EC事業者が押さえるべき法律を工程別に整理【2026年版】|特商法・景表法・消費者契約法・個人情報保護法・取適法
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ネットショップの運営には、表示、契約、個人情報、外注と、いくつもの法律が同時に関わります。ところが条文を1本ずつ読んでも、「自社のどの作業が、どの法律に触れているのか」はなかなか見えてきません。2026年は、特定商取引法と消費者契約法の見直しがそろって中間取りまとめに進み、改正個人情報保護法の政令・規則の全体像も決まり、1月には取適法が施行されました。EC事業者にとって法律まわりの動きが特に多い年です。この記事では、EC事業者に関わる法律を仕入れから出荷委託までの6つの工程に並べ直し、それぞれで何を点検すればよいかを整理します。物流を外部に任せる場合の全体像は発送代行の仕組みと選び方を土台にしてください。
EC事業者の法律は「工程」で分けると迷わない
条文ではなく「作業」から逆引きする
法律の解説記事は、たいてい法律名ごとに章が分かれています。しかし現場で困るのは「特商法とは何か」ではなく、「この商品ページの書き方で問題ないか」「この外注の支払い方で大丈夫か」という作業単位の疑問です。そこで本記事では、ネットショップの業務を6つの工程に分け、工程ごとに関わる法律を並べました。自社で担当している工程の列だけを見れば、点検範囲が絞れます。
工程の分け方は、フルフィルメントの5工程や物流の6大機能とも重なります。これからショップを立ち上げる段階なら、ネットショップの始め方とEC事業の初期費用と運用コストで全体の流れを押さえておくと、どの工程から法律の確認を始めればよいかが見えてきます。
6工程と主な法律の対応表
| 工程 | 主な法律・制度 | 典型的な点検ポイント | 2026年の動き |
|---|---|---|---|
| 仕入れ・輸入 | 関税法(知的財産侵害物品)、製品安全誓約 | 仕入先の真正品確認、安全基準の適合 | 輸入差止が上半期として過去最高 |
| 商品ページ | 特定商取引法、景品表示法、健康増進法 | 表示義務事項、返品特約、効能表現 | 特商法の中間取りまとめ |
| 広告・集客 | 景品表示法(ステマ告示含む) | 口コミ転載、比較広告、環境表示 | 環境ラベルの実態調査を公表 |
| 契約・解約 | 消費者契約法、特定商取引法 | 不当条項、解約手続、自動更新 | 消費者契約法の中間取りまとめ |
| 顧客データ | 個人情報保護法 | 委託先の監督、漏えい時の報告 | 政令・規則の全体像を決定 |
| 出荷・委託 | 取適法、フリーランス法、物流効率化法 | 支払条件、書面の交付、荷主の義務 | 取適法が1月に施行 |
「自社でやっていない工程」も委託先経由で関わる
注意したいのは、外部に任せている工程でも法律上の責任が消えるわけではない点です。たとえば出荷を委託すれば、購入者の氏名・住所・電話番号を委託先に渡すことになり、個人情報保護法上の委託先の監督が求められます。梱包や撮影を個人や中小企業に外注していれば、支払い方次第で取適法やフリーランス法の対象になります。3PLによる物流の外注や業務委託の進め方を検討する際は、委託によって新たに生じる法的な義務もセットで洗い出しておくと安心です。
商品ページ:特定商取引法の表示義務と返品特約
通信販売に求められる表示
ネットショップは特定商取引法上の「通信販売」にあたり、広告に一定の事項を表示する義務があります。販売価格、送料などの付帯費用、代金の支払時期と方法、商品の引渡時期、返品に関する事項、事業者の氏名・住所・電話番号などが代表的な項目です。いわゆる「特定商取引法に基づく表記」のページがこれにあたります。表示ページの作り方はネットショップの法的ドキュメント整備で、利用規約・プライバシーポリシーとあわせて整理しています。
| 表示の区分 | 主な項目 | 実務で起きやすいズレ |
|---|---|---|
| 価格・費用 | 販売価格、送料、手数料 | 送料無料の条件と実際の請求が一致しない |
| 支払い・引渡し | 支払時期・方法、引渡時期 | 発送目安と実際の出荷日がずれる |
| 返品 | 返品の可否・条件・送料負担 | 商品ページ・確認画面・メールで表現が違う |
| 事業者情報 | 氏名(名称)・住所・電話番号 | 個人事業主が省略要件を満たさないまま非表示 |
価格表示では、ネットショップの総額表示義務もあわせて守る必要があります。送料の見せ方については、国が見直しを呼びかけている「送料無料」表示の考え方も参考になる論点です。個人で運営していて自宅住所を出したくない場合は、住所を非公開にする方法やBASEで自宅住所を公開せずに販売する方法で、省略が認められる条件を押さえてください。
返品特約を書かないと「8日以内の返品」が可能になる
通信販売にはクーリング・オフ制度がありません。その代わりに設けられているのが、返品特約を表示していない場合の返品ルールです。消費者庁の特定商取引法ガイドは、次のように説明しています。
通信販売では、商品の引渡しを受けた日から数えて8日以内であれば、消費者は事業者に対して、契約申込みの撤回や解除ができ、消費者の送料負担で返品ができます。もっとも、事業者が広告であらかじめ返品特約を表示していた場合は、特約によります
つまり返品特約の表示がなければ、受け取りから8日以内の返品を受け付ける前提になります。「返品不可」とする場合も、「未開封に限り7日以内」とする場合も、その条件を広告に表示しておかなければ効力を持ちません。具体的な書き方と例文はEC返品ポリシーの書き方にまとめています。
返品を受けた後の物流も設計に含める
返品特約を決めると、次は戻ってきた商品をどう検品し、再販・廃棄に振り分けるかという物流側の設計が必要になります。EC返品物流の設計や静脈物流の考え方、返品の発生を数字で追うEC返品率の計算方法と組み合わせると、特約の条件が現場で回るかどうかを判断できます。なお発送代行に出荷を任せていても、購入者からの返品受付は事業者側に残る設計が一般的です。STOCKCREWも消費者都合の返品処理は受託しておらず、対応しているのは不在持ち戻りや受取拒否といった物流起因の返送品です。
広告・集客:景品表示法とステマ規制
優良誤認と有利誤認の2つが中心
景品表示法は、商品の品質や価格について、実際よりも著しく優れている、あるいは有利であると消費者に誤認させる表示を禁じています。前者が優良誤認表示、後者が有利誤認表示です。「業界最安」「No.1」といった比較表現や、通常価格を実態のない高値にして割引率を大きく見せる二重価格が典型例になります。消費者庁が公表した景品表示法の運用状況を見ると、どの類型で措置命令や指導が出ているかの傾向がつかめます。
口コミの転載もステマ規制の対象になる
広告であることを隠した表示(いわゆるステルスマーケティング)も、現在は景品表示法の不当表示に指定されています。無償で提供した商品について第三者が投稿したSNSの感想を、商品ページにそのまま転載するケースも対象になりえます。モールの商品ページで実際に措置命令が出た事例はECモール商品ページのステマ規制で取り上げました。SNS経由の購買行動についてはSNS消費者行動調査が、集客設計全体についてはECサイトの売上アップ戦略が土台になります。
環境配慮の表示にも優良誤認のリスクがある
「エコ」「環境にやさしい」といった表示やマークも、根拠が伴わなければ優良誤認にあたる可能性があります。消費者庁が2026年8月20日に公表した環境ラベルの実態調査は、この点を明確にしました。調査の詳しい中身は環境ラベルの景表法上の考え方で整理しています。梱包資材を切り替えて「環境配慮」をうたう場合は、EC梱包のサステナブル対応で、表示できる根拠を先にそろえておくと安全です。梱包と在庫処分の実態については循環利用率の点検結果も材料になります。
契約・解約:消費者契約法と利用規約
消費者契約法は「勧誘」と「条項」の2本柱
消費者契約法は、事業者と消費者の間の契約全般に適用される法律です。誤認や困惑を招く勧誘で結ばれた契約を消費者が取り消せる仕組みと、消費者の利益を一方的に害する契約条項を無効にする仕組みの2つが柱になっています。ネットショップでいえば、利用規約に「いかなる場合も返金しない」「当社は一切責任を負わない」と書いても、その条項が無効と判断される可能性があるということです。
2026年9月10日には、消費者庁の検討会が見直しの中間取りまとめを確定しました。そこでは現行法の限界が次のように指摘されています。
現行の消費者契約法は、契約の締結過程(不当勧誘を理由とする取消権(第4条))と契約条項の内容(不当条項の無効(第8条から第 10 条まで))を中心とした枠組みであって、これらの課題に対処できる適切な規律がない。
出典:消費者庁「現代社会における消費者取引の在り方を踏まえた消費者契約法検討会 中間取りまとめ」(2026年9月10日)
ここでいう「課題」には、解約の妨げになる手続や、契約後に一方的に約款を変更する運用が含まれます。解約妨害の禁止、自動更新の事前通知、約款変更の個別通知という方向性の詳細は、消費者契約法の中間取りまとめ確定と、その前段の中間取りまとめ案の段階で追っています。
定期購入・サブスクは特商法の規律も重なる
定期購入の販売では、消費者契約法に加えて特定商取引法の規律が重なります。過去の改正で、最終確認画面での表示義務や、誤認させる表示への取消権が整備されています。さらに2026年9月の特商法の中間取りまとめでは、広告のダークパターンや解約手続にも新しい規律を入れる方向が示されています。経緯は改正特商法・定期購入規制の運用実態、特商法の見直し議論、特商法の中間取りまとめ案の順に読むとつながります。
定期便を運営している場合は、解約のしやすさと出荷の止めやすさが連動します。定期購入ECの物流設計、サブスクEC物流の自動化、Shopifyで定期購入を始める方法を見ながら、解約受付から次回出荷停止までの時間を短くできるかを確かめておきましょう。
「返品特約」を盾にした説明も規制の対象へ
特商法の中間取りまとめでは、返品特約に関する新しい論点も示されました。
返品特約のみを理由として法令又は契約上の権利が存在しない旨を告げる行為を、新たに行政処分の対象として規制することが適当である。
たとえば不良品の申し出に対して「返品不可と書いてあるので対応できません」と答えるような運用が想定されています。返品特約はあくまで消費者都合の返品に関するルールであり、不良品や誤配送への対応義務まで免除するものではないという整理です。問い合わせ対応の定型文に、この区別が反映されているかを見直しておく必要があります。
顧客データ:個人情報保護法と委託先の監督
ネットショップは規模にかかわらず対象
個人情報保護法の義務は、取り扱う件数にかかわらず、個人情報データベース等を事業に使うすべての事業者にかかります。購入者の氏名・住所・電話番号・メールアドレスを管理しているネットショップは、個人事業主であっても対象です。利用目的の特定と公表、安全管理措置、第三者提供の制限、本人からの開示請求への対応が基本の義務になります。
2026年8月26日に政令・規則の全体像が決定
個人情報保護法は3年ごとに見直される仕組みで、現在は改正法の施行に向けた準備が進んでいます。個人情報保護委員会の公表ページによれば、第366回委員会(令和8年8月26日)で政令・規則等で定める事項の全体像が決定されました。個人情報保護委員会「令和8年 改正個人情報保護法について」から原文を確認できます。論点は、委託先の規律の見直し、漏えい等報告の緩和、16歳未満の個人情報、顔特徴データの4つです。EC事業者の出荷データとの関係は改正個人情報保護法の政令・規則の全体像で、課徴金制度やCookie規制など改正案段階の論点は改正個人情報保護法2026で整理しました。
出荷を委託すると「委託先の監督」が発生する
発送代行や倉庫に出荷を任せると、送り状を作るために購入者の個人データを委託先へ渡します。これは本人の同意が要らない「委託」にあたる一方で、委託元には委託先を監督する義務が残ります。委託先の安全管理体制を契約前に確認し、契約書に取扱いのルールを入れておくことが実務上の最低ラインです。契約書に入れる項目は発送代行の契約書チェックリストや3PL契約の実務に一覧があります。倉庫システムが攻撃を受けた場合の影響は倉庫システム停止と出荷のBCPで、中小企業向けのセキュリティ支援はサイバーセキュリティお助け隊の新類型で扱っています。
DM用の名簿を外部から購入する場合は、提供元がオプトアウトの届出を適切に行っているかも確認が必要です。オプトアウト届出事業者の実態調査では、提供先の確認が不十分な事業者の存在が明らかになりました。なりすましサイトへの対策は偽通販サイトへの注意喚起、不正注文への対策は不正取引情報の共有とクレジットカードの25日ルールにまとめています。
取扱商品:製品安全・食品・健康食品の表示規制
製品安全誓約でモールからの出品削除が早まっている
リコール製品や安全基準を満たさない製品については、消費者庁と主要なオンラインマーケットプレイス運営事業者が「製品安全誓約」を結んでいます。規制当局からの要請を受けたモールが出品を削除する仕組みで、法律とは別の官民協働の自主的な取組です。削除までの速さや対象製品の追加については製品安全誓約のKPI速報と保護具9品目の追加で取り上げました。電池を含む商品は、リチウムイオン電池を含む商品の発送ルール、火災防止強化期間、モバイルバッテリーの消費者意識調査もあわせて確認しておきたいテーマです。玩具を扱う場合はおもちゃECの発送代行の選び方も参考になります。
健康食品は「効能表現」が監視されている
健康食品やサプリメントは、景品表示法に加えて健康増進法の虚偽・誇大表示の禁止がかかります。消費者庁のインターネット監視では、2026年4月〜6月の期間に117事業者・126商品に改善指導が行われました。指導の中身は健康食品のネット監視結果で、商材別の物流は健康食品・サプリメントECの発送代行選びとサプリメントECのBtoB・定期便出荷で扱っています。
食品・化粧品は表示と事故情報の両方を見る
食品を扱う場合は、アレルゲンや期限表示など食品表示法の義務が中心になります。食品表示の夏季一斉取り締まりでは重点項目が示されました。温度帯を含めた物流面は食品ECの発送代行で整理しています。化粧品については、国民生活センターが集計した2025年度の危害・危険情報15,899件のうち、商品別で化粧品が最多でした。詳細は危害・危険情報の集計結果、物流面は化粧品ECの発送代行にまとめています。
仕入れ・輸入:知的財産侵害と税関の差止
模倣品は税関で止まり、在庫計画が崩れる
海外から仕入れた商品が偽ブランド品などの知的財産侵害物品と判断されると、税関で輸入が差し止められます。財務省が2026年9月4日に公表した令和8年上半期の状況は、件数・点数ともに上半期として過去最高でした。
輸入差止点数は1,386,640点に達し、前年同期から225.7%増えています(財務省「令和8年上半期の税関における知的財産侵害物品の差止状況」)。事業者が知らずに仕入れた場合でも、差し止められた商品は販売できません。仕出国の内訳や品目は税関の輸入差止の状況で整理しています。
並行輸入・転売は「どこから違法か」の線引きを先に
正規品であっても、並行輸入や転売には商標権や古物営業法の論点があります。並行輸入の商標リスクと転売・せどりが違法になる5つのラインで判断軸を押さえてから仕入れ先を選ぶのが安全です。海外仕入れの実務は中国輸入ビジネスの実務や中国輸入代行の比較、関税の計算は関税の仕組みと計算方法、制度変更は個人輸入の免税特例の廃止で追えます。
外注・委託:取適法とフリーランス法
取適法は2026年1月1日に施行
下請法を改正した中小受託取引適正化法(取適法)が、2026年1月1日に施行されました。名称と用語が変わっただけでなく、発荷主と運送事業者の取引が新たに対象に加わったこと、支払条件のルールが厳しくなったことがEC事業者に関わる変更点です。公正取引委員会の特設サイトは、改正内容のひとつを次のように示しています。
振込手数料についても中小受託事業者に負担させることを禁止
以前は合意があれば振込手数料を差し引く運用が見られましたが、施行後は合意があっても差引きが違反になります。施行日は公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」にも明記されています。物流委託への影響は取適法で物流委託が変わるで、支払サイトの見直しは約束手形の最終振出期限で扱っています。
「名目を変えた一律控除」も減額にあたる
2026年は、支払額からの控除をめぐる勧告が続きました。家電の運送・設置の委託で振込手数料の実費を超える計481,031円を差し引いた事案、委託先への代金から「システム利用料」の名目で一律1.1%を控除した事案です。どちらも報酬の減額と判断されました。前者は振込手数料の差引きが報酬の減額とされた勧告、後者はシステム利用料名目の一律控除への勧告で詳しく取り上げています。
個人への外注はフリーランス法で「条件の明示」が必須
撮影、デザイン、商品登録、梱包などを個人事業主に発注する場合は、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)がかかります。発注時に業務内容・報酬額・支払期日などを書面や電磁的方法で明示する義務があり、2026年9月には配達委託先167名への明示を怠ったとして日本郵便が勧告を受けました。事案は日本郵便へのフリーランス法の勧告にまとめています。発注条件の書面化は、物流の初めての外注化や外注で失われる情報で触れている「委託範囲の言語化」と同じ作業でもあります。
物流・荷主:物流効率化法と運送取引のルール
一定規模以上の荷主には中長期計画の提出義務
2026年4月から全面施行された改正物流効率化法では、一定規模以上の荷主と物流事業者が「特定事業者」に指定されます。国土交通省の案内ページでは、特定事業者に中長期計画の作成を義務付ける制度として整理されています(国土交通省「物流効率化法について(荷主・物流事業者の皆様へ)」)。特定事業者に指定された場合、10月末日までに中長期計画を作成して提出する必要があります。対象になるかどうかと届出の実務は改正物流効率化法の届出実務、特定荷主の中長期計画の期限、改正物流効率化法の全面施行で確認できます。
運賃・荷待ちをめぐる荷主側のルール
運送事業者との取引では、改正貨物自動車運送事業法による書面交付の義務化や、公正取引委員会による荷主の取引の監視も強まっています。改正貨物自動車運送事業法の概要、EC荷主が整えるべき3点、荷主105社への立入調査、物流特殊指定の改正、大規模小売と納入業者の取引調査が一連の流れです。運賃水準の議論は標準的運賃の実態調査と適正原価の検討会、背景となる輸送力不足は物流2026年問題と物流2024年問題から2年で押さえられます。
倉庫の人件費に関わる労働法の動き
自社で出荷作業を行っている場合は、労働基準法や最低賃金法の動きも出荷コストに直結します。最低賃金1,177円への改定と支援策、最低賃金改定と倉庫人件費、長時間労働の監督指導結果、36協定の相談支援と指導の見直しが関連します。出荷を外部に任せれば、こうした労務管理の多くは委託先の責任範囲に移ります。
2026年に動いている論点のスケジュール
施行・決定済みのものと、これから決まるもの
2026年の動きは、すでに施行・決定されたものと、意見募集や審議が続いているものに分かれます。前者は今日から守るべきルール、後者は来年以降の改正に備えて社内の運用を見直しておく論点です。この区別をつけておくと、どこから手を付けるべきかの優先順位が決めやすくなります。
| 時期 | 内容 | 状態 | EC事業者の対応 |
|---|---|---|---|
| 2026年1月1日 | 取適法の施行 | 施行済み | 外注先への支払条件・振込手数料の扱いを点検 |
| 2026年4月 | 改正物流効率化法の全面施行 | 施行済み | 特定事業者に該当するかを確認 |
| 2026年8月26日 | 改正個人情報保護法の政令・規則等の全体像を決定 | 決定済み | 委託先管理と漏えい時の手順を見直し |
| 2026年9月10日 | 特商法・消費者契約法の中間取りまとめ | 審議中 | 返品特約の運用、解約手続、約款変更の通知を点検 |
| 2026年9月16日〜10月31日 | 2つの中間取りまとめの意見募集 | 募集中 | 必要に応じて意見を提出 |
| 2026年10月末日 | 特定事業者の中長期計画の提出期限 | 期限 | 該当する場合は計画を作成・提出 |
税・コスト面の制度変更は別枠で管理する
法令対応とは別に、税制や料金改定などコストに効く制度変更も並行して進んでいます。インボイス制度の経過措置の縮小や、飲食料品の消費税率引き下げ方針などがその代表です。インボイス経過措置の縮小、インボイス制度2年目の請求書実務、食料品の消費税1%引き下げ方針、時系列の一覧は2026年度の制度変更・コスト増カレンダーにまとめています。個人事業の税務はネットショップ副業の税金と法人化判断が入口になります。
見落としが起きやすい2つの場面(ケーススタディ)
ここでは、法律の知識があっても実務で抜けやすい場面を、想定ケースとして2つ取り上げます。いずれも特定の企業の事例ではなく、公表資料で示された論点をネットショップの運営に当てはめたものです。
ケース1:返品特約はあるのに、問い合わせ対応で「返品不可」と答えてしまう
アパレルを扱うあるショップが、商品ページに「お客様都合の返品は不可」と表示していたとします。ある日、縫製不良の申し出に対して、担当者が定型文どおり「返品不可と記載しております」と返信しました。表示された返品特約は消費者都合の返品に関するもので、不良品への対応義務まで免除するものではありません。2026年9月の特商法の中間取りまとめでは、返品特約のみを理由に権利がないと告げる行為を行政処分の対象にする方向が示されています。
- 定型文を2種類に分ける——消費者都合の返品と、不良・誤配送の申し出で文面を分けておく。
- 表示を1か所に集約する——商品ページ・確認画面・注文確認メールで返品条件の表現をそろえる。
- 検品記録を残す——出荷前の検品結果を記録しておくと、不良の申し出に事実ベースで答えられる。アパレルの検針や誤出荷率を下げる方法もこの観点で役に立つ。
配送中の破損が原因の場合は、配送会社の補償との関係も整理が必要です。配送事故の補償の比較、梱包不良による破損クレームの削減、物流クレームの対処法をあわせて見ておくと、問い合わせ対応の判断が早くなります。
ケース2:梱包を手伝ってくれる個人への支払いで、振込手数料を差し引いていた
繁忙期の梱包作業を、近隣の個人事業主に出来高払いで依頼しているショップを想定します。報酬の振込時に、以前からの慣行で振込手数料を差し引いていました。発注条件は口頭で伝えただけで、書面は交わしていません。この場合、振込手数料の差引きと条件の明示漏れという2つの論点が生じます。取適法の特設サイトは振込手数料を中小受託事業者に負担させることを禁止しており、フリーランス法は発注時の条件明示を義務付けています。
- 支払明細を点検する——手数料や「事務手数料」などの名目で一律に控除していないかを洗い出す。
- 発注書を用意する——業務内容・報酬額・支払期日を記載した書面またはメールを発注のたびに送る。
- 委託の形そのものを見直す——繁忙期だけ人手を集める運用が負担なら、出荷業務ごと委託する選択肢もある。EC事業者のための3PL解説や発送代行を4軸で評価する方法が判断材料になる。
自社の法令対応を点検する手順
ステップ1:工程ごとに担当者を決める
法令対応が抜ける一番の原因は、「誰の担当か」が決まっていないことです。商品ページは制作担当、問い合わせ対応はカスタマーサポート、外注の支払いは経理、出荷委託は物流担当というように、図1の6工程それぞれに担当者を1人ずつ割り当てるところから始めます。小規模なショップで1人が兼務している場合も、工程ごとに点検の時期を分けておくと抜けが減ります。
ステップ2:年2回のチェックリスト点検
法律の改正は年に何度も起きるわけではありません。半年に1回、次の表で自社の状態を点検すれば、大きな抜けは防げます。
| 工程 | 点検項目 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 商品ページ | 返品特約が商品ページ・確認画面・メールで一致しているか | 特商法表記ページ、注文確認メールのテンプレート |
| 広告・集客 | 口コミ転載や比較表現に根拠と明示があるか | 商品ページ、SNS投稿、同梱チラシ |
| 契約・解約 | 利用規約に一方的な免責・返金不可の条項がないか | 利用規約、定期購入の解約フロー |
| 顧客データ | 委託先との契約に個人データの取扱いが書かれているか | 委託契約書、プライバシーポリシー |
| 外注・委託 | 支払いから手数料等を控除していないか、発注条件を書面で出しているか | 支払明細、発注書 |
| 物流・荷主 | 特定事業者に該当するか、運送取引の書面を交付しているか | 取扱貨物量の集計、運送契約書 |
ステップ3:委託先の対応状況も同じ表で確認する
出荷を委託している場合は、委託先がどのような安全管理や労務管理をしているかも、同じチェックリストの延長で確認します。見積もり段階での確認項目は発送代行の見積書の読み方に、契約更新時の見直しは物流契約見直しチェックリストにまとめています。在庫データの正確さは、リコールや出品削除が起きたときの対応速度を左右するため、EC在庫管理の基本もあわせて見直しておくと備えになります。
まとめ:法律は工程ごとに担当者を決めて追う
EC事業者に関わる法律は数が多く見えますが、仕入れ・商品ページ・広告・契約・顧客データ・出荷委託の6工程に並べ直せば、自社が点検すべき範囲は絞れます。2026年は取適法の施行、改正物流効率化法の全面施行、個人情報保護法の政令・規則の全体像の決定に加え、特商法と消費者契約法の中間取りまとめが確定し、10月31日まで意見募集が行われています。すでに施行されたルールは今日から、審議中の論点は運用の見直しとして、優先順位をつけて対応していきましょう。
出荷を外部に任せる場合は、委託先の監督や支払条件といった「委託で生まれる義務」も忘れずに押さえてください。発送代行の仕組みと選び方は発送代行の選び方の全体像、物流全体の設計はEC物流の全体像、STOCKCREWのサービス内容はSTOCKCREWのサービスと料金で確認できます。自社の状況に合わせた委託の範囲を相談したい場合はお問い合わせから、比較検討用の資料はサービス資料のダウンロードからどうぞ。
よくある質問(FAQ)
Q. ネットショップを始めるときに最低限必要な法律対応は何ですか?
A. 最低限そろえたいのは、特定商取引法に基づく表記、利用規約、プライバシーポリシーの3つです。特に特商法の表記では返品特約を明記してください。表示がないと、受け取りから8日以内であれば消費者の送料負担で返品できる前提になります。個人情報保護法は取扱件数にかかわらず適用されるため、規模の小さいショップでも対象です。
Q. EC事業者に関わる法律で、2026年に変わったものはどれですか?
A. 2026年1月1日に取適法(中小受託取引適正化法)が施行され、4月には改正物流効率化法が全面施行されました。8月26日には改正個人情報保護法の政令・規則等の全体像が決まり、9月10日には特定商取引法と消費者契約法の見直しの中間取りまとめが確定しています。2つの中間取りまとめの意見募集は10月31日までです。
Q. 返品特約に「返品不可」と書けば、不良品も返品を断れますか?
A. 断れません。返品特約は消費者都合の返品に関するルールで、不良品や誤配送への対応義務まで免除するものではありません。2026年9月の特商法の中間取りまとめでは、返品特約のみを理由に法令や契約上の権利がないと告げる行為を、新たに行政処分の対象とする方向が示されています。問い合わせ対応の定型文を点検してください。
Q. 発送代行に出荷を任せると、個人情報保護法上どうなりますか?
A. 送り状の作成に必要な購入者の氏名・住所などを委託先に渡すことは、本人の同意が不要な「委託」にあたります。ただし委託元には委託先を監督する義務が残るため、委託先の安全管理体制を契約前に確認し、委託契約書に個人データの取扱いルールを入れておく必要があります。
Q. 外注先への支払いから振込手数料を差し引くのは違反ですか?
A. 取適法の対象となる取引では、振込手数料を中小受託事業者に負担させることが禁止されています。2026年1月の施行以降は、合意があっても差し引くことは認められません。個人事業主への発注ではフリーランス法も関わり、業務内容・報酬額・支払期日などを発注時に書面や電磁的方法で明示する義務があります。
Q. 物流効率化法の中長期計画は、どのEC事業者が提出する必要がありますか?
A. 一定規模以上の荷主や物流事業者として「特定事業者」に指定された事業者が対象です。指定された場合は、事業所管省庁に対して10月末日までに中長期計画を作成し、電子システムで提出する必要があります。多くの中小規模のネットショップは指定の対象外ですが、取扱貨物量が大きい場合は該当するかを確認してください。
この記事の監修者
北川七重
株式会社KEYCREW 管理部門の責任者。IT業界でシステムエンジニアとして約10年間、客先常駐・受託開発に従事した後、KEYCREWに入社。経理・労務・採用を統括し、業務の標準化や体制整備を通じて管理部門の強化を推進している。販管費の約7%削減を実現するなど、単純作業の外部化と社内リソースの最適化により「戦略的に動く管理部」の構築を目指す。日商簿記2級および応用情報技術者の資格を保有し、経理の専門知識とITスキルを兼ね備えた視点でEC事業者の会計・税務・制度対応に関する情報を発信。「凡事徹底/積小為大」を信条に、正確さと信頼感を重視した記事を執筆している。