸は不要ですか?
A. なくなるわけではなく、役割分担が変わります。実施方式、差異が出たときの連絡フロー、在庫データの修正権限、棚卸中に出荷が止まるかの4点を契約前に確認してください。棚卸は通常の入出荷作業に含まれない付帯作業のため、多くの発送代行で別料金となります。
この記事の監修者
北原一樹
株式会社KEYCREW オペレーション部長。大手物流会社にて現場担当からセンター長を経て、営業・管理職を12年間歴任。物流業界での経験は24年に及ぶ。大規模顧客の初のEC・DCが併設された10,000坪規模の大型倉庫の立ち上げを主導した実績を持ち、月間100Mの赤字を抱えていた物流センターをわずか3か月で黒字化に転換させた。現在はSTOCKCREWにおいて部門管理・各拠点の収支管理・業務改善を統括。「現地・現物」「数字で現場を見る」「何事にも基準を作る」を信条に、年間5千万点の入出荷を支える高品質な物流オペレーションを実現している。